免疫力を高めるには?健康的な生活習慣について解説
書籍のタイトルやコマーシャルなどでよく見聞きする「免疫力」という言葉。
特に近年は、新型コロナウイルスに関するニュースなどでも頻繁に使用されています。なんとなく病気に強そうなイメージはありますが、具体的にはどのような「力」なのでしょうか。
今回は、私たちの体にとって重要な働きをもつ「免疫(力)」について解説をしていきたいと思います。
目次
免疫とは【主な働き】
免疫とはウイルスや細菌などが体内に侵入してきたときに、それらと戦って体を守る「生体防御システム」のことをいいます。
このシステムの主なターゲットはウイルスや細菌などになりますが、自分の細胞が変化してできた「がん細胞」に対しても同じように作用します。
主な働きは次のとおりです。
①感染の防衛(インフルエンザなどの感染を防止)
②抗体の産生(はしか等に再びかからないのは抗体ができるため)
③異物の識別(自分の細胞と異なるものとを区別する)
④健康の維持(疲労や傷、ストレスからの回復・改善)
⑤老化の予防(新陳代謝を活性化。細胞組織の老化防止)
⑥ガンの予防(ガン細胞を見つけて、攻撃・排除する)
免疫は私たちの健康を守る重要な「システム」なのです。
免疫力とは【「免疫力を上げる」とは】
よく使用される言葉に「免疫力」という言葉がありますが、これは造語です。
そもそも免疫はシステムを表している言葉ですので、その「システム」に「力(ちから)」をつけくわえるという発想自体、少々ムリがあるようにも思われます。
一般的には「病気にかかりにくい体の強さ」を表す言葉として認知されているようですが、造語ですので科学的な定義や指標は存在しません。
書籍のタイトルやコマーシャルなどでは、よく「免疫力を上げる」という表現も見聞きしますが、免疫はシステムであるということを考えれば、
【免疫力を上げる=システムを正常にする(システムを安定的に機能させる)】
と解釈した方が良いのかもしれません。
この記事でも「免疫力」といった言葉は出てきますが、「免疫はシステムである」ということを念頭に置きつつ、読み進めて頂ければと思います。
免疫力の仕組み【免疫細胞と呼ばれる白血球】
上記の通り、免疫はウイルスなどから体を守る「生態防御システム」です。
このシステムを担当しているのは、主に血液中にある白血球です。そのため白血球は「免疫細胞」とも呼ばれています。白血球は単独のものではなく数種類の細胞から組成されており、それらの細胞は以下の3つに大別することができます。
・単球
・顆粒球
・リンパ球
免疫はこれらの免疫細胞が互いにバランスを保ち、密接に連携しながら働くことで、はじめて成り立つ生体防御システムなのです。そして、この生体防御システムは「免疫監視機構」とも呼ばれ、その監視構造は「自然免疫」と「獲得免疫」の2段構えになっています。
自然免疫(先陣の戦士たち)
自然免疫は、ウイルスや細菌などの外敵が体内に侵入してきた際、最初に戦ってくれる戦士たちです。
その中でも大きな活躍を見せるのが「好中球」と「マクロファージ」という2大戦士です。彼らは常に体内を巡回していて、気になるものを見つけると、まずはそれが同胞(自分の細胞)なのかどうかを大まかに識別します。それが外敵だと判断された場合には、はじめに好中球が外敵を攻撃します(食べにかかります)。
しかし外敵があまりに強く、好中球で処理しきれないような場合には、マクロファージが出てきて攻撃します(食べにかかります)。マクロファージは「大食細胞」と呼ばれるくらい強い戦闘力(貪食能力)をもっています。
しかし最強というわけではなく、敵わないと判断した場合には本陣(獲得免疫)に外敵の情報を送りつつ、応援を要請します。
獲得免疫(本陣の戦士たち)
マクロファージから外敵の情報と応援の要請をきいた「ヘルパーT細胞」は、本陣(獲得免疫)の仲間たちに応援の要請を伝達すると同時に、自身で外敵の情報をこまかく分析し始めます。
応援の要請を受けた本陣からは、主に「キラーT細胞」や「B細胞」が戦闘現場に向かいます。
その道すがら、外敵の分析を終えたヘルパーT細胞は、外敵に最もダメージを与えられるミサイルの種類(抗体の種類)をB細胞に教えます。
ミサイルの種類を教えてもらったB細胞は、すぐにミサイルの生産に入ります。
戦闘現場についてみると、すでに多くの細胞が外敵に侵食されています(細胞内に入り込まれています)。
キラーT細胞は侵食されている細胞を攻撃し、その中にいる外敵を追い出します。
