更年期障害とは?さまざまな症状と治療法について
女性は40代半ばあたりから「更年期」と呼ばれる年齢域に入ります。更年期には体にさまざまな変化が生じ、それによって心身に重度の症状が現れることもあります。そのため、これから更年期に入る女性たちの中には、その症状に悩まされる人も出てくることでしょう。しかし、更年期障害についてあらかじめ学んでおけば、心の準備が整って、職場や家庭での対処法も落ち着いて考えられるようになります。
また、男性はパートナーの更年期に訪れる「心の変化」を知ることができるため、この時期にどのようなメンタル的なフォローが必要なのかをじっくりと考えることができ、将来の豊かなミドルライフを設計することにも繋がります。この記事では、女性の更年期障害を中心に解説をしています。
まずは更年期とは何なのか、そして、症状や治療法などのアウトラインについて学んでいきましょう。
目次
更年期障害とは
更年期障害とは、更年期の心身に起こるさまざまな重い症状を総称した言葉です。
一般的に、更年期とは45~55歳ぐらいの年齢域を指しており、女性の平均的な閉経年齢がだいたい50歳頃ですので、この時期をはさんだ前後5年(計10年)ぐらいの期間が更年期ということになります。
女性はこの年齢域に入ると、女性ホルモンの分泌量が急激に減少し、全身にさまざまな症状が現れます。この現象は避けることができない老化現象の一つですので、どの女性も必ず何らかの症状を経験することになります。しかし、その症状の種類と程度には個人差があり、ほとんど症状を感じない人もいれば、重くて寝込む人もいたりと、人によって症状の現れ方は異なります。
【更年期に症状を感じる割合(女性)】
①ほとんど感じない・・・30~40%
②症状を感じる・・・・・30~40%
③治療が必要・・・・・・20~30%
上記のうち、①②は「更年期症状」、③は「更年期障害」と呼び分けられています。つまり、症状が重く、治療を必要とする更年期症状が「更年期障害」なのです。
さまざまな症状
更年期の症状は、よく「不定愁訴[※]」という言葉で一括りに表されることがありますが、細かく見てみると非常に多くの種類があります。
・頭痛、頭重感
・熱感、発汗(のぼせ、ほてり)
・口腔内乾燥感、唾液分泌亢進
・興奮、不眠、圧迫感、疲労感
・恐怖感、不安感、憂うつ、イライラ
・記憶力低下、判断力低下
・めまい、耳鳴り
・肩こり
・動悸、頻脈、遅脈
・嘔吐、吐き気、食欲不振
・肥満、やせ
・しびれ感、知覚過敏、知覚鈍麻、蟻走感
・腰痛、背中の痛み、筋無力症状
・不正出血、おりものの増量、外陰部掻痒感
・下痢、便秘、お腹の張り
・頻尿、排尿痛、排尿困難、残尿感
・皮膚の衰え
・手足の冷え など
このうち、代表的な症状としては、のぼせやほてり(ホットフラッシュ)、発汗、動悸、めまいなどの「自律神経失調」が挙げられます。これらの症状は、発作的に現れるのが特徴で「のぼせ発作」と呼ばれることもあります。のぼせ発作は、頭重感から始まって徐々に熱感が現れ、それが頭から首を経て、胸や背中に広がっていきます(手足にまで広がることもあります)。そして、それと同時に頭から胸や背中にかけて、汗をかくようにもなります。このような症状が1日に数回起こるようになるのです。
次に多く見られる症状は、不安感や憂うつ、イライラ、記憶力低下などの「精神神経症状」です。精神神経症状は、家庭環境や社会環境、個人の性格といった、体質以外の要素からも強く影響を受けるため、治療に際しては自らの取り組みが必要になることもあります。
※. 不定愁訴(ふていしゅうそ):全身にわたるさまざまな種類の不快症状のこと。
更年期障害が起こるしくみ
更年期に入ると卵巣機能の老化が始まり、卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)[※1]の量が急激に減少します。すると、脳の一部である視床下部は、女性ホルモンが減少していることを血液の情報から感じ取り「もっと女性ホルモンを出せ」という指令として、「性腺刺激ホルモン放出ホルモン」を分泌します。このホルモンが分泌されると、今度は脳の一部である下垂体が反応し、卵巣を刺激するホルモンである「性腺刺激ホルモン[※2]」を分泌します。本来であれば、ここで女性ホルモンが正しく分泌されるはずなのですが、機能が衰えている卵巣は、脳の指令通りに女性ホルモンを分泌することができません。こうなると、脳はパニックを起こしてしまいます。
脳の一部である視床下部は、自律神経の調節を行う中枢部分ですので、ホルモンの分泌が乱れると、それに影響を受けて自律神経も乱れてしまうのです。
①女性ホルモンの分泌量が減少すると…
②視床下部から「性腺刺激ホルモン放出ホルモン」が分泌される
③すると、下垂体から「性腺刺激ホルモン」が分泌される
④すると、卵巣から「女性ホルモン」が分泌される(はずが、されない!)
