花粉症はなぜ起こるのか?腸内環境とアレルギーの関係
「一度発症してしまうと、完治するのが難しいと言われている花粉症──」
全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした鼻アレルギーの全国調査によると、花粉症の有病率は次のとおり10年ごとに約10%ずつ増加しています。
・1998年 ── 19.6%
・2008年 ── 29.8%
・2019年 ── 42.5%
花粉症の発症メカニズムについては、すでに多くの点が解明されているようですが、あらゆる花粉症が根治に至るほど解明は進んでいません。
薬剤を使用して症状を緩和するなど、ある意味、受動的(対症的)な取り組みが行われる中、改善や根治に向けての能動的な取り組みが注目されています。
その能動的な取り組みの一つに挙げられるのが「免疫ケア」です。
一説によれば、花粉症の発症と重症化には「免疫の状態」も関係していると言われています。
今回は花粉症の発症原因やメカニズムとあわせて、免疫の要とも言われる「腸」との関係性についても解説していきます。
目次
アレルギーとは?
私たちの体は、細菌やウイルスなどの病原体が侵入してくると、それらを外敵として認識し、攻撃する働きを持っています。
この働きのことを「免疫」といいます。
私たちは、この免疫の働きを持っているからこそ、自然界でも生きていられるわけですが、免疫の「外敵認識機能」はときどきエラー(勘違い)を起こしてしまいます。
つまり、本来それほど有害ではない物質(花粉など)に対しても、外敵と見なして攻撃し、その際に私たちの体も傷つけてしまうことがあるのです。
こういったエラーによって引き起こされる免疫の過剰な防衛反応のことを「アレルギー反応」といいます。
アレルギーにはⅠ~Ⅳ型(厳密にはⅤ型)までの大きな分類があり、それぞれの型によって発症メカニズムや症状が異なります。
今回のテーマである花粉症は「Ⅰ型アレルギー」 に属しますので、ここではⅠ型アレルギーを対象にして解説を進めたいと思います。
花粉症とは?
花粉症とは、花粉が体内に侵入することによって引き起こされるアレルギー反応のことです。
花粉症を引き起こす代表的な花粉と、その飛散時期については以下の通りです[※]。
スギ・・・・・・飛散時期:2~4月
ヒノキ・・・・・飛散時期:3~5月
シラカンバ・・・飛散時期:4~6月
イネ科・・・・・飛散時期:4~11月
ブタクサ・・・・飛散時期:8~10月
ヨモギ・・・・・飛散時期:8~10月
カナムグラ・・・飛散時期:8~10月
花粉症といえば、一般的にスギやヒノキの花粉がアレルゲン(アレルギーの原因物質:抗原) として知られていますが、他にも上記のようにいくつかのアレルゲンが存在し、ほぼ一年中何らかの花粉が国内で飛散しています。
もちろん、これらすべての花粉が必ず花粉症を引き起こすとは言えず、アレルゲンとなる花粉は人によって異なります(そもそも花粉に対するアレルギー素因がない人は、花粉症にはなりません)。
ただ、近年では様々な理由から花粉症を発症させる人が増えつつあり、スギ花粉症の場合、2019年の推定有病率は38.8%(およそ3人に1人)、イネ科やブタクサ花粉による花粉症でも、2019年の推定有病率は25.1%(およそ4人に1人)という高い割合を示しており、複数の花粉による複合的な花粉症を引き起こしている人も多くいると考えられます。
花粉症が国内において初めて報告されたのは、1961年のブタクサ花粉症だと言われています。
それを発端にして、スギ花粉症、イネ科の花粉症などの報告がされるようになり、1970年代前半にはそれらの報告が一気に増え始め、それ以降も花粉症は毎年増加傾向にあります。
※. 花粉の飛散時期は、地域によって若干異なります。
花粉症の症状
花粉症の主な症状は、以下の通りです。
・アレルギー性鼻炎(くしゃみ・鼻水・鼻づまり…など)
・アレルギー性結膜炎(目のかゆみ・流涙…など)
・まれに、喘息やアトピーの症状を併発
・まれに、特定の食べ物による口腔アレルギーを併発
→シラカンバ花粉症の場合、「リンゴ・モモ」など
→スギ花粉症の場合、「トマト」など
→ブタクサ花粉症の場合、「スイカ」など
花粉症によって「くしゃみ、鼻水、流涙」といった症状が現れるのは、体が体内にある花粉を排除しよう(体外に出そう)と働いているためです。
また、「鼻づまり」の症状が現れるのは、体がこれ以上花粉を体内に侵入させないように働いているためです。
つまり、これらの症状は、花粉症から体を守る「防御反応(抗原抗体反応)」として現れているのです。
花粉症の症状は、感作状態[※]の体に花粉が侵入してから、早ければ15~30分ほどで現れます。
症状が比較的早く現れることから、花粉症は「即時型アレルギー」に分類されています。
