乳幼児だけじゃない、大人も注意!「RSウイルス感染症」とは
皆さんは「RSウイルス感染症」という感染症をご存知でしょうか。
一般的には認知度の低い感染症かもしれませんが、「現在子育て中の方々」や「過去に子育てを経験したことがある方々」の間では、乳幼児にとっての大きな脅威として比較的知られている感染症なのではないでしょうか。
このRSウイルス感染症は、昔から主に「乳幼児」を引き合いに出して説明・警告されることが多いようですが、実はそれ以外の成人(特に高齢者)もこの感染症に対する知識を深め、警戒する必要があります。
今回はこの「RSウイルス感染症」の症状・動向・予防法などを、成人(特に高齢者)のケースも踏まえつつ、ご説明していきたいと思います。
目次
RSウイルス感染症とは?
RSウイルス感染症は、乳児から高齢者まで年齢を問わず感染する可能性がある「呼吸器の感染症」です。
乳幼児期における感染の確率としては「1歳までに半数以上、2歳までにはほぼ100%」と言われています。
そして、初感染時には肺炎や細気管支炎といった「重症化のリスク」があり、海外の報告によれば「乳幼児の死亡原因疾患としてはインフルエンザを凌駕している」とも言われています。
このRSウイルス感染症は、母体から受け継ぐ抗体だけでは完全に予防ができない為、生後数週間~数ヶ月の乳児への感染にはとても注意が払われています。
日本(本土)では毎年秋ごろから流行が始まり、11~1月にかけて感染のピークを迎え、春ごろまで続いていました。しかし近年では、徐々に流行時期が早まっており「2011年以降には7月頃から」、そして「2021年には4月頃から」感染者数の増加が見られるようになりました。
こういった季節外れの流行を繰り返してきた為、今日においてRSウイルス感染症は「通年性の感染症」という認識が世間では定着しつつあります。
RSウイルス感染症の症状は?
RSウイルスに感染すると、2~8日ほどの潜伏期間(一般的には4~6日間)を経て、発熱、鼻水、咳といった風邪のような症状が現れます。通常は1週間ほどで徐々に良くなっていきますが、症状が重い場合には咳が悪化するなどして気管支炎や肺炎へと進行することもあります。
厚生労働省によると、初感染の乳児の約7割は軽症で済むものの、残りの3割には喘鳴(ぜんめい:呼吸時にゼイゼイやヒューヒューなどと音が鳴ること)や呼吸困難症状などが見られるということです。
また、乳幼児の肺炎の約50%、細気管支炎の50〜90%はRSウイルス感染症によるものとの報告もあります。中でも生後1か月未満の赤ちゃんや低出生体重児、心臓や肺に基礎疾患のある乳児、免疫不全症の乳児などは重症化のリスクが高く、無呼吸発作や急性脳症などの合併症を起こすこともあるため、特に注意が必要となります。
RSウイルス感染症の感染経路や感染ホットスポットは?
感染経路は、「飛沫感染」と「接触感染」の2つです。
現在のところ、麻しんや水ぼうそうのような「空気感染(飛沫核感染)」は起こらないと考えられています。
【飛沫感染】
感染者のくしゃみや咳、会話の際に飛び散るしぶきに含まれるウイルスを吸い込むことによる感染
【接触感染】
ウイルスが付着した物をなめたり、それらを触った手で眼をこすったりすることによる感染
(RSウイルスは眼からも感染します)
乳幼児における主な感染ホットスポットは「保育園(幼稚園)」で、毎年のように集団感染が発生し、ニュースなどでよく取り上げられています。
高齢者の方における主な感染ホットスポットは「介護老人保健施設」が挙げられます。
上記2つの感染ホットスポット以外にも、幼児や成人が媒体となって家庭内にウイルスを持ち帰ることもある為、準感染ホットスポットとして「家庭内」も同様に注意が必要です。
RSウイルス感染症に感染した時の対処法は?