追い出された外敵たちに対して、B細胞は自身が生産した「抗体ミサイル」で追撃をします。
キラーT細胞やB細胞の奮戦によって、外敵は全滅しました。
しかし、キラーT細胞とB細胞はまだ興奮状態で猛り狂っています。
それをみた「サプレッサーT細胞」は、彼らに近づき「戦いは終わった」となだめます。
戦いが終わると、戦士たちは横たわる外敵の顔をじっとみて、脳裏に焼き付けます(免疫記憶)。
こうすることで、再び同じタイプの外敵が侵入してきた時に、識別や分析のスピードが速くなり、外敵が暴れ出す前に倒すことができるのです。
これがいわゆる「免疫がついた」状態で、おたふく風邪やはしかなどに繰り返しかかっても、重症化しないのはこのためなのです。
[備考] 免疫には上記にあげた免疫細胞以外にもいくつかの種類があり、外敵に対する作用のしかたも様々です。ここでは主な免疫細胞だけをとりあげ、概略的に説明をしています。免疫力が下がる原因
免疫力が下がる(免疫のシステムが十分に機能しなくなる)主な原因は、次のとおりです。
・加齢
・喫煙
・メンタルストレス
・過労
・睡眠不足
・栄養不足
・運動不足
免疫のシステムが十分に機能しなくなると、感染症にかかりやすくなるだけではなく、体内で封じられていた病原体が再活性することもあります。たとえば、目の隔膜やくちびるにあらわれるヘルペス、体の片側にあらわれる帯状疱疹などが有名です。
また、免疫力が下がる原因としては他にも「AIDS(後天性免疫不全症候群)」や「医原性免疫不全」なども挙げられます。医原性免疫不全についてはあまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、これは医療行為が原因で生じた免疫不全のことをいいます。たとえば、臓器移植の際には「免疫抑制剤(シクロスポリンなど)」を使用してT細胞の活性を特異的に抑えるのですが、それによって免疫の機能が低下してしまうことも「医原性」によるものだといえます。
このように免疫は、さまざまな要素から影響を受けると同時に、さまざまな要素へ影響を及ぼしうる複雑な関係性を持ったシステムなのです。
免疫がおかしくなってしまうこともある
免疫には異物の識別(自分の細胞と異なるものとを区別する)をする機能があります。この「異物の識別」が正しく行われない状態、いわゆるバグを起こした状態が「自己免疫」です。
つまり、自分の健康な細胞を敵とみなして攻撃してしまうわけです。この時、免疫は非常に「活性化している」のですが、完全に敵を見誤っているため、ターゲットとなった臓器などはたまったものではありません。
このような状態が示すとおり、免疫は単に「活性化(パワーアップ)させればいい」といったものではありません。上項でも説明したとおり、免疫をシステムとして捉え、安定的に機能させることがとても重要なのです。
免疫力を高める習慣
免疫のシステムを安定的に機能させるには、なによりも「健全で規則的な生活」をおくることが重要です。
つまり、上項(『免疫力が下がる原因』)で挙げた要因とは逆の習慣を身につける必要があります。
・メンタルストレス ⇔ ストレスを発散する
・喫煙 ⇔ 禁煙する
・過労 ⇔ 休養をとる
・睡眠不足 ⇔ 睡眠をとる
・栄養不足 ⇔ バランスよく栄養をとる
・運動不足 ⇔ 軽めの運動を行う
巷では、免疫力を上げる食品(食材)やテクニックなどがたくさん紹介されていますが、それらはあくまでも二次的なものです(ワクチンなどの医療行為は別ですが)。これらをないがしろにするわけではありませんが、二次的なものをいくら行っても、基礎となる生活習慣が乱れていては本末転倒です。正しい生活を継続的に行えば、特殊なことをしなくても免疫システムは徐々に整っていきます。
ただ、正しい生活をおくる上でポイントとなることが1つあります。それは「自分を甘やかし過ぎない」ということです。たとえば、ストレス解消のためにゲームを延々とやったり、休日に睡眠や休養をとりすぎることは正しい生活習慣とはいえませんし、免疫にも悪い影響を及ぼします。
また、栄養をたくさんとるために、お腹一杯になるまで食べたり(間食したり)することも良くありません。肥満のリスクを高めますし、最終的にはそれが原因で免疫機能が低下してしまうこともあるからです。なにごとも「八分目」ほどに抑えて「自分を甘やかし過ぎない」ことが、免疫を整える上で重要なポイントになるのです。
人体最大の免疫器官は「腸」
免疫の話をする上で欠かせないのが「腸の重要性」です。