※. 花粉症を発症する準備が整った体の状態。
花粉症の増加要因(重症化要因)
国内の花粉症患者数が増加傾向にあることは、上項でも説明した通りですが、近年では発症までの期間[※]も短くなっている傾向があり、小さな子供も花粉症を発症するようになったと言われています。
花粉症患者の「増加要因」や「重症化要因」として考えられているものは、次の通りです。
【増加要因】
・飛散する花粉数の増加
・食生活の変化
・腸内細菌の変化
【重症化要因】
・空気中の汚染物質
・喫煙
・ストレス
・都市部における空気の乾燥
※. 体内に蓄積されるIgE抗体の量が一定量を超えると「感作状態」となり、その状態で次に花粉が体内に侵入すると花粉症を発症します。どれくらいの量で感作状態になるかは、個人の素因や環境などによって異なります。
花粉症の発症メカニズム
花粉症の発症メカニズムは、花粉が「目・鼻・喉」を通じて、体内に入ることから始まります。
通常、私たちの体は皮膚や粘膜などのバリア機能によって、異物(花粉・病原菌など)の侵入が防がれています。
しかし、このバリア機能が何らかの原因で破綻すると、そこから異物が体内に入ってくることになります。
異物の一つである花粉が体内に入ってくると、はじめに免疫細胞の一つである「マクロファージ」が“異物の侵入”を検知します。
マクロファージは異物が侵入してきたことを、同じく免疫細胞の一つである「ヘルパーT細胞(Th2)」へ連絡します。
するとヘルパーT細胞は分裂をして、有害な病原体などが侵入してきた時のように、過剰に反応する仕様になります。
花粉は細菌やウイルスと違って、人体に大きな害を与えない物質ですので、本来なら体内に侵入したとしても、過剰に反応する必要はありません。
しかし、花粉アレルギーの素因がある人の場合、免疫細胞たちは過剰に反応して、花粉を撃滅するように働きます。
なぜこのようなエラー現象が起きるのかについては、まだはっきりとは分かっていないようです。
なぜ誤認するのか?本当に誤認なのか?たくさんの研究者たちが、今なおこれらの課題に取り組んでいます。
一説によれば、花粉の成分と寄生虫の構成成分との類似が挙げられていますが、その一方で、免疫バランスの崩れが影響しているのではないかということも言われています。
いずれにせよ、過剰に反応したヘルパーT細胞は、細胞間伝達物質「インターロイキン」を放出して、同じく免疫細胞の一つである「B細胞」に戦闘指令を出します。
その指令を受けたB細胞は、戦闘モードとなり「形質細胞」に変身します(分化)。
形質細胞は、侵入してきたアレルゲンの特徴に合わせて抗体を作るわけですが、アレルゲンが花粉の場合には「IgE抗体」という抗体が作られることになります。
形質細胞によって作られたIgE抗体は放出されて、マスト細胞(肥満細胞)などに結合します(感作)。
この時点では、まだ花粉症の症状は現れておらず、単に異物への臨戦態勢が整っただけの状態です。
つまり、この状態は「異物撃滅用の兵器が組み立てられた状態」と表現してもよいでしょう。
「異物撃滅用の兵器が組み立てられた状態」と聞くと、なんだか良いことのようにも聞こえますが、実を言うとこの状態は、花粉症が起きる“直前”の状態になってしまっているのです。
異物撃滅用の兵器が組み立てられた後[※]のタイミングで、花粉が体内に入ってくると、マスト細胞についているIgE抗体に花粉が結合し、その刺激によってマスト細胞などから「ヒスタミン」や「ロイコトリエン」といった化学物質が放出されます。
この化学物質が私たちの体に作用して、「くしゃみ・鼻水・鼻づまり」といった花粉症の辛い症状を引き起こしているのです。
※. 実際は「IgE抗体の蓄積が一定量に達した後」になります。
花粉症に対するセルフケア
花粉症の発症メカニズムは、まだ解明されていない点もいくつかあり、根本的な治療法の開発には至っていません。
近年では、「舌下免疫療法(ぜっかめんえきりょうほう)[※1]」という、新たな治療法が注目を集めていますが、これも根治できる割合は20%程度に過ぎず、対象となるアレルゲンも限定的[※2]です。
こういった治療法を試すことは有意義かもしれませんが、セルフケアにおいても花粉症対策をしっかりと行い、改善を促していく必要があるのではないでしょうか。
セルフケアを行うにあたって、まず最初に取り組むべきことは「花粉の回避」です。
たとえば、次のような方法やアイテムが有効です。
【花粉の回避方法】
・マスク(花粉症用マスクやインナーマスクを活用すると、より効果的)
・メガネ(花粉症用メガネを活用すると、より効果的)
・服装(ウール製のものを避け、綿や化繊など、花粉が付着しにくいものを選ぶ)
・帽子(つばの広いものをかぶり、顔や頭への花粉の付着を抑える)
