胃がもたれるってどんな状態?胃もたれの原因と解消法
「食事時になっても食欲がわかない」
「食べ始めると、すぐにお腹一杯になる」
「食後に胃が重苦しい」
皆さんは、日ごろこのような胃もたれ症状を感じていませんか?
胃もたれ症状は「なんとなく」「ジワジワ」と私たちを苦しめますが、激痛をともなうことはありません。そのため、多くの人は根性論で胃もたれを乗り切って、適切な改善や処置を怠りがちです。しかし、胃もたれが及ぼす影響は意外に大きく、場合によっては、あなたの「人生の質」を大きく下げる可能性があります。
今回は「胃もたれ」の原因や解消法について、解説をしていきます。
目次
胃がもたれるってどんな状態?
ひとくちに「胃もたれ」といっても、症状には違いがあります。代表的な症状としては、以下のものが挙げられます。
- 胃が重苦しい
- 胃に圧迫感がある
- 胃にずっと食物が残っている感じがする
- 胃にムカつきがある
こういった症状を感じている人の多くは、食欲が弱いため「食事の回数」が減りがちです。また、食事をとったとしても、すぐに満腹感が出てきてしまうため、一回の食事で摂取する「食べ物の量」も減りがちです。
食事は命を営む上で必須の行為であるということは周知の通りですが、それと同時に大きな「楽しみ」でもあります。しかし、胃もたれによって食事が抑制されると、「好物をおいしく食べられない」といった問題や、「家族と一緒に食事が楽しめない」といった問題も出てきます。また、症状の度合いによっては、身体的な活動が抑制されたり、表情が曇ったり険しくなってしまうこともあり、社会生活や人間関係に影響を及ぼすこともあるのです。
あながち軽視できない理由
胃もたれを感じている人の中には、「たかが胃もたれ」と軽く捉えて、放置をしてしまう人がいます。また、「忙しいので時間ができたら」と治療を後回しにしたり、「高齢だから」という理由で、何の改善も行わないまま諦める人もいるようです。
胃もたれの弊害が「不快な症状」だけなのであれば、場合によっては、このようなリアクションでも良いかもしれません。しかし、実際には、より深刻な弊害が隠れていたり、後になって二次的な弊害が体に現れる場合もあります。
病気の前兆や症状の場合もある
多くの胃もたれは、生活習慣や食生活の乱れによって引き起こされますが、病気の前兆や症状として現れていることもあります。症状の程度が激しかったり、慢性的な症状が見られる場合には、早期に医療機関で検査をしてもらった方が良いでしょう。
胃もたれと関係のある主な病気は、以下のとおりです。
【 機能性ディスペプシア 】
ストレスなどが原因で胃の働きが落ちたり、自律神経が乱れる病気です。機能性ディスペプシアでは、食事をしていなくても胃もたれを自覚することがあります。胃カメラを使って胃の内部をみても、病状を確認することができないのが特徴です。
【 ピロリ感染胃炎 】
2~5歳頃、ある経路から胃にピロリ菌が入ると、それが自然の成長過程において排泄されることなく、慢性的な胃炎を引き起こします。胃炎が長期化すると、胃の内部にあるシワが徐々になくなっていきます(胃の粘膜が委縮する「萎縮性胃炎」)。胃酸はシワの部分から分泌されるため、シワが減少すれば、胃酸も減少してしまいます。その結果、食後に消化不良が起きて、胃もたれが起きやすくなります。
【 胃潰瘍 】
胃潰瘍とは、胃の内壁にある粘膜が、胃酸によってえぐられる病気です。食事中や食後に胃痛を自覚するのが一般的ですが、それ以外にも胃もたれや胃の張りなどを自覚することもあります。原因の8~9割は「ピロリ菌」、次に多い原因は「ロキソニン」などの鎮痛剤(非ステロイド剤抗炎症薬)の長期使用だと言われています。
【 胃がん 】
胃は柔軟性があり、食事の際には膨らむようにできています。しかし、胃にガンができると、その柔軟性が部分的に損なわれ、うまく膨らまないことがあります。こうなると、胃の運動に支障が生じ、食後に胃もたれなどの症状が現れることがあります。
【 逆流性食道炎 】
胃酸や食べ物などが、胃から食道に逆流する病気です。一般的な症状としては「胸やけ(食道やけ)」や「呑酸(口内に酸味を感じる状態)」などが挙げられますが、そこまでいかなくても、軽い症状として「胃もたれ」や「胃の張り」が現れることもあります。また、逆流性食道炎は、便秘によって腸内にガスが溜まり、腹圧(腸圧)が高まることでも起こりやすくなると言われています。
