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ファイトケミカルとは?種類や効果的な摂取方法について解説

リコピン、ポリフェノール、アントシアニン、イソフラボン──。

近年こういった成分の効果・効能がよく話題になっていますが、その多くが「ファイトケミカル」と呼ばれる物質です。ファイトケミカルは主に野菜に含まれており、ガンや生活習慣病を予防し、老化の予防などにも一役買っています。野菜には食物繊維やビタミン以外にも、こういった有用なポテンシャルがたくさん秘められています。

今回はファイトケミカルの種類や効能、効果的な摂取方法などについて説明をしていきたいと思います。

ファイトケミカルとは【第七の栄養素】

phyto-chemical(ファイトケミカル / フィトケミカル※1)は、「植物性化学物質」と訳されます。

phyto(ギリシャ語)──「植物」
chemical(英語)──「化学物質」

「化学物質」ときくと体に悪いイメージがあるかもしれませんが、ファイトケミカルはとても体に良い物質で、五大栄養素や食物繊維と並ぶ重要な成分として知られています。

・五大栄養素 ── たんぱく質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラル
・六大栄養素 ── 五大栄養素 + 食物繊維(第六の栄養素)
・七大栄養素 ── 六大栄養素 + ファイトケミカル(第七の栄養素※2)

※1. 欧州では主に「フィトケミカル」と呼ばれています。
※2. ファイトケミカルは「機能性成分」です。「栄養素」と呼ばれることもありますが、栄養学上の「栄養素」という定義からは外れる成分です(非栄養素)。栄養素に分類されていないため、厚生労働省が定める「日本人の食事摂取基準(2020年版)」においても摂取基準値は設けられていません。

ファイトケミカルはいつ頃から知られるようになったか

ファイトケミカルの研究が本格的に始まったのは、1980年代の後半です。そのきっかけとなるのは、1982年にアメリカ国立科学アカデミーが公表した「食物・栄養とがん」というレポートでした。

【レポートの概要】
・脂肪の摂取量が増えるとガンの罹患率が上がる
・野菜などの摂取量が増えるとガンの罹患率が下がる

当時アメリカでは国民のガン罹患率の上昇が問題となっていて、その問題を解明するにあたり国民の食生活を調査していました。

このレポートに注目したアメリカ国立ガン研究所(NCI)は、野菜などに含まれる膨大な量の化学物質を調査し、ガン予防に効果的と思われる成分を特定しました(約600種)。そして、それらの成分を含む食品群(ガンの予防効果がある食品群)を重要度順に絞り込み(約40種)リスト化して国民に発表したところ、ガンの罹患率と死亡率が減少に転じたのです。これによって、ガンの予防効果がある食品群に含まれる有効成分として注目されたファイトケミカルは、1994年にNewsweek誌でも取り上げられ、より広く世界に認知されていきました。

ファイトケミカルは植物たちの自己防衛物質

植物は私たちのような動物とはことなり、生まれてから死ぬまでずっと同じ場所で生きていかなければいけません。そのため、紫外線や昆虫、腐敗やウイルスといったさまざまな脅威に常にさらされることになります。

ファイトケミカルとは、植物がそのような脅威から自分の身を守るために作りだした自己防衛物質のことで「苦み・渋み・辛み・色素・香り」などの成分からできています。

たとえば・・・

・赤や紫などの「色素」は、紫外線を避けるため
・「苦み」や「渋み」は、外敵に食べられないため

ファイトケミカルの主な働き

ファイトケミカルは、生命を維持する上では必須の成分ではありませんが、積極的に摂ることで様々な健康効果が期待できます。

効果の全容はいまだ解明途上ですが、すでに解明されている効果をまとめると次の三つになります。

・抗酸化作用 ── 活性酸素(体のサビ)の発生抑制&無害化
・抗ガン作用 ── ガンの発生抑制&増殖抑制、ガン細胞への攻撃性の向上
・免疫の増強&調整作用 ── 免疫細胞の生産&免疫機能の正常化

