「いびき」をかくのはなぜ?いびきの種類や原因について解説
うるさいいびきは近くで寝ている人の睡眠を妨げるため、一般的に迷惑な「騒音」として問題視されています。しかし、いびきの種類によってはまわりへの騒音だけでなく、「いびきをかく本人」にもリスクとなっている場合があります。「一人暮らしだから私には関係ない」といって放置していると、やがて大きな病気を患うこともあるのです。
今回は、いびきの種類や原因について解説をしていきます。
目次
いびきについて
いびきが起こる主な部位は「上気道(じょうきどう)」と呼ばれる場所です。上気道というのは「鼻腔、副鼻腔、咽頭、喉頭」のことで、簡単に言うと、鼻から喉までの空気の通り道のことを指しています。
この上気道が何らかの原因で狭くなると、吸い込んだ空気の通過スピードが速くなります。それによって、上気道の粘膜などが振動して音が鳴るのですが、この時の振動音がいびきの正体です。上気道の中では、特に「軟口蓋(のどちんこが吊るされている天井部)」が振動しやすく、ほとんどのいびきは、この部位が音源になっていると言われています。
いびきの種類
実は、いびきには種類があります。
- 単純いびき症
- 上気道抵抗症候群
- 睡眠時無呼吸症候群
それぞれについて、見ていきましょう。
単純いびき症
単純いびき症は、その名の通り「単純ないびき」を指していて、音が出ていても、それほど大きな問題にはならないいびきです。
十分な睡眠時間を確保できていれば、後述する上気道抵抗症候群などのように、日中に眠気を感じることはありません。また、後述の睡眠時無呼吸症候群のように、低酸素状態(酸欠状態)に陥っているわけではありませんので、無呼吸発作や低酸素血症に陥るリスクもありません。
ただし、近くで寝ている人にとっては「騒音」であり、睡眠不足に陥らせてしまう可能性がありますので、その点は何らかの配慮が必要でしょう。たとえば、軽めのいびきの場合は、横向きに眠ったり、いびき防止用のマウスピースを装着することで、いびきを軽減できる場合があります。
上気道抵抗症候群
上気道抵抗症候群は、後述する睡眠時無呼吸症候群の軽症版ともいえる症状で、習慣的にいびきをかいてしまう症状です。
低呼吸や無呼吸の症状は見られませんが、睡眠中に上気道が通常よりも狭くなり、それによって強い力での呼吸(努力呼吸)が強いられるため、睡眠の分断(覚醒)などの症状が見られます。ぐっすりと眠ることができないため、朝の寝起きが悪くなったり、日中に強い眠気を感じやすくなるのが特徴です。
症状の度合いは、睡眠時無呼吸症候群よりも低めですが、やはり体への悪影響が懸念されるため「睡眠呼吸障害」の一つに位置付けられています。
睡眠時無呼吸症候群(閉塞型)
睡眠時無呼吸症候群は、上気道の閉塞によって「睡眠中に何度も呼吸が止まる病気」です。一般的には、7時間の睡眠中、10秒以上の無呼吸が30回以上起こるか、睡眠1時間当たりの無呼吸(または低呼吸)が5回以上起こる場合を、睡眠時無呼吸症候群と呼んでいます。
音の出方としては、ほとんど音が出ていない静かな状態から、急に「ガガッ!」と大きな音が出るような感じで繰り返されるのが特徴です[※]。呼吸が何度も止まりますので、息は苦しくなりますが、大抵は朝まで眠ったままの状態です。その結果、十分な睡眠時間を確保したとしても慢性的な睡眠不足に陥って、仕事中に眠ってしまったり、パフォーマンスが低下したりと、日中の活動全般に悪い影響を与えることになります。
さらに、睡眠時無呼吸症候群は「循環器疾患」を患うリスクも高めます。睡眠時無呼吸症候群が、どのようにして疾患リスクを高めるかについては、疑問を持たれる方も多いと思いますので、以下に説明をします。
・まず、睡眠中に繰り返す無呼吸状態は、体を「低酸素状態(酸欠状態)」にします。
・これを補おうとして心臓には負荷がかかり、睡眠中に急激な血圧の上昇が起こります。
・血圧の上昇が何度も繰り返されるうちに、徐々に動脈硬化が進行し、血管が傷みはじめます。