現在のところ、RSウイルス感染症にはワクチンや特効薬はなく、症状をやわらげる「対症療法」しか打つ手がありません。
軽症で自宅療養する場合には普通の風邪と同じように安静にして十分な栄養をとり、快復を待つことになりますが、重症で肺炎や呼吸困難症状などを起こしている場合には入院して治療します。
しかし、その治療内容は「酸素投与や輸液、呼吸管理」といった支持療法と呼ばれるものであり、あくまでも「対症療法」に過ぎません。ですので、RSウイルスに対しては、感染する前の「日々のしっかりとした予防」がとても重要になります。
抗体医薬「パリビズマブ(シナジス®)」とは?
パリビズマブ(商品名:シナジス®)は、2002年に国内で承認されたRSウイルスの「抗体医薬」です(※「ワクチン」ではありません)。
この抗体医薬の登場によって、早産児や慢性肺疾患児のRSウイルス感染症による入院率を優位に減らすことが報告されています。
接種対象は「RS ウイルス感染症の重症化リスクを有する乳幼児(ハイリスク乳幼児)」で、それら乳幼児に対する重症化の抑制を目的として広く使用されています。
【接種対象(ハイリスク乳幼児)】
・早産児
・気管支肺異形成症
・先天性心疾患
・免疫不全症
・Down 症候群
※適応(接種対象)の詳細や接種スケジュール(投与開始時期や投与期間)、その他最新情報等につきましては、専門の医療機関にご確認下さい。
現在、パリビズマブの接種は「ハイリスク乳幼児」に限られていますので、それ以外の方は下記の予防法を参考にして、感染予防に努めましょう。
・手指衛生(石鹸による手洗い・手指の消毒など)、うがい
・マスク着用(RSウイルスは眼からも感染すると考えられていますので、限られた効果しか期待できませんが、何もつけない状態よりはいくらか感染リスクを下げられます)
・咳やくしゃみ等の症状があらわれている人への近接を避ける
・日常的に触れる場所(ドアノブ・手すり・子供の玩具)の消毒(消毒剤:消毒用アルコール、消毒用エタノール、次亜塩素酸ナトリウムなど)
・免疫力を高め、感染症にかかりにくい体づくりをしておく
RSウイルス感染症は高齢者にとっても大きな脅威
冒頭でも少し触れましたが、RSウイルス感染症は乳幼児を引き合いにだして説明・警告されることが多い感染症ですが、実は高齢者にとっても「大きな脅威」となります。
私たちはこれから日本が向かえる「高齢化社会」の見地からも、十分にこのことを理解しておく必要があるのではないでしょうか。
下記の事例は、近年の介護施設における高齢者の集団感染事例の一部です。
【茨城県の介護老人保健施設】(2014年)
入所者34人と職員2人の計36人が集団感染。うち入所者2人(50代の女性、80代の男性)が肺炎などを併発して死亡。
【富山県の介護老人保健施設】(2017年12月~2018年1月にかけて)
RSウイルス感染症の集団感染が発生。入所者と職員の計49人が発症。うち入所者13人が肺炎などで入院。
【滋賀県の介護施設】(2019年11月~12月にかけて)
入所者13人と職員1人の計14人が集団感染。うち入所者2人(80代と90代の女性)が急性肺炎で死亡。
※上記3事例は初動対応に何らかの不備があって、集団感染が発生した可能性もあります。
加齢によって体の抵抗力(免疫力)が低下している高齢者は感染症にもかかりやすく、成人などと比べて重症化のリスクも高まります。
毎年冬になるとインフルエンザウイルス感染症の流行により高齢者の死亡者数が増えますが、実はRSウイルス感染症もインフルエンザウイルス感染症と同程度の肺炎発症が認められ、致死率も高いことがわかってきています。
鼻風邪と間違われやすいRSウイルス感染症
RSウイルス感染症は、幼児や成人になってからも繰り返し感染しうる感染症ですが、二度目の感染以降は軽症で済むことが多いようです(高齢者などを除く)。
その為、よく鼻風邪などと勘違いされてしまうことがあり、当人がRSウイルスの「感染者」になってしまったことに気づいていないケースもよくあります。
軽症で済むこと自体は、不幸中の幸いであり「当人」にとっては良いことと言えるでしょう。しかし、そのことによって行動が軽率になったり、無自覚に周りの人たちにRSウイルスをばらまいてしまう可能性も十分にありますので、軽症の時こそこのような可能性を考慮し、周りの人たちへの配慮を忘れないようにしましょう。
まずは自分自身の健康管理から
「身近なところに乳幼児や高齢者がいる場合」、もしくは「そういった場所に訪れる場合」には、まずは皆さん自身がRSウイルスの「媒体」にならないようにしなければなりません。
その為には正しい知識を学び、適切な行動をとることも大切ですが、何よりも「自分自身が健康でいること」が重要です。
そして、そのウイルスに負けない強く健康な体を保つためには「免疫力を高めること」が必須です。
皆さんは日ごろから「適度な運動」をやっていますか?「十分な睡眠」をとっていますか?「バランスのいい食事」をとっていますか?