ファイトケミカルの抗酸化力【ビタミンCよりも強力】

植物は紫外線による酸化ダメージから身を守るため、強い抗酸化力をもったファイトケミカルを細胞内にもっています。

この抗酸化力をもったファイトケミカルは、人間の体内に入っても同じように働いてくれます。つまり体内の活性酸素を抑えて、生活習慣病や老化などを予防してくれるのです。

抗酸化力は「ビタミンC」や「ビタミンE」などの栄養素にもありますが、ファイトケミカルの抗酸化力はそれらをはるかに上回ります。

・プロアントシアニジン ── ビタミンCの約20倍
・リコピン ── ビタミンEの約100倍
・アスタキサンチン ── ビタミンEの約1000倍 など

ファイトケミカルはどれくらいの種類があるのか

現在すでに発見されているものは数万種と言われており、未発見のものを含めると推定で100万種を超えるとも言われています。

また、一つの食材の中には数十~数百種のファイトケミカルが含まれています。よく「トマトに含まれているファイトケミカルはリコピンです」といった言い方で紹介がされることがありますが、これは代表的なファイトケミカルを1つとりあげて簡易的に紹介しているにすぎません。

実際には、下記のように複数のファイトケミカルが含まれています。

・トマト ── 109種
・緑茶 ── 104種
・ブロッコリー ── 78種
・ほうれん草 ── 54種
・カリフラワー ── 21種 など

ファイトケミカルはどのような食材に含まれているのか

ファイトケミカルの多くは野菜や果物に含まれていますが、一部、キノコや海藻・魚介類※などにも含まれています。

また、スーパーフードのように栄養価の高い希少な食材にだけ含まれているわけではなく、スーパーなどで売られている一般的な食材にも多く含まれています。

・キャベツ ── グルコシノレート
・にんじん ── α-カロテン
・たまねぎ ── イソアリン
・かぼちゃ ── β-カロテン
・アスパラガス ── グルタチオン
・クレソン ── イソチオシアネート
・みょうが ── α-ピネン
・にら ── ケンペロール
・オレンジ ── リモネン など

※. 藻類などからの食物連鎖によって、エビ・カニ・鮭などにアスタキサンチンが含まれます。

ファイトケミカルの分類

ファイトケミカルの種類は、大きく分けると次のようになります。

・ポリフェノール
・カロテノイド(脂質関連物質)
・硫黄化合物(含硫化合物)
・テルペン類(香気成分)
・多糖類

ポリフェノール

紫色や濃い赤色の色素、苦味やえぐ味などの成分。
水溶性のものが多く、強力な抗酸化作用がある。

・アントシアニン ── ぶどう、さつまいも、なす
・カテキン ── 緑茶、番茶
・ショウガオール ── 生姜
・イソフラボン ── 大豆
・セサミン ── ごま
・ルチン ── そば、イチジク など

カロテノイド(脂質関連物質)

天然に存在する色素成分で、強い抗酸化作用がある。
脂溶性のため油との調理で吸収率が高まる。

・β-カロテン ── にんじん、モロヘイヤ、明日葉
・β-クリプトキサンチン ── トウモロコシ、ぽんかん、温州みかん
・リコピン ── トマト、スイカ
・アスタキサンチン ── エビ、カニ、イクラ
・カプサイチン ── 唐辛子
・ルテイン ── ほうれんそう、ブロッコリー、リーフレタス  など

硫黄化合物(含硫化合物)

硫黄(いおう)成分を持ち、独特の強いにおいが特徴。
ユリ科やアブラナ科の野菜に含まれる成分で、強い殺菌効果を持つものが多い。

・アリシン ── たまねぎ、にんにく、ネギ、ニラ
・硫化プロピル ── たまねぎ
・イソチオシアネート ── キャベツ、ブロッコリー
・スルフォラファン ── ブロッコリー、ブロッコリースプラウト
・シニグリン ── わさび
・グルコブラシン ── 白菜 など

テルペン類(香気成分)

柑橘類などに多く含まれている、特有の香りや苦味の成分。
抗酸化作用や免疫力強化などの働きがある。

・リモネン ── レモン(果皮)、柑橘類
・メントール ── ミント
・オイゲノール ── バナナ
・セダノライド ── セロリ
・α-ピネン ── みょうが、春菊
・シオネール ── ローズマリー、ローリエ など

