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生物蓄積と環境汚染の影響について

「マグロには水銀が多く含まれています」、こんな話を聞いたことがありませんか?

これは、マグロが先天的に水銀を多く含む種であるという意味ではありません。海の中で生息し、エサをたくさん食べていった結果、マグロの体内に水銀が多く蓄積されてしまったという意味です。

マグロにとって海の中で生息し、エサをたくさん食べることは種として当然の営みですが、なぜこのようなことが起きてしまうのでしょうか?この答えを知るためには「生物蓄積」について学ぶ必要があります。生物蓄積はマグロ以外の生物にも見られる現象で、私たち人間も例外ではありません。

今回は、環境汚染問題と私たちの健康に大きな関係をもつ生物蓄積について解説します。

生物蓄積とは

生物蓄積(bioaccumulation)とは、生物の体内で化学汚染物質が高濃度に蓄積する現象のことです。

生物蓄積のメカニズムを説明する際、その例えとして「貯金箱にお金をコツコツとためる」イメージが用いられることがありますが、実際にため込んでいるものは、有用なお金ではなく「有害な化学汚染物質」です。しかも、その有害な化学汚染物質は私たちが知らないうちに蓄積し、一定の蓄積量に達した時点で、私たちの体に甚大なダメージを与えます。

生物蓄積という言葉は、少しアカデミックなイメージがあるためか、一般的にはあまり知られていませんが、実は私たちの健康や寿命、そして環境問題とも大きな関りがあります。

生物蓄積は一体どのようにして起こるのか、まずはそのメカニズムについて見ていきましょう。

生物蓄積のメカニズム

生物蓄積のメカニズムは、以下の二つに大別されます。

環境からの吸収による蓄積(直接濃縮) [※1] 
生物が水や空気などの環境中から、直接的に有害物質を吸収して蓄積するメカニズムです。水生生物の場合は、エラ(エラ呼吸)や体の表面を通して、水中から化学物質を体内に蓄積することになります。このメカニズムは、「布地の染色」に例えるとイメージがしやすいかもしれません。以下は布地の染色工程を単純化したものですが、生物蓄積にあてはめながら見てみましょう。

①水が入った容器に染料を入れる・・・海や湖に化学汚染物質が入る
②そこに布地を浸ける・・・そこに生物を住まわせる
③徐々に布地が着色される・・・徐々に生物が汚染される
④手もみすることで着色は促進される・・・エラ呼吸することで体内汚染(蓄積)は促進される

化学汚染物質による環境汚染は、海水や湖水だけではなく空気にも及ぶため、陸生生物にも影響を及ぼします。

食物の摂取を通じた蓄積(間接濃縮) [※2] 
汚染された他の生物を「エサ(食物)」として摂取することで、体内に化学汚染物質が蓄積するメカニズムです。このメカニズムで注目すべき点は、食物連鎖のヒエラルキー(階層)において、上位の生物の方がより汚染されるということです。海を食物連鎖のフィールドとして考えた場合、一例として次のようなヒエラルキーを示すことができます。

大型の魚 【最上層】
 ↑
小型の魚
 ↑
アミ類
 ↑
動物性プランクトン
 ↑
植物性プランクトン 【最下層】

仮に、植物性プランクトンの汚染レベル(化学汚染物質の量)を「1」とした場合、植物性プランクトンを10匹捕食する動物性プランクトンの汚染レベルは1×10の単純計算で「10」になります。そして、その動物性プランクトンを10匹捕食するアミ類の場合には「100」となり、最終的に最上層にいる大型の魚の汚染レベルは「10000」になってしまいます[※3]。

大型の魚 「化学汚染物質:10000」
    ↑
小型の魚 「化学汚染物質:1000」
    ↑
アミ類 「化学汚染物質:100」 
    ↑
動物性プランクトン 「化学汚染物質:10」
    ↑
植物性プランクトン 「化学汚染物質:1」

つまり、階層が上がるごとに生体内の化学汚染物質の量は増え、汚染レベルが高くなるというわけです。

※1. 狭義では「生物濃縮(bioconcentration)」と呼ぶこともあります。
※2. 狭義では「生物蓄積(biomagnification)」と呼ぶこともあります。
※3. ここで示されている数値はあくまでも例示です。

生物蓄積の主な対象物質

化学汚染物質には沢山の種類がありますが、そのすべてが生物蓄積を引き起こすわけではありません。生物蓄積を引き起こす化学汚染物質には「環境や体内で分解されにくく、排出されにくい」といった特徴があります。そして、そういった特徴を持っている化学汚染物質群の中でも、特に有害だと言われているいくつかの化学汚染物質は「POPs(残留性有機汚染物質)」という総称で呼ばれており、以下の4つの性質を持っています。

①毒性
②難分解性
③生物蓄積性
④長距離移動性

すべての化学汚染物質の種類数と比べるとPOPsの数は限られますが、絶対数としては少なくなく、例えば以下のようなものが挙げられます。

・アルドリン
・クロルデン
・DDT(ジクロロジフェニルトリクロロエタン)
・ディルドリン
・エンドリン
・ヘプタクロル
・ヘキサクロロベンゼン
・マイレックス(商品名)
・トキサフェン(商品名)
・PCB(ポリ塩化ビフェニル)
・ダイオキシン類
・フラン(ジベンゾフラン)
・PFOS
・PFOA など