・外出時間帯(花粉がたくさん飛散する時間帯を避けて外出する)
・入室前の習慣(帰宅時、入室前に服や髪についた花粉を払う)
・帰宅後の習慣(帰宅後、「手洗い・洗顔・うがい」を行う)
・室内の換気(花粉の侵入を抑えるために、レースのカーテンを閉めてから換気する)
・室内の掃除(室内に侵入した花粉を除去するため、こまめに掃除機をかける)
こういったセルフケアの他に、生活習慣を整えて正常な免疫機能を保つことも重要です。
特に「腸」は、全免疫細胞の約7割が集結している器官ですので、正常な免疫機能を保つためには「腸内環境」を整えることが近道と言えるでしょう。
※1. 舌下免疫療法(SLIT)は、アレルゲン免疫療法(減感作療法)の一種です。舌の下にある粘膜からアレルゲンを含んだ治療薬を吸収させ、体をアレルゲンに慣れさせることにより症状の改善を図ります。
※2. 国内においては、今のところ「スギ花粉」と「ダニ」の2つのみです。
腸内環境とアレルギーの関係
近年、いくつかの研究では「腸内細菌がアレルギーの発症に影響を及ぼしている可能性がある」という報告がされているようです。
たとえば、次のような研究結果が挙げられます。
①花粉症患者においては…
・フィーカリバクテリウム属の腸内細菌が少ない傾向にある
②食物アレルギーを発症した小児においては…
・生後3か月時点での腸内細菌叢の多様性が低い傾向にある
・エンテロバクター属の腸内細菌が多い傾向にある
③マウスを使った動物実験においては…
・クロストリジウム属の腸内細菌を増やすと、食物アレルギー発症を予防できる
ここに挙げた腸内細菌群のうち、いくつかのものは「制御性T細胞(過剰なアレルギー反応を抑制する細胞)」の増減に関係性があったりと、さまざまな機序によってアレルギーとの関係性を示しています。
腸内細菌には「善玉菌・悪玉菌・日和見菌」といった3つの菌群が存在しており、それらが適正なバランスを保つことによって、良好な腸内環境が作られます。
腸内環境を良くするためには「食事・睡眠・運動」の3要素を見直して、生活習慣を改善することが重要です。
下記のリストを契機にして、生活習慣の改善に取り組んでいきましょう。
【食 事】
・朝昼夕の食事を決まった時間にとるようにすること
・夜遅くに食事をとらないこと
・善玉菌が不足しないように心がけること[※](プロバイオティクス食品など)など
【睡 眠】
・睡眠時間を十分にとり、睡眠不足に陥らないこと
・睡眠時間帯は「ゴールデンタイム(22時~2時)」を含ませること
・毎日同じ時間に起床し、同じ時間に就寝すること など
【運 動】
・股関節周りのストレッチを行い、蠕動運動を促すこと
・速歩などの有酸素運動で心肺持久力を高めること
・運動は毎日の習慣として、継続的に行うこと など
※.不足しがちな「善玉菌」を補うことは大切ですが、体に良い影響を与える腸内細菌は「善玉菌」だけではありません。
「善玉菌・悪玉菌・日和見菌」の適正なバランスを保つことが大切です。
さいごに
花粉症の症状は、私たちの感情をイライラさせ、体力も消耗させます。
このような症状を抱えながら仕事をしていると、日常的な業務がおろそかになるだけではなく、大事な商談やプレゼンなどにも悪い影響を及ぼしかねません。
また、学生においては授業に集中することができず、成績を落としてしまうことも考えられます。
特に受験シーズンである2~3月は、スギ花粉の飛散シーズンとかぶるため、将来的な進路まで含めて考えると、その影響はかなり大きいと言えるでしょう。
現時点で花粉症の症状が現れていない人は、花粉症を「自分とは無縁の疾病」だと思ってしまうかもしれません。
しかし、花粉症の素因を持っている人は、あるタイミングで突如として花粉症が発症することがありますので、注意を怠ってはいけません。
前述した一般的な花粉症対策(「花粉の回避方法」)を行うのと同時に、免疫の要である「腸」を日頃からしっかりと整えることが大切です。
※下記の記事では、「腸内環境を整える方法」について詳しく解説しています。
ぜひ参考にしてみて下さい。
【腸内環境ってどんなもの?悪化の原因や腸内環境を整える方法を徹底解説】
https://www.nihon-trim.co.jp/media/28425/
参考文献
環境省「花粉症環境保健マニュアル2022」
https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/2022_full.pdf
にしおぎ耳鼻咽喉科クリニック「アレルギー検査(非特異的・特異的IgE抗体検査)」
https://nishiogi-ent.com/アレルギー検査(非特異的・特異的ige抗体検査)
イムバランス情報サイト「アレルギーの種類|アレルギーってなんだろう?」