・やがて、その傷みがピークに達すると、血管が詰まったり、裂けたりして重篤な「循環器疾患」を引き起こしてしまいます。
つまり、睡眠時無呼吸症候群は「命に関わる病気」ですので、決して軽視することはできないのです。実際、睡眠時無呼吸症候群の人は、健康な人と比べて合併症リスクが高くなると言われています。
・糖尿病になるリスク ── 1.5倍
・高血圧になるリスク ── 2倍
・心疾患になるリスク ── 3倍
・脳卒中になるリスク ── 4倍
また、睡眠時無呼吸症候群の重傷患者の4割が8年以内に死亡しているという研究結果もあるようです。
睡眠時無呼吸症候群に陥っている人は、朝まで眠りが続くため、自分が睡眠時無呼吸症候群に陥っているという自覚がなかなか持てません(特に一人暮らしの人)。そのため、日中の眠気を単なる睡眠不足と軽視して放置してしまうことがよくあるそうです。十分な睡眠時間を確保しているにも関わらず、日中に強い眠気を感じている方は、一度耳鼻科などで診察を受けた方がよいかもしれません。
※. いびきをかくのは、上気道の異常が原因である「閉塞性睡眠時無呼吸症候群」の場合です。「中枢性睡眠時無呼吸症候群」の場合は、脳(呼吸中枢)の異常が原因で無呼吸が起きるため、いびきはかきません。
いびきの主な原因
いびきの主な原因は、以下のものが挙げられます。
肥満(メタボ)
肥満になると軟口蓋や喉周辺、舌(舌根)にも脂肪がついてきて、上気道を狭くします。そのような状態で仰向けに寝ると、いびきが激しくなり、無呼吸も起きやすくなります。実際、睡眠時無呼吸症候群の患者に最も多いのは肥満体型の人と言われており、特に成人になってから肥満になった人はより注意が必要だと言われています。また、体質的に首回りが太く短い人も、首回りに脂肪がつきやすい傾向があるため、注意が必要です。
アゴの骨格
先天的に下アゴが小さい人は、口の中の面積も狭く、舌が正しい位置に収まりきらない場合があります。そのような場合、舌が後方に落ち込みやすくなり、上気道を狭くする原因になります。
日本人はもともと農耕民族で、硬い肉をたくさん食べていた狩猟民族の欧米人よりもアゴの発達が少ない(アゴが小さい)と言われています。さらに、現代人は昔の人に比べると、硬いものを食べなくなっているため、その点においてもアゴ(特に下アゴ)の発達が少なくなっているそうです。実際、日本の睡眠時無呼吸症候群の患者の約3割には、アゴが小さい傾向が見られるそうです。
長い口蓋垂
口蓋垂(のどちんこ)が長くて舌と接している人は、上気道が狭くなりがちです。特に、飲酒や疲労によって口蓋垂が軟口蓋や舌根とともに腫れてくると、上気道が塞がれて、いびきの原因になります。
口蓋垂が長いかどうかのチェックは、鏡を使って行うことができます。鏡の前にまっすぐ立ち、顔を真正面に向けた状態で口を大きく開け、舌を「ベー」と出します。その時、「舌の盛り上がりで口蓋垂がまったく見えない」あるいは「かろうじてわずかに見える」という人は、舌が長いと言うことができ、睡眠時無呼吸症候群である確率が2倍以上になると言われています。
肥大した扁桃腺
口蓋扁桃(こうがいへんとう)[※1]に細菌やウイルスが付着すると、炎症を起こして肥大(腫れ)します。そうなると、上気道が狭くなり、いびきをかきやすくなります。また、咽頭扁桃(いんとうへんとう)[※2]も、感染症やアレルギーによって肥大することがあります。そうなると、鼻から喉にかけて塞がれてしまい、口呼吸となり、いびきをかきやすくなります。
※1. 口蓋扁桃:喉奥の両側に位置する肉質の塊のようなもの。いわゆる扁桃腺。
※2. 咽頭扁桃(アデノイド):鼻と喉をつなぐ領域、鼻咽腔の後壁部分に存在する扁桃のこと。
鼻中隔わん曲症