腸には全身の免疫機能の約7割が存在しています。その理由は、腸が「外界と繋がっている器官」だからです。
食事をする際、私たちは口から食べ物を体内に入れますが、その食べ物と一緒に外敵(ウイルスや細菌など)も体内に取り込んでいます。多くの外敵は胃酸によって殺されますが、いくつかの強い外敵は生きたまま腸へ向かうことになります。この時、もし腸の免疫機能が高くなければ、私たちの体は外敵がもつ毒性によって、あっという間に侵されてしまいます。
要するに、外敵が体内を巡ったり増殖したりするのを事前に防ぐためには、たくさんの免疫細胞が腸に集まっている必要がある、というわけです。
腸の重要性については、他にもダイエットや美容の話題などでもよくとりあげられています。
また、近年の研究では「脳腸相関(脳と腸の相互関係)」についての新たな発見もたくさん報告されていて、メンタルストレスの感受性にも大きな影響を与えていると言われています。
ダイエット、美容、ストレスの抑制・・・。
これらのことは腸の免疫とも関係があり、共通して言えることは「腸内ケアが大切」ということです。
※腸内ケアについては、コチラの記事でも詳しく解説をしています。腸内環境の重要性や腸内細菌の働きなどについても学べますので、ぜひ一度読んでみて下さい。
「腸内環境ってどんなもの?悪化の原因や腸内環境を整える方法を徹底解説」
https://www.nihon-trim.co.jp/media/28425
さいごに
新型コロナウイルスの出現によって、私たちの暮らしは大きく変化しました。ほとんどの施設ではアルコール消毒液がおかれ、入室(入店)の際にはマスクの着用と検温が求められます。また、ソーシャルディスタンスが推奨され、アクリルのパーテーションがたてられ、手洗いやうがいの頻度も依然と比べて圧倒的に多くなりました。
しかし、これだけウイルス感染を意識している割には、腸内ケアはおろそかになっていることが多いようです。なんらかのツールを使って感染予防をすることはとても大事なことですが、胃腸に何かしらの症状を抱えたまま、感染予防だけに注力するのも如何なものかと思います。
本質的なところを考えた場合、まずは免疫の要である「胃腸」を健康にし、自分の免疫を整えることも同じくらい大事ではないでしょうか。手洗いやうがい、マスクの着用をする際には、ぜひ「腸内ケア」も思い出して頂けたらと思います。
参考文献
クロスイノベーションイニシアティブ(大阪大学xii)「第2回 大阪大学 健康・医療クロスイノベーション免疫セミナー「免疫力とは?」」
https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/xii/events/22
Wedge ONLINE「新型コロナ予防に乳酸菌は効くか?エビデンスを見極める」
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/19686
自然免疫応用技研株式会社「やさしいLPS 自然免疫・獲得免疫とは?わかりやすく免疫の仕組みを解説します!」
https://www.macrophi.co.jp/special/1435/
Yahoo!ニュース「「免疫力」という言葉が不適切な理由…「トンデモ」健康情報に踊らされないために」
https://news.yahoo.co.jp/byline/minesotaro/20200707-00186949
コスモス薬局「コスモス”食通信”No.230」
http://www.reliance-cosmos.co.jp/cms/wp-content/uploads/2018/01/食通信No.230%E3%80%80免疫力.pdf
WHO「たばこのからだ」
https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/324846/WHO-NMH-PND-19.1-jpn.pdf
株式会社DHC「ビタミン免疫ラボ:テレワークによる運動不足で免疫力が低下!- 免疫体操とビタミンで病気知らずに!」
https://top.dhc.co.jp/shop/health/vitamin_lab/article/04/index.html
東京女子医科大学病院 腎臓内科「免疫抑制薬」
https://www.twmu.ac.jp/NEP/menekiyokuseiyaku.html
書籍「最新版 気になる免疫力がみるみる高まる大百科」主婦の友社 編