水の比熱はどのくらい?比熱と熱容量の違いも解説
今回のテーマは「水の比熱」です。比熱という言葉は、高校時代に物理が得意だった人や、危険物取扱者という国家資格を狙っている人にとっては特別な言葉ではありませんが、一般的にはあまり聞きなれない言葉ではないでしょうか。
また「比熱」という言葉を聞いて、最初に連想するのが「温度の一種でしょ?」なんて思われる方もいくらかおられるかもしれませんが、比熱は温度の一種ではありません。私たちが日常において熱という言葉を使用する場合、温度と同じ意味で使用することが多いと思われますが、物理で使用される熱という言葉の意味は、それとはまったく異なります。
今回は水の比熱について説明するにあたり、まずは物理の視点における「熱」の捉え方を簡単に説明し、さらに「熱容量との違い」などについても、あわせて説明をしていきたいと思います。
目次
比熱とは
皆さんへ比熱の定義をお伝えする前に、まずは「熱」についての簡単な説明をしたいと思います。
私たちは日ごろ、「熱」と言う言葉を「温度」と同じ意味で使用することが多いと思います。
・「今日は熱があるので、学校を休みます」
・「高熱のフライパンを触って、火傷をしてしまった」 など
しかし、物理における熱とは温度のことではなく、分子の運動エネルギー(分子運動の激しさ)を意味しています(以下エネルギーと呼ぶ)。
たとえば、いくつもの小さい粒々がブルブルと震えている状態をイメージしてみて下さい。これらの小さい粒々が「物質を構成する分子」になるわけですが、この分子の震えが大きい状態を物理では「熱が大きい」と表現し、震えが小さい状態を「熱が小さい」と表現しているのです。
【分子などが激しく震えている状態 = 熱が大きい】
【分子などがあまり震えていない状態 = 熱が小さい】
「熱=温度」という一般的な既成概念を取り払い、上記のようなイメージを形成することができれば、比熱や熱容量などをぐっと理解しやすくなります。
それではここで、一般的に知られている「比熱の定義」について触れてみることにしましょう。
【比熱 = ある物質1gの温度を1℃上げるのに必要なエネルギーの量】
この定義を見ても、ピンとこない場合には次の例題を見てみて下さい。
【例題:比熱が大きいのは、物質A?物質B?】
・1グラムの物質Aの温度を1℃上げるには、50エネルギーが必要
・1グラムの物質Bの温度を1℃上げるには、100エネルギーが必要
この場合、物質Aよりも物質Bの方が「比熱が大きい物質」ということになります。そして「比熱が大きい物質」とは、次のようなことを意味しています。
【比熱が大きい物質】
・温度を上げるには多くのエネルギーが必要になる物質
・温度が上がりにくい物質(温めにくい物質)
・温度が下がりにくい物質(冷めにくい物質)
・温度変化しにくい物質
※「比熱が小さい物質」は、上記とは逆の性質を持つことになります。
どうでしょう?比熱のイメージは何となくでも掴めてきましたでしょうか。比熱は「熱容量(次の項で解説)」を算出する際の乗数としても使用されていますが、上記のように様々な物質の「温度変化のしにくさ・しやすさ」を相対的に見比べる際の指標としても使用されているのです。
上記の【例題】では、比熱の単位を便宜上「50エネルギー」や「100エネルギー」といった形で表現しましたが、正しい比熱の単位は「J/(kg・K)」または「J/(g・K)」になります。この2つの単位の呼び方は、いくつかの候補がありますが、特に正しい呼び方が決まっているわけではありませんので、人や書籍などによって呼び方が異なります。
【「J/(kg・K)」の呼び方 】
→ジュールパーキログラムケルビン
→ジュールパーキログラムパーケルビン
→ジュール毎キログラムケルビン
→ジュール毎キログラム毎ケルビン
J(ジュール)・・・・仕事量
kg(キログラム)・・・質量(重さ)
K(ケルビン)・・・・絶対温度(≒℃)
J/(g・K) の場合、キログラムをグラムにかえて呼ぶ
比熱と熱容量の違い
比熱とよく似た定義を持つものに「熱容量」というものがあります。言葉自体は似ていませんが、定義文はとてもよく似ています。そのため、物理学や熱力学の初学者はここで少しつまずくことが多いようです。
比熱と熱容量、両者の定義にはどのような違いがあるのでしょうか。さっそく見比べてみましょう。
【比熱 = ある物質1gの温度を1℃上げるのに必要なエネルギーの量】
【熱容量 = ある物体の温度を1℃上げるのに必要なエネルギーの量】
どちらも「温度を1℃上げるのに必要なエネルギーの量」という部分は同じですので、どちらも「ある対象物」の温度変化のしにくさ(しやすさ)を表す指標であるということは共通しています。
ただ、比熱の定義が「ある物質1gの温度…」で始まるのに対し、熱容量の定義は「ある物体の温度…」で始まっています。この違いをイメージで説明すると、次のようになります。
・比熱の対象物は「一つの点 = 物質1g」
・熱容量の対象物は「点の集まり全体 = 物体」
仮に対象物が「フライパン」とした場合、その原材料は「鉄」だけではありませんよね。取っ手には「木」、塗料には「フッ素樹脂」など、いろいろなものが組み合わさって一つの「製品(物体)」として形を成しているわけです。
