アク抜きとは?野菜料理におけるアク抜きの重要性
野菜の中には癖が強く不快な味がして食べられないものがあります。
しかしそのような野菜であっても、アク抜きを行えば美味しく頂くことができます。
料理初心者にとって、アク抜きは難易度の高い作業のように思われがちですが、実はそれほど難しい作業ではありません。アク抜きのやり方を覚えれば、料理のレパートリーが一気に増え、食卓も豊かになりますので、ぜひ覚えて頂きたいところです。
今回は、野菜のアク抜きの重要性や方法について解説していきたいと思います。
(※魚や肉から出るアクについては記載していません)
目次
アクとは何か
野菜を食べた時、不快な味を感じることがあります。例えば、タケノコの苦味やホウレン草のえぐ味などです。このような、野菜に含まれている「苦味・えぐ味・渋味」などの不快な味の成分を総称して「アク」といいます。
また、アクは単に上記のような不快な味の成分を指しているだけではなく「毒」となることもあります。
例えば、山野草に含まれている「アルカロイド」という成分は、アク抜きをせずに食べると人体に悪い影響を及ぼす可能性があります。
ビルマ豆やバター豆に含まれている「青酸配糖体」は、毒性が強いことでも知られています。
さらに「シュウ酸」や「タンニン」は、有用な栄養素の吸収を妨げる作用があるのです [※1]。
これらの理由から、アクを多く含んでいる野菜は調理前に「アク抜き」を行い、除去するのが一般的です[※2]。
※1. シュウ酸はカルシウムや鉄分の吸収を阻害し、タンニンは鉄分の吸収を阻害すると言われています。
※2. 一部の料理ではアクを「素材の風味」として、あえて残す場合もあります。
アクと灰汁は同じもの?
アクの漢字表記は「灰汁(あく)」となり、一般的には「アク=灰汁」として捉えられていることが多いようです。しかし、野菜の処理方法によってはこれらを別のものとして捉えることもあります。
アクは本来、藁灰や木灰を水に浸し、その上澄みだけをすくったものを指していました。つまり「灰の成分を含んだ汁」が灰汁の原義であり、この灰汁は昔から野菜の不快な味の成分を除去するために用いられてきました。そして「灰汁で不快な味の成分を抜く」ことを「灰汁抜き」と呼んでいくうちに、いつしか不快な味の成分そのものを「灰汁」と呼ぶようになったのです。
しかし、灰汁は現代でも野菜の処理に用いられることがありますので、そういった場面で使われる灰汁という言葉は、私たちが一般的に知っているアク(不快な味の成分)とは別のものとして捉える必要があります[※]。
※. 灰汁(灰の成分を含んだ汁)のことを「灰アク汁」と呼び、混同を避けている場合もあります。この記事では「不快な味の成分」のことをカタカナで「アク」と表記しています。
アク抜きしないとどうなる?