栄養不良に陥る場合もある
胃もたれがあると、食事の回数や、一回の食事で摂取する食べ物の量が、どうしても少なくなってしまいます。すると、必要な栄養の摂取量も当然ながら不足することになります。胃もたれによって栄養不足に陥ることは、誰にとっても問題ですが、高齢者は特にその影響を大きく受けてしまいます。といいますのも、そもそも高齢者の多くは若い人と比べて食が細く、食べるとしても味つけがアッサリとしていて、柔らかいものを食べがちです。つまり、肉類をあまり食べずに、パンやお茶漬けなど、食べやすい炭水化物をメインにして食べている傾向が強いのです。こういった食事メニューでは、やはり「タンパク質」が不足することになります。もともとタンパク質が不足する傾向にある高齢者が、胃もたれを起こして食欲不振に陥れば、より一層タンパク質不足に拍車がかかることになります。
一般的にタンパク質は筋肉の原料として知られていますが、実は胃の粘膜や消化酵素(ペプシンなど)の原料にもなっています。そのため、タンパク質が不足すると、それらが十分に作られないので「胃の消化力」が落ちて、タンパク質がより一層とりこみづらくなるという「負のスパイラル」に陥る可能性もあるのです。また、胃の消化力が落ちてしまうと、仮に栄養満点の食事を摂ったとしても、それらが十分に体内(腸)で吸収されなくなり、栄養を多く残したまま排泄されるようになります。その結果、しっかり食べていても栄養不良に陥るといった残念な現象が起きてしまうことになるのです。
胃もたれの主な原因
胃もたれが起きる主なメカニズムは、次の3つです。
- 胃酸の分泌不足・・・食べ物がなかなか消化されず、長く胃の中に滞留するため、胃もたれが起こる
- 胃酸の過剰分泌・・・胃酸によって胃の粘膜が傷つけられるため、胃もたれやムカつきが起こる
- 蠕動運動の低下・・・胃の中の食べ物がなかなか腸に送り出されず滞留するため、胃もたれが起こる
そして、これらのメカニズムが働いてしまう原因としては、「病気、手術、薬」などの影響も考えられますが、大抵は「生活習慣(食生活)の乱れ」によるものです。
それぞれの具体的な原因について見ていきましょう。
暴飲暴食
暴飲暴食が胃もたれの原因になるということは、多くの人が経験的に知っていることではないでしょうか。
たとえば、
「炎天下で運動した後、冷たい飲み物をガブ飲みして胃もたれになる」
「極度の空腹を満たそうとして必要以上に食べ過ぎ、胃もたれになる」
「ストレスを発散するためにヤケ食いをして、胃もたれになる」
などが挙げられます。
冷たい飲み物をガブ飲みすれば、胃に負担をかけることになりますし、「胃内停水[※]」の状態となって、胃もたれや食欲不振を引き起こしてしまうこともあります。また、食べ過ぎは胃の中に食べ物が長く停滞するため、当然ながら胃もたれが起きてしまいます。
※. 胃の中に水分が停滞する病症のこと。
寝る前の食事
寝る前の食事が胃もたれの原因になることも、多くの人が経験的に知っていることでしょう。胃の中に食べ物が残っている場合、胃は私たちが寝ていても消化運動を続けてくれますが、起きているときと比べると、その運動が緩慢になると言われています。胃の運動が緩慢になると、食べ物が長く胃の中に停滞するため、胃に負担を与えることになります。
また、食べてすぐ横になると、胃に入った食べ物が食道へと逆流する「逆流性食道炎」が起きやすくなりますので、人によっては胸やけも感じる場合があります。
脂っこい食べ物
脂っこい食べ物の摂取も、胃もたれの原因の一つです。
たとえば、次のような食べ物が挙げられます。
・ラーメン(特に豚骨ラーメン)
・焼き肉(特にカルビ)
・唐揚げ(特に皮つき鶏モモ肉)
・ピザ
・天ぷら など
調理方法や個人の体質、食べ物の種類などにもよりますが、脂っぽくない食べ物(約100g)を消化するのに要する時間は「約2~3時間」と言われています。一方、脂っこい食べ物(約100g)を消化するのに要する時間は「約4~5時間程度」と言われていますので、それだけ胃の負担も大きいということになります。
ストレス
「不安、緊張、恐怖」といった感情は、情動を司る脳の大脳辺縁系というところで生まれ、その信号が自律神経の中枢である視床下部に伝わって、交感神経を刺激します。交感神経が優位になると、胃の血管が収縮して血流量が減り、胃の運動や胃酸の分泌も減少してしまいます。これによって、胃の働きが鈍くなり、結果的に胃もたれが起きてしまうことがあるのです。
