睡眠の重要性(前編)|睡眠不足が心身に及ぼす影響とは | 水と健康の情報メディア|トリム・ミズラボ - 日本トリム

睡眠の重要性(前編)|睡眠不足が心身に及ぼす影響とは

最近、しっかりと眠れていますか?
なかなか寝付けず睡眠不足になっている人、睡眠時間を削って仕事に打ち込んでいる人、どちらも要注意です。しっかり睡眠をとっていないと、心身の健康を損なうだけでなく、事故を起こしてしまうリスクも高めます。また、感情のブレーキがききにくくなるため、ささいなことでもイライラし、場合によっては周囲の人たちと不仲になってしまう恐れもあるのです。さらに、美容においては肥満や肌荒れの原因にもなるため、まさに悪いことずくめと言えるでしょう。

今回は「睡眠の重要性」と「腸内環境との関係性」について解説をしていきます。

睡眠の役割

睡眠は単なる「活動休止時間」ではありません。
睡眠の大きな役割としては、次のようなものがあります。

脳と体の休養

脳(自律神経)はノンレム睡眠時に、体(筋肉)はレム睡眠時に疲労回復すると言われています[※1]。また、睡眠は日中の活動によって上がった体熱を下げ(熱放散)、脳と体をクールダウンしてくれます。さらに、成長ホルモンの分泌によっても、疲労は回復されます[※2]。その他、脳に溜まった老廃物(アミロイドβなど)を除去する「グリンパティック・システム」も睡眠中に機能します。

※1. 一晩の睡眠は「ノンレム睡眠 + レム睡眠」の繰り返しによって作られます。ノンレム睡眠時には脳の活動レベルが低下し、レム睡眠時には眼球や呼吸に関連する筋肉以外は緩みます。
※2. 成長ホルモンには、疲労回復効果もあると言われています。

ホルモンの調整(分泌リズム・バランス)

睡眠は、食欲を抑えるホルモン「レプチン」と、増進させるホルモン「グレリン」の分泌バランスを正常に保ってくれます。また、骨や筋肉を育てたり、脂肪を分解したり、細胞の修復や再生に役立つタンパク質合成を促したりする「成長ホルモン」も、主に睡眠中に分泌されます[※]。さらに、朝の目覚めを促すホルモン「コルチゾール」の分泌量や分泌リズムも、睡眠によってコントロールされています。

※. 一日の分泌量のうち、「約70%」に相当する量が睡眠中に分泌されると言われています。 

免疫力の向上

しっかりと睡眠をとるとホルモンバランスが整い、それによって免疫力が向上するため、風邪やインフルエンザ、ガンなどを予防します。また、関節の痛みや腫れなどを引き起こすリウマチは、免疫の異常が原因の一つと言われていますが、これも睡眠をしっかりととることによって発症リスクを抑えることができます。

ただし、免疫力を向上させるためには睡眠だけではなく、食生活の改善や日常的な運動なども一緒に行う必要があります。

記憶の整理と強化

起きている間には、五感(視覚や聴覚など)から膨大な情報が入ってきますが、その情報を整理することも睡眠の大きな役割の一つです。パソコンで例えると「デフラグ」のようなもので、複雑に絡まっていたり分散されている記憶(情報)を睡眠によってキレイに整理・統合することができるのです。

また、記憶力を高める上でも睡眠は効果的で、テストの前日などは徹夜で暗記をするよりも、一度頭に情報を入れた後に睡眠をとった方が記憶に残りやすいと言われています。さらに、睡眠をとることによって嫌な記憶は本能的に不要と判断され、消去されるということも、私たちにとって大切な働きと言えるでしょう。

体の痛みをとる

睡眠には体の痛みをとるという役割もあります。ある研究では、「深い睡眠による鎮痛効果」と「一般的な鎮痛剤の効果」を比較したところ、睡眠による鎮痛効果の方が大きかったと報告されているようです。

また、それとは逆に、睡眠不足の状態では痛みを感じやすくなるという報告もあるようです。慢性的な肩こりや頭痛、女性の場合は生理痛なども、しっかりと睡眠をとることによって、改善(緩和)されることがあると言われています。   