上記でも触れた通り、アク抜きをしないと料理が不味くなったり、体調を崩したりすることがあります。また、これらの他に「料理の見た目が悪くなる」ということも挙げられます。
例えば、ウド・ゴボウ・レンコン・ヤマノイモなどは、皮をむいてしばらくすると黒ずんできますが、こういった「褐変(かっぺん)反応」が起こるのもアクが影響しています。
また、作った料理にアクがたくさん付着していると、人によってはそれが「汚れ」に見えてしまうこともありますので、特におもてなしの料理を作る場合には、きちんとアク抜きをしておいた方が良いと言えるでしょう。
アク抜きのしかた
アクは水溶性のものが多く、皮をむいたり切ったりした後、水にさらすか茹でるかすると大抵は除去することができます。
アクが強い野菜の場合は、「塩・酢・重曹(じゅうそう)・米ヌカ」などを加えてアク抜きをすることもありますが、これは堅い繊維を柔らかくしたり、発色を良くしたりする処理も兼ねていることが多いようです。
では、具体的に私たちが一般的に食べる野菜の中で、特にアクが強いとされるものは一体どのようなアク抜きをすればいいのでしょうか。
それぞれアク抜きの方法ごとに見ていきましょう。
水にさらす
皮をむいたり切ったりすると、色が褐変する(黒ずむ)野菜に対して行います。
・ウド
・レンコン
・ヤマノイモ
・ユリ根
・ナス
・ジャガイモ など
褐変は主に、野菜に含まれるポリフェノール系の物質が酸化することによって起こります。この成分は水溶性ですので、水にさらすことによって褐変が抑えられます。
また、ジャガイモの褐変は酸化によるメラニン生成が原因ですが、これを促す「チロシナーゼ」という酵素も水にさらすことによって溶出させることができます。
酵素の働きを抑制する方法としては、他にも「塩水」や「酢水」にさらすといった方法があります。
熱湯で茹でる
青菜類(ホウレン草・菊菜など)は塩ゆでして水にさらします。
1. 野菜に熱が均一に伝わるよう、鍋にたっぷりのお湯を沸かします。
2. 沸かしている間にボウルに冷水または氷水をためておきます。
3. お湯が沸騰したら塩を入れます(大さじ1/2ほど)。
4. まずは根の部分をお湯に入れ、30秒~1分間ほど経ったら葉先まで沈めます。
5. そこから1分半~2分半ほど茹でたら、火を止めます。
6. 鍋から取り出し、冷水にさらします(ボウルに入れる)
7. 熱がとれたら水気を絞りとって完成です。
茹でることによってシュウ酸などの水溶性のアクを抜くと共に、葉緑素(クロロフィル)を鮮やかな緑色にします。色が鮮やかになった所で急速に冷やし、色を安定させます(塩にも色の安定に若干の効果が期待できるといわれています)。
重曹を加えたお湯に浸す
ワラビやゼンマイは苦みが強く繊維も堅いため、重曹を使ってしっかりとアク抜きをします。
1. 鍋に山菜(ワラビまたはゼンマイ)を入れます。
2. 山菜の上からまんべんなく塩をふりかけます(ひとつまみ程度)
3. さらに重曹をふりかけます(山菜の重量の10~15%程度)
4. 沸騰させたお湯をヒタヒタに注ぎ、30~60分置いておきます(山菜の量に応じて調節して下さい)。
5. 流水で60分~1晩程度さらします(山菜の量に応じて調節して下さい)。
6. 水に黒ずみ(アク)が出なくなったら完成です。
葉緑素(クロロフィル)はアルカリ性の水で茹でるとよりきれいな緑色になるため、アルカリ性である重曹を使ってアク抜きをするとワラビやゼンマイの色味は鮮やかになります。
この重曹を使ったアク抜きの方法は、ホウレン草や菊菜などの青菜類にも応用できそうですが、実際に行うと素材が柔らかくなり過ぎて歯ごたえが悪くなってしまいます。
米ヌカを加えて茹でる
シュウ酸を多く含んでいるタケノコをアク抜きする場合、米ヌカを用いると良いでしょう。シュウ酸が流出しやすくなるだけではなく、米ヌカのデンプン粒子が表面を覆い、酸化して褐変するのを防いでくれます。
1. タケノコの外皮を1~2枚むきます。
2. タケノコの根元に固い部分がついていれば切り落とします。
3. 先端から1/5くらいのところを斜めに切り落とします。
4. 切り落とした部分に垂直に浅く「切り込み」を入れます(深さは1~2cmほど)。
5.(3・4)の下準備は「アクを抜きやすくする」「水周りをよくする」「茹でた後の皮むきを楽にする」ために行います。
