水を飲み過ぎるとどうなる?水中毒の症状や正しい飲み方について
水は私たちの体の中に多く存在し、とても重要な役割を担っています。髪や素肌に対しての刺激が少なく、沢山の料理にも使われている水は、私たち人類にとって非常に親和性が高い物質ですが、その反面で、水は過剰に飲むことで人体に様々なデメリットをもたらす物質とも言われております。
今回は水の過剰摂取がもたらす「水中毒」というデメリットと、それらを予防する正しい水の飲み方についてご紹介していきます。
目次
健やかな体を保つため、水を飲むことは必要不可欠
毎日きちんと水を適量飲むことは、健やかな体を保つためにとても重要なことです。この飲水の習慣によるメリットは、厳密には数えきれない程の数がありますが、大きく捉えると「脱水症の予防」が主なメリットの1つと言えるでしょう。
私たちは毎日、尿や便、汗や呼吸などによって約2.5ℓの水分を排出(排泄)しています(一般的な成人の安静状態における水分排出量)。排出される量が2.5ℓであるということは、摂取する量も2.5ℓでなければ、体内水分量の収支バランスが崩れ「脱水症」を引き起こすことになります。
【1日の水分摂取量 2.5ℓ 】
・食べ物から摂取する水分・・・ 1.0ℓ
・体内でつくられる水分(代謝水)・・・0.3ℓ
・飲み水から摂取すべき水分・・・ 1.2ℓ
【1日の水分排出量 2.5ℓ 】
・尿や便・・・ 1.6ℓ
・汗や呼吸・・・ 0.9ℓ
脱水症は、排出量と同量の水分を補給することができなかったり、短時間に大量の汗をかいたり、下痢や嘔吐によって体内水分量が減少したりすることによって引き起こされます。そして、脱水症の症状は水分の減少度合いによってそれぞれ異なりますが、最悪の場合には死亡することもあるのです。
【脱水症の症状】
・体重の2%の水分減少──のどの渇き、運動能力が低下し始める
・体重の3%の水分減少──強いのどの渇き、ボンヤリ感、食欲不振
・体重の5%の水分減少──疲労感、頭痛、めまい、熱中症の症状
・体重の10%の水分減少──筋肉の痙攣、意識障害
・体重の20%の水分減少──死亡の可能性
発汗、下痢、嘔吐などによって血液中の水分量が減少すると、体内では「細胞外液」と「細胞内液」の移動によって、循環機能に支障をきたさないような体液を維持するための調整が行われます。
しかし、水分補給を行わず脱水が進んだ場合、細胞外液の1つである血液が濃縮され、循環機能の不全を起こし、「酸素や栄養素の運搬」や「体温調節」に重篤な障害を起こしてしまうことがあります。
このようなリスクを抑えるという観点からも、毎日きちんと適量の水分を摂取するということは、私たちにとってとても大切なことなのです。
水を飲み過ぎた場合はどうなる?
水を飲むことの重要性は上記に述べたとおりですが、だからといって、過剰に水を飲むことは人体にとって決していいことではありません。時として危険な病態を引き起こすこともあるのです。
実際にアメリカのカリフォルニア州に住む28歳の女性が「水飲みコンテスト」で水を大量に摂取した結果(3時間に約6リットルの水を摂取)、「水中毒」になって亡くなった事例があります。このような事例は決して珍しいものではなく、他にも似たような事例がいくつも報道されています。
水中毒とは?