睡眠不足が及ぼす影響

睡眠不足が招く悪影響はとても大きく、多岐にわたります。
代表的なものとしては、以下のものが挙げられます。

太りやすくなる

睡眠不足は肥満の原因になると言われています。その理由は、以下の通りです。

・ホルモンバランスの乱れ
睡眠不足になると、食欲を抑制するホルモン「レプチン」が減少し、逆に食欲を増進させるホルモン「グレリン」が増加します。これによって食欲が過剰に増進し、食べ過ぎを起こしてしまうことがあります。

・エネルギー消費の低下
レプチンとグレリンのバランスが崩れると、体はエネルギー消費を節約しようとします。また、睡眠中に分泌される成長ホルモンは脂肪の分解を促進しますが、睡眠不足ではその分泌も低下するため、肥満につながります。

・活動量の低下
夜更かしなどで睡眠時間が短くなると、その分だけ起きていることになり、カロリー消費は増えると思われがちです。しかし実際には、意識がボーっとしたり、ホルモンバランスの乱れからくる疲労などによって活動量は低下するため、摂取したカロリーは消費されずに脂肪になります。

・負のスパイラル
肥満になると睡眠時無呼吸症候群のリスクも高まります。これにより睡眠の質がさらに低下し、「肥満⇔睡眠不足」の負のスパイラルに陥ることがあります。

感染症にかかりやすくなる

細菌やウイルスなどを撃退する「体の自己防衛システム」である免疫は、ホルモンバランスと密接な関係があります。睡眠不足などによってホルモンバランスが乱れると、免疫の働きが低下して、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすくなります。また、体内のウイルスなどを排除する働きも弱まるため、かかってしまった感染症が長引きやすくなったりもします。

さらに、免疫力が弱まると抗体が作られなくなるため、インフルエンザワクチンの効果が出にくいとも言われています。 

認知症になりやすくなる

覚醒時には「アミロイドβ」などの老廃物が、脳に溜まっていきます。この老廃物は、アルツハイマー型認知症の原因と考えられており、通常は頭蓋骨内にある脳脊髄液(間質液)の入れ替えと同時に1日4回ほどのタイミングで排出されていきます(グリンパティック・システム)。老廃物の排出は起きている間にも行われていますが、睡眠中の方が「4~10倍」も活発に排出されるのです。しかし、睡眠不足になると排出が滞り、脳に老廃物がどんどん蓄積していきます。

脳への蓄積は、働き盛りである「30~40代頃」から顕著に見られ、「60代以降」に認知症が発症するというケースが多いようです。また、認知症を発症した高齢者は睡眠障害が現れやすいため、「睡眠不足⇔認知症⇔睡眠障害」の悪循環によって、より深刻な睡眠不足に陥るリスクがあります。仮に認知症にならなかった場合でも、脳機能は老廃物の蓄積とともに徐々に低下していくと言われていますので、睡眠の改善はできるだけ早い段階で行った方が良いでしょう。

糖尿病になりやすくなる

睡眠不足だと糖尿病になりやすいと言われています。その理由は、いくつかのホルモンの働きに関連しています。

まず、毎朝私たちが自然に目覚めることができるのは、「コルチゾール」というホルモンが起床時間に合わせて分泌され、それによって血圧や血糖値が上がるためです。コルチゾールは「目覚めのホルモン」としてよく知られていますが、その一方で「ストレスのホルモン」という異名もあります。この異名の由来は、ストレスを受けた時にコルチゾールが分泌され、そのストレスに対処する反応を示すことにあります。この反応があるため、あまり寝ていない状態で朝を迎えて起床しようとすると、その際にかかる大きなストレスによって一時的にコルチゾールが急増します。

コルチゾールは血糖値の上昇を抑える働きを持つ「インスリン」の分泌を低下させる作用もあるため、無理やり起床するような生活を続けていると、必然的に血糖値も高くなってしまうのです。また、インスリンが減少すると、自然な眠りに導く睡眠ホルモン「メラトニン」も減少するため、睡眠の質が悪くなります。