また、自律神経は交感神経と副交感神経のバランスをとるようにできていますので、交感神経の働きが強くなり過ぎた場合には、その調整として、副交感神経の働きを強めようとします。副交感神経が優位になると、今度は逆に胃酸の分泌が増加します。これが繰り返されると、胃の粘膜が胃酸によって徐々に損傷し、胃のむかつきやもたれを引き起こすこともあります。
嗜好品
【 タバコ 】
タバコに含まれているニコチンという成分には、血管を収縮させる働きがあるため、喫煙すると胃や十二指腸などの消化管の働きが悪くなります。また、ニコチンは下部食道括約筋[※]を緩ませるため、胃液が食道に逆流しやすくなり、それが胸ヤケとして現れることもあります。
※. 食道と胃の接続部分にある筋肉のこと。通常、食べ物が食道から胃へと通過する時には緩んで開きますが、通過後には逆流を防ぐために閉じられます。
【 お酒 】
お酒を飲み過ぎると、肝臓がアセトアルデヒドを十分に処理しきれなくなり[※]、血液中のアセトアルデヒド濃度が高くなります。アセトアルデヒドは、二日酔いをはじめ、さまざまな悪影響を体に及ぼしますが、胃痛や胃もたれ、胸ヤケなども引き起こすと言われています。ちなみに、アセトアルデヒドはタバコの副流煙にも多く含まれています。
※. アルコールは肝臓内でアセトルデヒド(有害)に分解され、そこからさらに酢酸(無害)に分解されます。しかし、アルコールの摂取量が多すぎると、アセトアルデヒドが十分に分解されず、一時的に体内に蓄積されることがあります。
【 刺激の強い飲食物 】
刺激の強い飲食物は、胃の内壁を直接刺激して、胃酸の過剰分泌を促します。そして、過剰に分泌された胃酸は、胃の内壁を攻撃して、胃もたれや胃痛を引き起こしてしまいます。一般的には、カラシやワサビ、七味、コショウなどの香辛料が連想されることが多いと思いますが、それら以外にも、ブラックコーヒーや強炭酸飲料なども、胃に強い刺激を与えることになりますので、過剰摂取は控えて下さい。
また、嗜好品からは外れますが、タマネギサラダや柑橘系ジュースなども、胃に強い刺激を与えると言われていますので、過剰摂取しないように注意しましょう。
その他
「胃周辺の不快感」という括りで原因を追求すれば、他にもたくさん原因は挙げられます。
・少ない咀嚼回数
・うつぶせの寝相
・締めつけが強いズボンやパジャマ
・猫背
・睡眠不足
・運動不足 など
胃もたれの解消方法
上項でも少し触れましたが、胃もたれを解消するには「生活習慣の改善」と「食生活の改善」が必須となります。以下のリストを参考にして、今日からさっそく取り組んでいきましょう。
・酒やタバコを控える
・普段飲む水を電解水素水に変える
・ドカ食いを防ぐ
・極端な食事制限をしない
・一回の食事は20分以上かけ、満腹中枢が働くようにする
・よく噛んで食べる(ひとくち30回以上噛むのが理想)
・ガブ飲みを防ぐ(小さなコップに移してから飲む)
・脂っこい食べ物を避ける
・油は胃に優しいオリーブオイルを使用する
・脂肪が少ないササミ肉やムネ肉でタンパク質をしっかり摂る
・胃酸が多い場合は「ビタミンU」を多く含む食材を食べる(キャベツなど)
・刺激の強い飲食物をさける(特に空腹時)
・極端に「熱い、冷たい」飲食物を避ける
・朝昼晩の食事の時間を一定にする
・食後すぐに寝ない(寝る3時間前には食事をしない)
・どうしても食後すぐに寝たい場合は、体の右側を下にして寝る[※]
・うつぶせで寝ない
・睡眠時間をしっかり確保する(7時間程度が理想的)
・メンタルマネジメントを行う(ストレッサーの特定やメンタルトレーニング)
・ゆったりとした服装を心がける
・姿勢を矯正する(猫背解消のために腹筋を鍛える)
・適度に運動を行う(1日20分・7000歩程度のウォーキングなど)
・胃に良いとされるツボを押す[ 中脘(ちゅうかん)、胃俞(いゆ)、足三里(あしさんり)]
※. 消化不良が気になる人は「右側を下」、逆流性食道炎が気になる人は「左側を下」、両方とも気になる人は「あお向け」に寝て、枕を少し高くすると良いでしょう。
さいごに
