水分と血液の関係 水分補給で血液にもよい効果がある?
健康に関する話題やテーマはとても多くありますが、その中の一つとして「血液の粘度」があげられます。
これは「血液の健康度」とも呼ばれ、場合によってはサラサラ血液やドロドロ血液といった言葉で表現されることもあります。こういった血液の状態は、食事制限や運動管理といった要素から大きな影響を受けますが、水分補給もそれらと同様に、血液の状態に対して影響を与えています。
今回は、血液の働きや状態の呼び名を紹介するとともに、血液における水分の役割や両者の関係性についても解説をしていきます。
目次
血液の働き
私たちの体内には全長約10万kmの血管網が張りめぐらされており、その血管網を流れる血液量は一日あたり約8t(トン)と言われています。
とても長い血管網を流れる莫大な量の血液ですが、体内を1周する時間は1分とかかりません。この凄まじいスピードで流れ続ける血液は、心臓という強力なポンプ機能を使って、体の隅々まで酸素や栄養、ホルモンなどを運搬する重要な働きを持っています。
また、それらを運搬するだけではなく、老廃物や熱、過剰物質などを運びだして体外に排泄する働きも持っています。つまり血液の働きはいくつもあり、それらによって私たちの体内にある臓器や組織は機能しているのです。
不健康な血液(ドロドロ血液とは)
このように重要な役割を担っている血液ですが、健康や食品に関するテレビ番組などでは「血液がサラサラ」または「血液がドロドロ」と表現されているのをよく見聞きします。
この「ドロドロ」または「サラサラ」という表現言葉は、血液粘度の高低が直観的にわかる便利な言葉ではありますが、厳密な定義が存在しているわけではありません。また、医療従事者の方もよく使用されているようですが医学用語でもありません。特に、ドロドロという言葉に関しては、あくまでも病態を理解しやすくするための表現方法として使用されている言葉であり、一般的には次のような病態を表していることが多いようです。
・赤血球や白血球がうまく変形できず、毛細血管を通りにくくなっている状態
・血小板が必要以上に凝集して詰まっている状態
・白血球が粘着しやすくなっている状態
つまり、血液粘度が高かったり、不健康な血液状態のことを総称して「ドロドロ」と表現しているわけなのですが、最近ではこのような不健康な血液状態を、個別に「ギトギト」「ベタベタ」などといった言葉を使って表現している場合もあるようです。
ギトギト・・・中性脂肪やコレステロールといった脂肪分が過剰に流れている状態。原因は主に生活習慣によるもので、悪化すると脂質異常症を引きおこします。
ベタベタ・・・血液中を糖分が過剰に流れている状態。原因は主に生活習慣によるもので、悪化すると糖尿病を引き起こします。
ギトギト血液やベタベタ血液の状態が悪化すると、赤血球の膜が硬くなってくることがあります。そうなると、赤血球が持っている「赤血球変形能」という機能(自在に形を変形させる機能)が低下して、赤血球が細い毛細血管を通りにくくなります。それによって、血管内で赤血球が詰まってしまい、連なったような状態になります。これも、血液の流れが悪くなったドロドロ状態といえます。
血液と水分の関係
前述のとおり、いろいろな役割と状態をあわせもつ血液ですが、その成分の半分以上は「血漿(けっしょう)」と呼ばれる液体からできています。そして、この血漿という液体は91%が水分でできていますので、大まかに言えば「血液の半分は水分でできている」ということになります。
このことから、水分を摂取すると血液がよりサラサラになり、血流状態も良くなると考える人が多くいるようです。しかし、それはケースバイケースであり、特に水分充足状態(水分が足りている状態)における水分補給では、血流状態が向上するとは言えません。
通常、私たちの体からは汗や尿などで水分が排出されるため、その分の水分を補給することは必要です。水分を補給すると、その水分は体内に吸収されるため、補給前と比べると確かに血液の量は多くなったと言えます。しかし、それによって血流状態が「正常」になることはあっても、「向上」するということはなく、多すぎる水分はすぐに腎臓から排出されてしまいます。
なぜなら、私たちの体には「生体恒常性(ホメオスタシス)」という性質があるからです。これは「常に体を一定状態に保つ」という性質で、体に何らかの変化が起きたとしても、すぐに基の状態に戻そうとする力のことです。