https://immubalance.jp/about/allergy-2/
エスエス製薬「花粉症を引き起こす植物の種類とは?~スギ花粉・ヒノキ花粉・ブタクサ花粉には要注意!」
https://www.ssp.co.jp/alesion/hayfever/plant/
久光製薬「アレグラFX|もしかして花粉症!?夏から秋はブタクサにご用心」
https://www.allegra.jp/hayfever/butakusa.html
久光製薬「アレグラFX|花粉症かな?と思った方へ」
https://www.allegra.jp/hayfever/about.html
宮本耳鼻咽喉科医院「花粉症あれこれ」
http://www.terra.dti.ne.jp/miyamoto-jibika/kafun02.html
一般社団法人日本アレルギー学会「アレルギーを知ろう」
https://www.jsa-pr.jp/html/knowledge.html
厚生労働省「的確な花粉症の治療のために(第2版)」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000077514.pdf
山梨大学「花粉症の謎」
https://www.med.yamanashi.ac.jp/clinical_basic/para0imm/whatsnew/190315.pdf
ユーグレナ ヘルスケア・ラボ「花粉症と免疫力の低下には関係がある?花粉症を悪化させる生活習慣を紹介!」
https://www.euglab.jp/column/pollen-allergy/000420.html
研究.net「アレルギー|研究用語辞典」
http://www.kenq.net/dic/172.html
中外医学社「小児アレルギ」dd
http://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse1652.pdf
オーソモレキュラー医学会「花粉症と治療法【前編】」
https://isom-japan.org/article/article_page?uid=KktEi1581579320
公益社団法人全日本病院協会「花粉症について」
https://www.ajha.or.jp/guide/22.html
せがわクリニック「舌下免疫療法」
https://segawa-cl.com/tongue/
日経バイオテクONLINE「舌下免疫療法とは」
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/011900001/23/01/10/00505/
東北大学大学「舌下免疫療法の仕組みを解明」
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20160512_01web.pdf
鳥居薬品株式会社「舌下免疫療法とは」
https://www.torii-alg.jp/slit/
日経バイオテクONLINE「舌下免疫療法とは」
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/011900001/23/01/10/00505/
足立有馬小児科神経内科「院長ブログ|腸内細菌叢を良くするとアレルギーが治る!?」
https://www.adachi-arima-clinic.com/blog/513
関西医科大学「PRESS RELEASE|腸内細菌叢の乱れがアレルギー疾患の原因か」
https://www.kmu.ac.jp/news/laaes7000000g08n-att/202100405PressRelease.pdf
自然免疫応用技研株式会社「ひげ博士の最新免疫学講座|第24回 腸内細菌の話」
https://www.macrophi.co.jp/hige/0024.html
明治「からだカイゼン委員会|美肌力をアップさせる、腸のゴールデンタイム」
https://www.meiji.co.jp/karadakaizen/know/entry015.html
大阪市立大学「運動による「腸活」の可能性」
https://www.osaka-cu.ac.jp/ja/news/2018/files/181214_yokoyama.pdf
PR TIMES「ジャパンフリトレー株式会社のプレスリリース|10月1日は食物せんいの日 美養腸活クイーン加治ひとみ登壇!「腸会議2021~美養腸活~」」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000132.000014806.html