6. 深い鍋にタケノコを入れ、さらに米ヌカ、赤唐辛子(種付きのまま)、常温の水を入れます。
7. 鍋に入れる米ヌカはひと握りほど、赤唐辛子は1本でOKです(標準的なサイズのタケノコを使用する場合の目安です)。
8. 赤唐辛子は、タケノコのえぐ味や米ヌカ臭さを軽減すると言われています。
9. 水の量は、タケノコ全体が浸るほどの量です。
10. 中~強火にかけて、お湯を沸かします(吹きこぼれやすいので注意して下さい)。
11. お湯を沸かしていると、タケノコが浮いてきますので落し蓋をします。
12. お湯からタケノコが浮き出て空気に触れていると、その部分が酸化して色が悪くなってしまいます。
13. 沸騰したら弱火にして、そこから40分~1時間ほど茹でます(茹で時間はサイズによって異なります)。
14. 一番太い根本部分に串を刺してみて、難なく刺さるようであれば火を止めます。
15. その状態でしばらく放置し、鍋全体が完全に冷めるまで待ちます(湯止め)。
16. 湯止め中もアク抜きをしていますので、流水などを使って時短で冷まさないようにして下さい。
17. 完全に冷めたら米ヌカを水洗いして取り除き、(4)でつけた切れ目から指先を入れて皮をむけば完成です。
整水器の活用
野菜を水にさらしてアク抜きをする場合には、それなりの時間を要します。
しかし、電解水素水(アルカリイオン水)というお水を使用すれば、短い時間でしっかりとアク抜きをすることができます。
電解水素水とは、整水器(家庭用電解水生成器)と呼ばれる機器から生成されるお水です。
水素を含んだアルカリ性の電解水素水は、胃腸症状の改善効果が認められたお水として知られていますが、実は料理の世界でも広く活用されています。
たとえば、炊飯用のお水に使われたり、出汁をとるときのお水に使われたり等々。
今回のテーマである「アク抜き」においても、水道水と比較して「抽出力」の違いが視覚的に見て取れます。
※以下のサイトでは、電解水素水(アルカリイオン水)と水道水をアク抜きに使用してみた場合、どのような違いが現れるのかについて解説をしています。
参考|アルカリイオン整水器協議会「秘伝!簡単アク抜き方法」
https://www.3aaa.gr.jp/userinfo/index/6
さいごに
アク抜きは、野菜によっては時間がかかってしまうこともありますが、作業自体はそれほど難しくありません。
この作業を一通り覚えると、今までできなかった料理にもチャレンジしやすくなります。料理のバリエーションや使用する野菜の種類が増えれば、それだけ多くの種類の栄養素を摂取することに繋がります。
さまざまな料理テクニックを学んで腕をあげると同時に、今までの食生活も見直してみてはいかがでしょうか。
参考文献
野菜等健康食生活協議会事務局「食材の食経験と安全性について(植物中の有毒物質との関連)」
https://www.5aday.net/v350f200/doko/kobetsu_e.html
中国茶専門店華貴「中国茶について」
https://www.hananoki1225.com/tea.html
健達ねっと「カルシウムや鉄分を効率よく摂取!注意したい食べ合わせは?」
https://www.mcsg.co.jp/kentatsu/health-care/18060
クックパッド「おばあちゃん直伝!大豆殻の灰で灰汁作り by ouentai」
https://cookpad.com/recipe/1644893
日本料理、会席・懐石案内所「灰あく汁の作り方手順【山菜の下処理の基本方法】」
https://oisiiryouri.com/haiakujiru-tsukurikata/
ベターホームのお料理教室「ごぼう」
https://www.betterhome.jp/tsubo/gobo/gobo.php
トクバイニュース「ほうれん草はアク抜き必須!手軽な方法とアクの成分「シュウ酸」について」
https://tokubai.co.jp/news/articles/5526
長谷工グループ「ブランシエラクラブ:たけのこのアク抜きは意外と簡単!基本の下ごしらえ方法」
https://www.haseko.co.jp/branchera/magazine/article/recipe-technic77.php
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