もはや決まり文句のようになってしまったこれら「生活習慣の勘どころ」ですが、免疫力の向上を図りたい人にとっては「最強最高のゴールデンルール」ですので、決して侮ってはいけません。
そして近年、この「最強最高のゴールデンルール」に肩を並べる新たなゴールデンルールとして「腸活」が注目され、人気を博しています。
実はこの「腸活」、私たちにとってはとてもトレンディーな健康法になりますが、免疫学の世界では「人間の免疫細胞の約70%は腸に集中している」ということや「腸の状態を整える=免疫力の向上」ということは、かなり前から当たり前のように知られています。
つまり私たちが知っている「腸活」は、「長く評価され続けてきた信憑性のある健康法」と言うこともできます。
こういった「腸活」を毎日行うことによって、だんだんと腸の状態が整えられていき、その結果として「免疫力の高い、感染症にかかりにくい強い体」になっていきます。
「腸活」は続けることでその真価が徐々に発揮されていきますので、ぜひ皆さんも継続して取り組んで頂ければと思います。
さいごに
今回はRSウイルス感染症についてご説明させて頂きましたが、「日々の衛生管理」や「免疫力の向上」においては新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスによる感染症も同様のことが言えます。
「体づくりを始めとする感染予防」をしっかり行っていくことで、自身が健康でいられるだけではなく、周りの大切な人たちの罹患リスクも下げることができます。
「大切な人を守る」という観点からも、しっかり取り組んでいきたいものですね。
※この記事は必ずしも最新の知見を提供するものではありません。
また、個別の診断や治療については医療機関へご相談ください。
参考文献
ベビースマイル赤ちゃんの健康情報(小児科・思春期科 河島尚志教授 監修)
https://www.babysmile-info.jp/community/rs-sids/
厚生労働省「RSウイルス感染症Q&A(平成26年12月26日)」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/rs_qa.html
国立成育医療研究センター「RSウイルスが流行しています、ご注意ください!!」
https://www.ncchd.go.jp/news/2021/200727.html
NIID国立感染症研究所「IDWR 2021年第13号<注目すべき感染症> 直近の新型コロナウイルス感染症およびRSウイルス感染症の状況」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-idwrc/10309-idwrc-2123r.html
NIID国立感染症研究所「IDWR過去10年との比較グラフ(週報) -RSウイルス感染症 RSV Infection -」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1661-21rsv.html
NIID 国立感染症研究所「RSウイルス感染症とは」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/317-rs-intro.html
NIID国立感染症研究所「小児科領域におけるRSウイルス感染症」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2296-related-articles/related-articles-412/4708-dj4122.html
東京都感染症情報センター「RSウイルス感染症 Respiratory syncytial virus infection」
http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/rs-virus/
医療法人社団愛友会 千葉愛友記念病院「シナジスのご案内」
https://chibaaiyu-kai.com/topics/pdf/synagis.pdf
国保中央病院「シナジス注射のご案内」
https://www.kokuho-hp.or.jp/relation/relation1/116
埼玉県秩父郡横瀬町ホームページ「RSウイルス感染症に注意しましょう」
https://www.town.yokoze.saitama.jp/kosodate-kyoiku/kenko-kenshin/189
サラヤ株式会社 Dr.ヨコヤマコラム「第178回:RSウイルス感染症、介護施設で集団感染、死者が発生。感染予防対策」
https://pro.saraya.com/fukushi/column/dr-yokoyama/backnumber/178.html
ビオフェルミン製薬株式会社「腸内フローラと腸管免疫の関係」
https://www.biofermin.co.jp/nyusankin/chonaiflora/relation/
書籍:金原出版「小児科2018年04月号:あらためて見直すRSウイルス感染症」