私たちの体は、生まれつきこの性質を持っているため、水分補給によって血液の水分量(容量)が一時的に増えたとしても、不要な分はすぐに排出されて「常に一定に保たれる」ようになっているのです。したがって、水分充足状態における水分補給は、血液の循環とは関係がないといえます。
脱水による血液量の減少
しかしながら、通常私たちの体からは汗や尿などで水分が排出されているため、その分の失われた水分を補給することは「脱水」を防ぐ上でとても重要です。脱水によって体内の水分量が減少すると、血液量も減少し、それにあわせて血液濃度も高くなります。
このような時に水分補給をすると、濃くてドロドロしていた血液がサラサラの状態に戻り、体内の血液循環も正常になります。
脱水症状は炎天下での仕事やスポーツ、レジャーや野外活動をしているときなどによく発生します。活動に没頭するあまりに症状の進行に気がつかず、そのまま熱中症を引き起こして倒れることもありますので、注意が必要です。
本来、こういった環境に長時間いることはなるべく避けた方がよいのですが、現実には避けられない場合も多くあります。そんなときこそ、こまめに水分補給をすることが大切です。このような状況下では、まさに水分補給によって血液の循環を「正常に保つ」ことができると言えるでしょう。
日常における脱水
上記の項では、炎天下での仕事やスポーツなど、極端な環境下における脱水の危険性をお話ししましたが、脱水は日常の暮らしにおいても普通に起こりうるものです。たとえば、入浴中や睡眠中においても脱水は起こりますし、飲酒や病気(下痢や発熱など)でも、場合によっては脱水が引き起こされてしまうのです。
特に気をつけたいケースとしては、冷房や暖房がきいた部屋での長時間の滞在です。この場合、前者のケースとは異なり、大きなイベントやアクションがないために、本人が脱水に陥っていることに気づけない場合が多くあります。在宅勤務や自宅療養など、コロナ禍においては、このような環境条件は私たちのまわりに多くありますので、「先制飲水※」を習慣化し、十分に気をつけたいところです。
※参考文献「東北大学病院」より
https://www.hosp.tohoku.ac.jp/wp-content/uploads/2020/07/d5000-poster.pdf
特に注意すべき認知症患者の脱水
血液がドロドロになると、成人病や脳梗塞といった病気が発症するだけではありません。脳の覚醒水準が下がるため、身体の活動性は落ち、認知症の方であれば生活に問題となるような行動が出たり、意識障害が強く出ることもあります。
たとえば「脳の覚醒水準の低下」が起こると、尿意や便意が感じにくくなるため失禁をするようになったり、行動の抑制や情動の制御が難しくなったりすることがあります。また「身体の活動性」においては、歩行が不安定になったり、生活における基本動作にも悪影響を及ぼすことがあります。
これらのことは、認知症を患っていない方も注意すべき問題ではありますが、記憶力が低下している認知症の方においては特に多く出現する傾向があるため、介護従事者の方は十分に注意しておく必要があるでしょう。
さいごに
血管の中をサラサラと勢いよく流れる上質な血液をつくるためには、食事や運動などの徹底した管理が必要になってきます。しかし、水分補給においては「こまめに少しずつ飲む」といった、普通の飲水でも十分に効果が得られますので、ぜひ皆さんも毎日の暮らしに習慣として採り入れてみてはいかがでしょうか。
参考文献
日本高血圧協会「血管の全長は、なんと地球の約2周半!?」
https://ketsuatsu-support.com/hypertension/trivia/column11.html
みたに内科循環器科クリニック「高血圧」
https://mitani-naika.jp/hypertension.html
TBSテレビ:グッとラック!「一日一問!グッと身につく教養クイズ 「心臓から出た血液が一周する時間は?」2020年12月22日放送」
https://www.tbs.co.jp/guttoluck-tbs/corner/20201222_6.html
全薬工業株式會社「生活習慣を改善して 血液サラサラ・血管ピチピチに!」
https://www.zenyaku.co.jp/k-1ban/detail/kekkan.html
日本赤十字社「血液の基礎知識」
https://www.jrc.or.jp/mr/relate/knowledge/
健達ねっと「血液と水分の関係|水分補給で体調不良や病気を予防しよう!」
https://www.mcsg.co.jp/kentatsu/kaigo/2961
書籍「「血液」の知らない世界」未来の健康プロジェクト 編