⑤脳がパニックを起こし、自律神経が乱れる
⑥自律神経が乱れると、心身にさまざまな症状が現れる
※1. エストロゲンは、女性らしいくびれや丸みのあるボディーラインを作る「美のホルモン」。プロゲステロンは、子宮内膜をふかふかにして妊娠を維持する「母のホルモン」。
※2.エストロゲンの分泌を促すFSH(卵胞刺激ホルモン)と、プロゲステロンの分泌を促すLH(黄体形成ホルモン)の2つのホルモンのこと。
男性の更年期障害
更年期障害は、女性だけに起こるものではありません。症状の現れ方は女性ほど顕著ではありませんが、男性にも更年期障害は起こります。
男性の場合、男性ホルモンである「テストステロン」の分泌量の減少が、ホットフラッシュや睡眠障害、性欲低下、疲労感、うつなどの症状を引き起こします。そして、それらの症状が重く、治療が必要になるような場合を「男性更年期障害」と言います。
男性更年期障害の主な特長は、以下の通りです。
・症状の現れ方は、女性ほど顕著ではないことが多い
・のぼせやほてりの症状は比較的少ない
・60代や70代からでも発症する場合がある
・症状が長期間に及ぶことがある
・訴えの多い症状は「性欲減退」と「うつ症状」
「症状が長期間に及ぶことがある」のは、女性ホルモンと違って男性ホルモンの分泌量は、ゆるやかに減少はすることはあっても、急激に減少することはないためです。つまり、男性は「閉経」のような体質の転換ポイントを持っていないため、更年期の期間も「いつからいつまで」といった、まとまった年齢域を示しにくいのです。
更年期障害の発症リスクを長々と持ち続けるわけですから、ある意味、女性の更年期障害よりも厄介といえるかもしれません。最近では、「男性更年期外来」という診療科を設けた医療機関もいくつか現れはじめ、更年期障害に悩む男性の診療を専門的に行っているようです。
治療法について
日本で行われている更年期障害の主な治療法は、以下の3つです。
- ホルモン補充療法(HRT)
- 漢方薬
- 抗うつ薬・抗不安薬
それぞれについて、見ていきましょう。
ホルモン補充療法(HRT)
ホルモン補充療法(HRT)は「飲み薬、塗り薬、貼り薬」のいずれかを使用し、不足した女性ホルモンを補充する治療法です[※1]。
どの女性ホルモンを補充するかは、子宮の有無によって異なります。
子宮がある場合 | エストロゲンとプロゲステロンを補充[※2] |
子宮がない場合 | エストロゲンを補充 |
また、下記に説明する「漢方薬」や「抗うつ薬・抗不安薬」と併用することもあります。
※1. 男性ホルモンを補充する治療法は「TRT」と呼ばれます。
※2. 子宮のある人は、子宮体がん(子宮内膜がん)を防ぐために、エストロゲンと一緒にプロゲステロンも補充します。
漢方薬
漢方薬での治療は「検査では異常が見られないが本人は不調を訴えている」、そのような不定愁訴によく効くと言われています。また、ホルモン補充療法が行えない場合や、複数の更年期障害が見られる場合にも、最初に試みられることが多い治療法です。
漢方薬の処方は、基本的には患者の体質や体格などに合わせて行われますが、相性が良くない場合には効果が現れないこともあるようです。また、患者の体質は治療途中に変化する場合もあり、そのような場合にも効果が現れないことがあります。
更年期障害に用いられる代表的な漢方薬は以下の通りです。
・加味逍遥散(かみしょうようさん)-冷えのぼせ、生理不順、更年期障害など
・温経湯(うんけいとう)-血行を良くして、身体を温める
・五積散(ごしゃくさん)-身体の冷えや痛みをとる
・女神散(にょしんさん)-のぼせ、めまい
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)-手足の冷え、痛み、下腹部痛、腰痛など
・八味地黄丸(はちみじおうがん)-泌尿器、生殖器、腎臓などの機能低下
・桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)-生理不順や生理痛、更年期障害、のぼせなど
・苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)-腰の冷え、痛み、頻尿など
・防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)-動悸、肩こり、のぼせ、むくみ、便秘など
・温清飲(うんせいいん)-生理不順や更年期障害、乾性の皮膚病など
・当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)-身体を温めて貧血症状を改善する
抗うつ薬・抗不安薬
抗うつ薬や抗不安薬は、憂うつや不安などの精神症状が重い場合や、ホルモン補充療法が行えない場合に使用されます。
抗うつ薬 | ・セロトニンやノルアドレナリンを脳内で増やして気分を高揚させる ・効果が現れるまでには、少なくとも2週間ほどかかる |
抗不安薬 | ・不安や焦燥感を沈め、緊張を和らげる ・即効性があるが、長期服用で依存性が生じるため服用には注意が必要 |
周囲に対する説明
更年期の症状は、男性よりも女性の方が顕著に現れることが多いため、男性はなかなか女性の辛さを理解することができません。また、たとえ女性同士であっても、症状の種類や程度は個人差が大きいため、重度の更年期障害を患っている人の辛さは十分に共感されないことがあります。こういった場合、更年期障害で悩んでいる女性は「気づかってもらえない」といった苛立ちや、「仮病を使っていると思われそう」といった不安感から、精神的にふさぎこんでしまいがちです。
更年期障害に対しては、周りの人の配慮や勉強も大切ですが、本人から周りの人に対する説明も同じくらい大切です。更年期障害を患った場合、まずは自分が更年期障害を患っているということを恥ずかしがらずにシッカリと伝えましょう。そして、どのような症状で、どれくらいの程度なのかを、焦らずゆっくりと説明しましょう。その時のポイントは「あなたの手助けが必要なの」というメッセージを相手に届けることです。「更年期障害なんだから仕方がないでしょ!」といったケンカ腰のような態度では、誤解や対立が生まれることがありますので、そういった態度にならないように注意することが大切です。
さいごに
更年期障害に苦しむ人にとって、「更年期障害」は単なるやっかい者でしかありません。しかし、考え方を変えてみれば、更年期障害を経験する年齢まで生きてこられたという事実にも気づかされます。
戦前の女性は多産が多く、平均寿命は50歳ほどだったと言われています。それに対し、令和4年の女性の平均寿命は87歳です。単純な計算で人生の充実度をはかることはできませんが、私たちは37年も長く人生を享受することができるのです。そう考えると、更年期や更年期障害を経験することは「人生の節目」とも捉えることができるのではないでしょうか。
「私もそういう歳になったか、ここまで生かしてくれてありがとう」、そう思うことによって、更年期障害との付き合い方も変わってくるかもしれません。
参考文献
あすか製薬株式会社「ホルモン補充療法(HRT)とは」
https://www.aska-pharma.co.jp/general/menopause/hrt.html
厚生労働省令和4年簡易生命表の概況|主な年齢の平均余命」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life22/dl/life22-02.pdf
ゆうしん内科(札幌市)「男性更年期の検査・診断・治療」
https://www.ys-med.com/loh_syndrome/
書籍「やさしい更年期障害の自己管理」医薬ジャーナル社 出版
書籍「更年期のつらい症状が治る知恵とコツ」主婦の友社 出版
書籍「ホントはコワイ更年期障害 35の対策」日東書院本社 出版
書籍「更年期障害の最新治療」成美堂出版 出版