胃もたれなどの胃の不調に悩む人の中には、加齢によって胃酸の分泌量が過多(または過少)になると思っている人もいるようです。しかし、胃酸の分泌量は、加齢の影響をあまり受けないと言われています。50歳を過ぎたあたりで、分泌量は少しだけ減少しますが、その減少は臨床的に問題を起こすほどではないとも言われています。
高齢者の方は老化によって体の働きが衰えてくると、「自然の摂理」を理由にして、回復を諦めてしまいがちです。しかし、胃酸の分泌量に関して言えば、まだ回復できる余地が残されています。まずは食生活の見直しから始めてみて、改善を試みてみてはいかがでしょうか?
参考文献
医療法人さくら会グループ・さくら医院「胃もたれ」
https://sakura-nk-clinic.com/symptom/36-stomach-ache/
泉ヶ丘内視鏡クリニック「こんな症状ありませんか」
https://izumigaoka-naishikyo.com/symptoms.html
森永漢方薬局「水毒症状の漢方治療」
https://www.m-kp.co.jp/kanpou/chiryou/suidoku.html
Men's Health「How Eating Before Bed Impacts Weight and Overall Health」
https://www.menshealth.com/health/a29589660/eating-before-bed/
WENELL「寝る前の食事は何時間前まで?就寝前におすすめの食べ物などを紹介」
https://nell.life/wenell/2425/
大原薬品工業「第3回 腸のお悩みに。冬の便秘を防ごう!食べものの消化にかかる時間」
https://www.ohara-ch.co.jp/meitantei/vol03_1.html
同友会グループ「栄養士コラム|第27回 食べ物の消化時間」
https://www.do-yukai.com/meal/27.html
第一三共ヘルスケア「くすりと健康の情報局|“自律神経”の重要な働きとは? ストレスや加齢との関係も解説」
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/selfcare/autonomicnerves-01/
第一三共ヘルスケア「くすりと健康の情報局|二日酔いの原因」
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/health/symptom/38_futsukayoi/
エーザイ株式会社「ストレス|胃の不快症状の原因を探る」
https://www.eisai.jp/articles/stomach_mechanism/cause02
養命酒製造株式会社「ストレスがなぜ胃腸に影響するの?」
https://www.yomeishu.co.jp/icho_fucho/eikyo/
小松おなかとおしりのクリニック「『消化器内科専門医が解説』【胃もたれ】について」
https://www.clinic-sora.jp/heavy-stomach/
くにちか内科クリニック「禁煙すると、こんなイイことが…」
https://kunichika-naika.com/subject/noskoking-effect
環境省「アセトアルデヒドに係る健康リスク評価について」
https://www.env.go.jp/council/07air-noise/y0711-08-1/900426769.pdf
社会医療法人 明陽会 健康管理センター「保健指導室だより Vol.10 2013.3」
https://www.meiyokai.or.jp/kenshin/health_guidance
日本食糧新聞電子版「オリーブオイル特集 効能」
https://news.nissyoku.co.jp/restaurant/grs-97-0024
日本調剤「栄養だよりNo51-10月号|胃腸のトラブルを防ごう」
https://www.nicho.co.jp/files/1366/
動画「森ノ宮胃腸内視鏡ふじたクリニック|胃もたれを起こす病気 5選について消化器専門医が解説 日常診療でよく遭遇する病気について5つの病気を解説します」
https://www.youtube.com/watch?v=a53qwfg8_Kc
書籍「薬を使わずに胃を強くする方法」小林びんせい 著
書籍「胃は歳をとらない」三輪洋一 著