さらに、上記でも触れた摂食ホルモン「レプチン」と「グレリン」、脂肪分解作用のある「成長ホルモン」の分泌異常も睡眠不足によって引き起こされるため、それらも糖尿病のリスク要因となります。レプチンとグレリンにおいて有名な話では、「両者の分泌バランスが崩れると、食欲のタガが外れて過食に走りやすい」というものがあります。これはこれで確かに問題ではありますが、レプチンにおいては「過食の問題」以外にも大きな問題があります。レプチンはインスリンの働きを補助する役割もあるため、慢性的にレプチンが減少した場合には「インスリン抵抗性」に陥り、糖尿病の発症リスクを高めてしまうのです。

ガンになりやすくなる

医学の世界では、20世紀まで「眠れなくても死ぬことはない」、または「精神疾患はあっても身体疾患を起こすことはない」と考えられていたそうです。しかし現在では、「睡眠不足」と「ガンを含む五大生活習慣病」の発症は、密接に関係していることが明らかになり、命を脅かす危険性があるという認識がスタンダードになっています。

この認識の兆しが見え始めたのは1990年代あたりからで、客室乗務員や交代勤務者など、本来暗くなるはずの時間帯に明るい場所で働いている人たちは、ガンの発症率が高まるということが明らかになってきたのです。これは、睡眠中に分泌されるはずの「メラトニン」というホルモンが、網膜から光を受けることによって抑制されてしまうことが原因になっていると考えられています。

メラトニンは、「ビタミンC」や「ビタミンE」よりも強力な抗酸化作用があり、活性酸素によるダメージから細胞を守り、ガンの発症抑制にも大きな役割を果たしているホルモンです。

先ほどお伝えした通り、メラトニンの分泌は光によって左右され、例えば昼光色のシーリングライトで照らされた室内で3時間ほど過ごすと、メラトニンの分泌は50%まで減少すると言われています。長期にわたって夜更かしをしたり、電気をつけたまま眠ったりしていると、ガンを育てることにもなりかねませんので、注意しなければいけません。

うつ病になりやすくなる

睡眠不足はうつ病の発症にも大きく関係しています。

1989年、約8000人を対象にして行われたアメリカの研究では、不眠症状のある人のうつ病発症リスクは、不眠症状のない人と比較して「約40倍」になるという結果が示されています。また、その研究では、調査を行った時点で不眠症だった人が、その後に症状が改善した場合、うつ病の発症リスクは十分に眠れている人と同レベルにまで下がったとも報告されているようです。

つまり、それだけ「睡眠不足」と「うつ病の発症」の関連性は高いというわけです。さらに、その関連性を裏付けるものとして、うつ病を発症した人の多くは、発症前に不眠症の症状が現れていたというデータもあるそうです。寝つきの悪い状態が長く続いている人は、うつ病が忍び寄っている可能性もありますので、注意した方がよいでしょう。

外見が老ける

睡眠中に多く分泌される成長ホルモンは、全身の細胞の成長と代謝を促すホルモンです。疲労回復や免疫機能に作用するだけではなく、美容やアンチエイジングにも深く関わっているため、「若返りのホルモン」と呼ばれることもあります。この成長ホルモンが睡眠不足によって十分に分泌されなくなると、毛細血管が修復・再生されなくなるため、栄養の供給が十分に行われず、シミやシワ、薄毛や白髪の原因になります。

また、成長ホルモンには、女性ホルモンの一種である「エストロゲン」の分泌を促す作用もあります。エストロゲンは女性らしい丸みのある体型を作ったり、細胞を修復して肌を美しくしてくれるホルモンですので、その分泌が阻害されてしまうことは、健康美を目指す女性にとっては大きな問題です。

ちなみに、40代の韓国人女性32人を対象にしたある研究では、4時間睡眠をたった1晩経験するだけで、皮膚の水分量は大幅に減少し、肌ツヤ、落屑(らくせつ)[※]、透明感、弾力性、シワが著しく悪化したと報告されています。

※. 皮膚がフケのようにボロボロと剥がれ落ちること

対人関係が悪化する

睡眠不足になると、些細なことでも怒りやすくなったり、四六時中イライラするようになります。そうなると、他者に対する「協調性」や「共感力」が低下して、対人関係が悪化したり、社会生活を営むことが困難になってしまうこともあるのです。