上記の水飲みコンテストで亡くなった女性は、亡くなる前には嘔吐したり、ひどい頭痛症状が出ていたようです。このような水分の過剰摂取によって身体にあらわれる症状群を「水中毒」といいます。
水中毒の原因は、一般的には多飲症※などにより腎臓の処理能力を超えた水分量を急激に摂取することで、細胞がむくんだり、血液が希釈されてしまうことにあります。特に、血液中のナトリウム濃度が減少する「低ナトリウム血症」という病態が一般的には水中毒の主な原因として知られています。
そして、ナトリウムという物質はいわゆる塩分のことを指していて、私たちは主に食事などから摂取をしています。このナトリウムは、血液や細胞内外の体液バランス(浸透圧)を調節したり、神経内で情報を伝達する重要な働きをもっているため、体内でナトリウムの濃度バランスが崩れると、様々な症状が現れてしまうことになるのです。
※多飲症…統合失調症を中心とした精神疾患発症後、5-10年経過した慢性期にみられることが多い病態で、妄想や強迫観念などさまざまな原因により、体重が明らかに増加し日常生活に支障を来たすほど水を飲んでしまうことを言う。決して珍しい病態ではなく、精神科に長期入院している患者の20%前後が多飲症を併発しているとも言われる。 引用:医学書院「多飲症・水中毒治療の新機軸(松浦好徳)」 https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2010/PA02867_03 |
水中毒で起こる体の不調・症状
水中毒という言葉はいくつかの症状を含んでいる「総称」です。具体的な症状としては、次のようなものが挙げられます。
【水中毒の進行段階】
[軽度]
▼ 軽い疲労
▼ 頭 痛
▼ 嘔 吐
▼ 錯 乱
▼ 痙 攣
▼ 昏睡状態
▼ 呼吸困難 など
[重度]
水中毒を防ぐ!水の正しい飲み方とは?
上記のような水中毒を防ぐためにも、私たちは適度な量の水分を適切なタイミングで摂取する必要があります。
しかし、厳密にいうと「適度な量の水分」に関しては人によって違いがあり、その人の「年齢・性別・身長・肥満度・健康状態・運動量」などによって調整する必要があります(他にも「季節・気候・住環境・職場環境」といった外部要素も考慮すべきポイントとして挙げられます)。
次のガイダンスは一般的な成人が安静状態にある場合、「どれくらいの水分量」を「どのようにして飲むとよいか」を示したものです。これらを一つの基準にして、水分量を調整しつつ、ご自身にあった飲水習慣を見つけてみてはいかがでしょうか。
■飲み水による水分摂取は1日1.2~2ℓまでにおさめる →前述のとおり、常態時に「飲み水」から得るべき水分量は1.2ℓが目安であるため ■一度に飲む量をコップ1杯程度(200㎖程度)にし、それをゆっくり飲む ■起床から就寝までの間、7~8回に分けて飲む ■口内の渇きなのか、のどの渇きなのかを見極める |
水をついつい飲み過ぎてしまうという方は、あらかじめメモリ表示がついた「2ℓサイズのポット」や「コップサイズのポット」を購入して活用するのも有効的です。
また他にも「低ナトリウム血症」が疑われる場合には、水のかわりに経口補水液やスポーツドリンク、塩アメや梅干しなどを活用するのも有効的です。
さいごに
水は私たちが恩恵を受けない日は一日としてないと言えるでしょう。ただし、メリットの多い水も過剰に摂取すれば体に害を及ぼします。適量をしっかり摂ることで健康や美容に大きく貢献する物質です。
恵みの雨も降り過ぎれば河川の氾濫が起こりますし、植木への水やりもやり過ぎれば根腐れをおこします。そして人間にとって必要不可欠な空気(酸素)でさえも、吸い込みすぎると「過呼吸症候群」が発症し、痙攣や失神を起こしてしまいます。
これらの例示は、私たちに「適量」や「バランス」の重要性を示唆しているようにも思えます。食事法や運動法など、私たちが行うすべての健康活動は、実はこの「中庸」の上に成り立っているものなのかもしれませんね。
中庸(ちゅうよう)…過不足がなく調和がとれていること
参考文献
厚生労働省「「健康のため水を飲もう」推進運動」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/nomou/index.html
SCIENTIFIC AMERICAN「Strange but True: Drinking Too Much Water Can Kill」
https://www.scientificamerican.com/article/strange-but-true-drinking-too-much-water-can-kill/
からだにいいこと「水の飲み過ぎは1日何リットルから?症状と適切な量を解説」
https://www.karakoto.com/25203/
大塚製薬「もしも身体の水分がなくなったら」
https://www.otsuka.co.jp/nutraceutical/about/rehydration/water/dehydration-signs/
公益財団法人 健康長寿ネット「脱水」
https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/undou-shougai/dassui.html
書籍「水分の摂りすぎが病気をつくる」石原結實 著
書籍「みんなの水道水」アクア・ライフ・フォーラム21著