右の鼻穴と左の鼻穴を隔てている部分を「鼻中隔(びちゅうかく)」といいます。この部分が曲がりぎみである人は、本格的に鼻中隔が曲がる「鼻中隔わん曲症」を引き起こしやすくなります。鼻中隔わん曲症になると、鼻穴の中を通る空気の流れが乱れて音が出ます。その音が鼻や喉で共鳴して大きくなり、いびきになるのです。また、鼻中隔わん曲症の症状である慢性的な鼻づまりが、睡眠時無呼吸症候群の原因になることもあります。
飲酒
お酒を飲むと筋肉が緩んで、舌の付け根が喉奥に落ち込み、上気道を狭くします。また、飲酒によって舌や口蓋垂、軟口蓋が腫れるため、その腫れによっても上気道は狭くなります。さらに、体はアルコール成分を分解する際にたくさんの酸素を必要とするため、その酸素を効率的に体内に取りこもうとして、口呼吸になりがちです。よく週末の繁華街で、泥酔したサラリーマンが大きな口をあけて、いびきをかいていることがありますが、それは上気道でこういったことが起きているためです。
さらに加えて言うと、飲酒は過食を招いて肥満の原因にもなりますので、そういった意味でも控えめにした方がよいと言えるでしょう。
さいごに
ひと昔前の社会と比べ、現代社会はストレスを受けやすい状態にあると言われています。そのような社会で生きていくために、質の良い睡眠を確保することは、とても大切なことです。
「たかが、いびきだ」といって症状を軽視していると、重篤な病気を患ったり、睡眠不足による交通事故を招くこともあります。そのようなことになれば、家族にはつらい思いをさせますし、同じ会社の上司や同僚には迷惑をかけてしまうこともあるでしょう。逆に、質の良い睡眠が得られていれば、メンタルが安定し、表情もハツラツとしますので、周りの人を幸せにすることにつながります。
いびきが気になる人やいびきを指摘された人、そして日中に異常な眠気が襲ってくる人は、ご自身だけでなく周りの人のためにも、なるべく早くに耳鼻科を受診されることをおすすめします。
参考文献
丹後中央病院「呼吸器内科 Airway Medicine」
https://www.tangohp.com/topics/20140821.html
SAS対策支援センター「睡眠時無呼吸症候群と健康のコラム|いびきのメカニズム」
https://www.sas-support.or.jp/column/snore-mechanism/
阪野クリニック「単純性いびき症を睡眠専門医が教えます」
https://banno-clinic.biz/simple-snoring/
日本呼吸器学会「Q15 夜、いびきをかく、と言われました - 呼吸器Q&A」
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q15.html
コレージュクリニック ザ・ペニンシュラ東京「「いびき」にも種類がある!危険性の高いいびきについて知ろう」
https://gincolle.com/column02/
新潟大学地域医療教育センター(相澤直孝)「小児睡眠呼吸障害診療の現状と今後の展望」
https://niigata-u.repo.nii.ac.jp/record/8296/files/131(4)_199-206.pdf
みらいメディカルクリニック西六郷「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」
https://seichikai.or.jp/section/sas/
そめかわクリニック「奈良の睡眠時無呼吸症候群」
https://somekawa-clinic.com/sas.html
睡眠時無呼吸症候群治療ガイド( 医療法人社団 順誠会)「「いびき」を起こす病気について」
https://saito-jibika-ibiki.com/disease.html
IBIKI MEDICAL CLINIC「いびきを止める方法5つ!原因から見る対処法を紹介」
https://www.ibiki-med.clinic/column/how_to_stop_snoring/
書籍「その睡眠が寿命を縮める」末松義弘 著