このように、「鉄」という物質以外にも「木」や「フッ素樹脂」などの別の物質(別要素)が加わった場合には、「物質単体」の必要エネルギー量を表している比熱という指標だけでは、どうしてもフライパンという物体の必要エネルギー量を表すことができないのです。このような理由から熱容量は、比熱とは別に、必要な概念(指標)として存在しているのです。
主な物質の比熱を比較
私たちはよく「熱しやすく冷めやすい人だ」などといった言葉で、他人の趣味や恋愛に対する入れ込み度合いを表現することがあります。その度合いは人によって様々で、中には「熱しにくく冷めにくい人」もいるわけですが、これは物質においても同じことが言えます。
物質もそれぞれ異なる比熱を持っており、熱しやすく冷めやすい物質もあれば、そうでない物質もあります。
それでは、物質によってどれくらい比熱が異なるのかを見比べてみましょう。
【いろいろな物質の比熱:単位:J/(g・K)】
・水 [0℃] 4.217
・氷 [-1℃] 2.100
・アルミニウム [0℃] 0.880
・鉄 [0℃] 0.435
・銅 [0℃] 0.379
・黄銅 [0℃] 0.387
・銀 [0℃] 0.235
・水銀 [0℃] 0.140
・鉛 [0℃] 0.129
・木材 [20℃] 1.250
・ポリエチレン [20℃] 2.230
・ガラス [10~50℃] 0.670
※上記の値は参考値です
ここで着目して欲しいのが「水」と「氷」です。物質が同じであるにもかかわらず、比熱が異なっています。これは物質の状態や温度などがかわると、比熱も変わるということを意味しています。
そして、もう一つ着目すべき点は「水」の比熱が、他の物質と比べて圧倒的に大きいという点です。水には特筆すべき様々な性質がありますが、「比熱が大きい」のもその一つです。あまり実感はないかもしれませんが、実は「水の比熱の大きさ」は、私たちの暮らしや社会、産業などにも大いに活かされているのです。
水の冷却能力が高い三大要素
水は私たちにとって最も身近でありふれた物質の一つです。しかし意外に感じられるかもしれませんが、水は他の物質と比べて非常に特別な性質をもった物質なのです。
【水の特質】
・固体の氷の方が液体の水よりも体積が大きく軽い
・融点、沸点が高い
・分子どうしを結びつける力が強い
・表面張力が大きい
・比熱が大きい
・蒸発熱が大きい
・熱伝導率が高い
・いろいろな物質を溶かす など
このように水には沢山の特質があり、その特質を活かした技術や製品は私たちの身の回りに多くあります。例えば、水の冷却能力を活かした「水冷システム」は、パソコンや車、大規模ビルの空調などに導入されています。
では、この「水の冷却能力」は、一体どのような水の特質が活かされているのでしょうか。それぞれの特質について見ていきましょう。
①比熱が大きい
水は他の物質と比べて圧倒的に比熱が大きい物質ですので、例えば、燃焼物などに水をかけると、水温が上昇して沸騰するまでに、その燃焼物から沢山の「熱を奪う」ことができるのです。
②蒸発熱が大きい
蒸発熱とは、液体の物質が気体になるときに周囲から吸収する熱のことです。水の蒸発熱は他の物質の蒸発熱よりも圧倒的に大きいため、その分、蒸発する際に周りから多くの「熱を奪う」ことができるのです。夏場、道路などに「打ち水」をするのはこのためです。
③化学的に安定している
水は加熱しても「別の物質」に変化することがない物質です。また、他の物質を著しく腐食させる危険性が少ない物質でもあるため「冷却媒体」に適しています。これらも間接的ではありますが「水の冷却能力の高さ」に貢献していると言えるでしょう。
さいごに
水の惑星と呼ばれる地球にはとても多くの水が存在していますが、もしも水の比熱が小さければ、地上は日の出によって灼熱地獄となり、日の入りによって極寒地獄となるでしょう。
また、私たちは運動や食事、外気などによって体温が上昇する生き物ですが、もしも水の比熱が小さければ、血液中の水分温度が上昇して、私たちは生きられなくなります。つまり、私たちは「水の比熱の大きさ」という特質によって生かされているといっても過言ではありません。
上記にもある通り、水には他にも様々な特質があります。それらの特質が私たちの暮らしにどのように活かされているのか、この機会に一度調べてみるのも面白いかもしれません。
参考文献
大阪教育大学「比熱[熱の基本押さえよう]」
https://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~masako/exp/netuworld/syoutai/hinetu2.html
Study-Z ドラゴン桜と学ぶWebマガジン「もう迷わない!比熱と熱容量の違いについて理系ライターがわかりやすく解説」
https://study-z.net/13733/2
株式会社アピステ「“なぜ”冷却に水を利用するのか」
https://www.apiste.co.jp/pcu/technical/detail/id=4059
書籍「みんなの水道水」アクア・ライフ・フォーラム21著