人間は基本的な性質として、笑っている人を見ると自然と笑顔になったり、泣いている人を見るともらい泣きをしたりすることがあります。これは、脳内にある「ミラーニューロン」が活性化するためです。

しかし、ある実験では、睡眠不足状態においてミラーニューロンの働きに変化が見られ、次のような反応を示したそうです。

・怒った顔(の画像)を見せた時には強く反応
・笑った顔(の画像)を見せた時には無反応

つまり、ちょっとしたことでも喧嘩や言い争いが起き、他者からの冗談に対してはムシをしてしまうという、なんとも嫌な性格に変わってしまうということになります。

また、睡眠不足になると、脳の偏桃体(へんとうたい)が過剰に活性化して不安や恐怖を感じやすくなったり、嫌なことを通常よりも覚えやすくなる、とも言われています。この変化は、社内関係や恋愛関係、夫婦関係、親子関係など、様々なところで悪影響を及ぼし、場合によっては犯罪やトラブルに巻き込まれる危険性もあるのです。

事故を起こすリスクが上がる

労働問題の話題において「プレゼンティーイズム」という言葉がよく使われます。これは「不健康な状態のまま勤務し続けること」を意味する言葉で、生産性の低下や作業精度の低下の一因として考えられています。

不健康な状態というのは、大病や感染症の罹患のほか、仕事に支障をきたすほどの頭痛、腰痛、アレルギー、肩こりなどを指しており、睡眠不足(不眠)もその一つになります。睡眠不足によるプレゼンティーイズムは、ビジネスの場においてはもはや常態化しているところもあり、職場で取り上げられることは少ないのかもしれません。しかし、睡眠不足によるプレゼンティーイズムは、生産性や作業精度を低下させるだけではなく、時として大規模な交通事故や産業事故を引き起こす危険性があるのです。

例えば、以下の大惨事は従業員の睡眠不足や過労、シフトワーク、深夜勤務などが大きな原因であると言われており、大枠で見た場合、すべて「睡眠」との関連性が示唆されていると言えるでしょう。

・アメリカ「スリーマイル島の原発事故」── 発生日時:1979年3月28日の午前4時37分
・旧ソ連「チェルノブイリ原子力発電所事故」── 発生日時:1986年4月26日の午前1時23分
・アメリカ「エクソンバルディーズ号原油流出事故」── 発生日時:1989年3月24日の午前0時4分

睡眠不足は、記憶力、理解力、集中力、計算力、処理能力、意欲、クリエイティビティ、コミュニケーション力などの低下を招きます。また、脳の瞬間的居眠りである「マイクロスリープ[※]」も引き起こすことがあるため、軽視は禁物です。

※. 睡眠不足を解消するために1~10秒ほど脳が眠り、働かなくなる状態のこと。自覚症状はなく、しばしば長距離トラックドライバーの交通事故の原因にもなっています。

«後編へ続く»


参考文献

JAMA Network「Ford DE, Kamerow DB.|Epidemiologic study of sleep disturbances and psychiatric disorders. An opportunity for prevention?」

https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/378663

WILEY ONLINE LIBRARY|Sue Im Jang et al.

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/srt.12797

広島大学「【研究成果】居眠り運転事故直前でのマイクロスリープ(瞬眠)を検知~トラックドライバーのドライブレコーダー映像研究~」

https://www.hiroshima-u.ac.jp/news/76581

書籍「最新科学で解き明かす最高の睡眠」洋泉社 出版

書籍「睡眠と覚醒 最強の習慣」三島和夫 著

書籍「睡眠のしくみ」成美堂出版 出版

書籍「睡眠障害」西野精治 著

書籍「クロノタイプ別睡眠レッスン」穂積桜 著

書籍「仕事が冴える眠活法」中村真樹 著

書籍「丈夫がいいね いきいき快眠学」北國新聞社 出版

書籍「脳まで眠る 睡眠がすべてを解決する」宝島社 出版

書籍「スッキリした朝に変わる 睡眠の本」梶本修身 著

書籍「睡眠の大研究」PHP研究所 出版

書籍「一流の睡眠」裴英洙 著

書籍「睡眠を整える」菅原洋平 著

書籍「やさしい睡眠障害の自己管理」大熊輝雄 著