多糖類

海藻や根菜類に多い炭水化物の一種
難消化性の場合には食物繊維として分類される。

・フコイダン ── 海藻類
・イヌリン ── ごぼう、チコリ、たまねぎ
・βグルカン ── キノコ類
・ペクチン ── りんご など

ファイトケミカルは摂り方が重要

ファイトケミカルをムダなく効率的に摂取するには、「スープを作って飲む」のがベストです。

ファイトケミカルは細胞壁に囲まれた「細胞膜」や「細胞(内部)」に含まれています。細胞壁は固いセルロース(繊維質)でできているため、咀嚼(そしゃく)やミキサーなどでは十分には壊れません。

また、人間は食物繊維を分解する酵素をもたないため、体内においても細胞壁は十分に壊れず、多くのファイトケミカルは包み込まれたままの状態で排泄されてしまうのです。しかし、この固い細胞壁は加熱することで簡単に壊れます。

一方、多くのファイトケミカルは、加熱してもほとんど効力が失われません※1。つまり、ムダなく効率的にファイトケミカルを摂取するには、スープがベストというわけです。

スープをオススメする理由としては、他にも次のようなことが挙げられます。

・生野菜のように体を冷やすことがない
・逆に体を温めてくれる
・食欲がないときでも摂取しやすい
・飲み続けることで味覚が鋭くなっていく
・ジュースよりもスープの方が、抗酸化力が高い※2

※1. 一部熱に弱いファイトケミカルもあります(アリシン・イソチオシアネート・スルフォラファンなど)
※2. 一例として、にんじん(β-カロテン)の抗酸化力はジュースよりもスープ(煮汁)の方が約100倍高い

スープのつくり方

スープに使用する食材(野菜)については、特に決まりはありません。

ここでは、高橋弘先生[※]がオススメする「ファイトケミカルスープ」のレシピをご紹介します。

【材料】
・キャベツ ── 100g(大2枚)
・にんじん ── 100g(大1/2本)
・たまねぎ ── 100g(大1/2個)
・かぼちゃ ── 100g(1/4個)
・水 ── 約1ℓ

【作り方】
① ひとくちサイズに切る
② 野菜と水を鍋に入れ沸騰させる
③ 沸騰したらフタをして弱火で20分煮込めば完成

【ポイント】
・野菜は皮がついたままで
 → ファイトケミカルは、皮に最も多く含まれています。
 → この材料の場合、たまねぎ以外は皮つきで。

・湯気を逃がさない
 → ファイトケミカルの多くは、水溶性かつ揮発性なので湯気にも含まれます。
 → フタをしっかり閉められるホーロー鍋がオススメです。

・鍋にいれる順番
 → 火の通りにくい順番(たまねぎ・にんじん・キャベツ・水)で鍋に入れて下さい。
 → かぼちゃは煮くずれしやすいので、煮立ってから入れると良いでしょう。

※高橋弘先生:ハーバード大学医学部元准教授・麻布医院院長

スープの飲み方

起床後、空腹時、食前などに飲むのがオススメです。

摂取量の目安は次のとおり。

・一回の摂取量の目安 ── 200mL
・一日の摂取量の目安 ── 400~600mL

具はそのまま食べてもいいですが、味噌汁やカレーなどに入れてもOKです。

スープポット(スープジャー)を購入すれば、外出先でも飲むことができて便利です。

スープの保存のしかた

残ったスープは、野菜ごと冷凍保存容器に入れて冷凍庫で保存※。

飲むときは、電子レンジで解凍すればOKです。冷凍保存での「賞味期限」は、2週間くらいです。

※. 野菜ごと冷凍することによって細胞壁の破壊がさらに進み、解凍後はより成分の濃いスープを飲むことができます。

ちょっと変わったスープ

野菜の切れ端を使用した「ベジブロス」という名のスープもあります。

このスープには、ファイトケミカルを豊富に含む「皮・ヘタ・種」などを使用します。

・りんごの芯
・たまねぎの外皮(茶色の皮)
・かぼちゃのわた
・パプリカの種
・にんじんのヘタ
・えだまめの皮
・しいたけの軸 など

当然、具は食べられませんが、スープに溶け出す成分は普通のスープよりも多くなります。

「ベジブロス」については、タカコ・ナカムラ先生※が書籍などで詳しく解説をしています。

※タカコ・ナカムラ先生:一般社団法人ホールフード協会 代表理事

ファイトケミカルは食事から摂取するのが基本

最近では、日本でもファイトケミカルのサプリメントがたくさん販売されています。

・クルクミン ── 肝臓の解毒機能を強化
・アスタキサンチン ── 眼精疲労の回復
・イソフラボン ── 更年期障害にお悩みの方
・スルフォラファン ── シミやくすみの予防
・ルテイン ── 白内障や黄斑変性症の予防 など

こういったサプリメントは、事情があって食事をとることができないような状況においては、とても役に立ちます。

しかし、そういった状況でないのであれば、単独のファイトケミカルをサプリメントで集中的にとるよりも、食材に含まれている数十~数百種類のファイトケミカルや食物繊維、ビタミン類などを同時に取った方が効率的です。また、ファイトケミカルは、複数種とることで相乗的にその機能を発揮するということからも、やはり食事(食材)から摂取する方が望ましいと言えるでしょう。

食材選びのポイント【気をつけるポイント】

食材選びのポイント(気をつけたいポイント)は次のとおりです。

・国産のものを選ぶ
 → 輸入食材(野菜や果物)の多くは、ポストハーベスト(殺菌剤や防カビ剤)が使用されているため
 → 国内ではポストハーベストの使用は認められていないため

・オーガニックのものを選ぶ
 → ファイトケミカルの含有量が普通の食材(野菜や果物)よりも格段に多いため
 → 農薬を過剰に使用していないため
 → 遺伝子組み換えが行われていないため
 → 普通の食材に比べて、香りや味がよいため

・ハウス栽培ではなく、露地栽培されたものを選ぶ
  → 雨風で農薬が排出されやすいので、比較的安全
  → 陽射しをたくさん浴び、自然に近い状態で育った食材の方が、ファイトケミカルの含有が多くなるため

・旬のものを選ぶ
 → ファイトケミカルの含有量が多くなるため
 → 旬のものは成長速度が速いため、農薬との接触が少ない
 → 香りや味がよいため

さいごに

日本人の死因の第1位は、1981年から2021年まで変わらず「ガン」です。ガンによる死者数は年々上昇していき、2021年には38万人以上の人々がガンで命を落としています。

全死亡者に占める割合は 26.5%ですので、亡くなられた方のうち、4人に1人はガンだったということになります。つまり、ガンは私たちにとって身近な病気であるということです。

こういったガンのリスクは、生活習慣や食生活の見直しによって減らすことができ、「ファイトケミカル」はさまざまな食材から同時に採ることで、効率的に健康への働き(抗酸化作用、抗ガン作用、免疫力の増強&調整作用)が期待できます。

ファイトケミカルの摂取習慣は、すぐにでも取り組めますし、お金もそれほどかかりません。健康的な毎日をおくるためにも、今日からファイトケミカルを意識した食生活に変えてみてはいかがでしょうか。

▼おすすめ動画


参考文献

California State University Chico「What Does Your Food Eat and Why Might that Matter」

https://www.csuchico.edu/regenerativeagriculture/blog/what-your-food-eats.shtml

国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター「ファイトケミカル生成原理とその活用のための研究開発戦略」

https://www.jst.go.jp/crds/pdf/2020/SP/CRDS-FY2020-SP-03.pdf

日本補完代替医療学会誌「ファンクショナル・フードファクター・データベースと食品の安全性(渡辺昌 卓興鋼)」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcam/2/2/2_2_101/_pdf

品川美容外科「「アスタキサンチン」ってどんな効果があるの?」

https://www.shinagawa.com/article/topics/content166

ハウス食品「House E-mag:注目の成分「フィトケミカル」とは?種類と機能、さらに効果的に摂るコツ」

https://housefoods-group.com/activity/e-mag/magazine/96.html

わかさ生活「わかさの秘密:ファイトケミカル - 成分情報 」

https://himitsu.wakasa.jp/contents/phytochemical/

厚生労働省「政策レポート(がん対策について)」

https://www.mhlw.go.jp/seisaku/24.html

厚生労働省「人口動態統計月報年計(令和3年)」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai21/dl/gaikyouR3.pdf

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