殺虫剤や殺菌剤、農薬、プラスチック燃焼時の副産物など、さまざまなものがPOPsに含まれています。近年、ニュースや新聞などで話題となり、多くの日本国民が知ることになったPOPsとしては「PFOS」と「PFOA」が挙げられます。この二つの化学汚染物質は、PFAS(有機フッ素化合物)という化学汚染物質群に属していて、人体や環境中に長く残留することから「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」という別名が付けられています。沖縄の米軍基地周辺をはじめ、本土においても、水道水や地下水などの汚染が懸念されています。

以下の記事では、健康被害が懸念されるPFASについて詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
【有機フッ素化合物PFAS(PFOS・PFOA)とは?懸念される影響について】
https://www.nihon-trim.co.jp/media/31676/

生物蓄積の影響と健康被害

上記でも説明した通り、生物蓄積による影響(ダメージ)は、食物連鎖の上位(上層)にいる生物の方がより強く受けることになり、最悪の場合、死に至ることもあります。

仮に、生物蓄積によって個体数が減少した種が「キーストーン種[※]」だった場合、生態系全体のバランスが崩れてしまい、他の種が連鎖的に死んだり、逆に異常に繁殖したりすることも考えられます。また、食物連鎖の上位にいる種の中には、絶滅が危ぶまれている種もいるため、それも大きな問題になっているのです。その代表的な種としては、「イッカク」というクジラが挙げられます。

イッカクは準絶滅危惧種に指定されている北極の海生哺乳動物なのですが、すでにPOPsや水銀などの生物濃縮が起きていると言われています。ここで、「北極の海には工場や焼却炉がないにも関わらず、なぜPOPsが存在するのか?」、と疑問に思われた方もいるのではないでしょうか。実は、世界中で放出された化学汚染物質は、海流や大気の流れに乗って移動していき、「最終的なたまり場」として北極の海に到達しているのです。その結果、北極の海の上位捕食者であるイッカク、そして、それを食べているイヌイットなどの少数民族にも大きな影響を与えているのです。

つまり、各国の環境問題から始まった生物蓄積の影響は、生態系全体や絶滅危惧種、そして少数民族の文化にまでも及んでしまうというわけです。もちろん、環境汚染の加害国の一つである日本も、自らが排出した化学汚染物質の影響を大きく受けています。私たちは、日ごろから肉や魚(陸生生物や水生生物の上位捕食者)をたくさん食べていますので、その影響を受けるのは至極当然と言えるでしょう。

では、具体的にどういった影響を受けているのでしょうか?例えば、いくつかのPOPsは、体内の分泌物や免疫システムを混乱させると言われています(自然の化学的伝達方法を模倣して、ホルモンを活発化させる)。また、知的発達の遅れや生殖にまつわる障害、ガンなどの原因になるとも言われています。さらに、妊娠した母親の体内に蓄積された物質が、胎盤や母乳を通して感受性の高い胎児や赤ちゃんに移り、悪い影響を及ぼす危険性があるとも言われています。

私たちは健康を意識する際、食べ物の種類や量にだけ目を向けがちですが、環境問題や生物蓄積にもしっかりと目を向ける必要があるのです。

※. 生態系維持に大きな影響を持つ動物の種のこと

個人の対処法、予防策

生物蓄積に対する個人の予防策としては、まず大型の魚などをたくさん食べないようにすることが望ましいです。特に、マグロ類にはPCBや水銀が比較的多く含まれていますので、摂り過ぎには注意する必要があります。大型の魚の代わりに、シラスやちりめんじゃこ、イワシといった小型の魚を食べれば、生物蓄積の影響は低く抑えられ、タンパク質やカルシウム、DHA・EPAといった有用な成分をしっかり摂ることができます。ただし、そういった小型の魚であっても、体内でPCBや水銀の生物蓄積がまったく起きていないわけではありませんので、その影響を避けるための何らかの取り組みは必要です。

有効的な取り組みとしては、いわゆる「腸活」がオススメです。毎日しっかりと腸活を行って腸の状態を良好にしておけば、便が滞留することなくスムーズに排泄されるため、少なくとも水銀については、体内からデトックスされやすくなると言われています。また、世界で水質汚染が懸念されているPFOS・PFOAについては、水道蛇口に「ろ過システム」を設置して、清浄なお水を飲むことで曝露を抑えることができます。

一般的なろ過システムとしては浄水器や整水器が挙げられますが[※]、健やかな腸を保ちたいという人には「胃腸症状の改善効果」が認められた整水器がオススメです。

※. 購入前には、必ずPFOS・PFOAが除去対象(ろ過対象)物質になっているかどうかを確認しましょう。

さいごに

昔から「自然を大切にしましょう」というスローガンをよく耳にしますが、これは地球に棲んでいる動植物に対する慈しみを表しているだけではありません。自然環境を大切にすることは、まわりまわって自分自身の健康や命を大切にすることになり、ひいては自分たちの家族や子孫を守ることにも繋がります。

「地球は先祖から譲り受けたものではなく、子孫から借りているものなのだ」

この言葉はアメリカ先住民の諺として伝承されていますが、私たちはこの諺の真意を学び、環境問題に対して積極的に取り組んでいく必要があるのかもしれません。


参考文献

imidas(イミダス)「生物蓄積」

https://imidas.jp/genre/detail/K-111-0074.html

北海道立衛生研究所「魚介類に残留する環境汚染物質」

https://www.iph.pref.hokkaido.jp/charivari/2005_06/2005_06.htm

広島県公式ホームページ「ダイオキシン類は,どのようにして私達の体の中に入ってくるのですか?」

https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/46/g-g3-setumei-daiokishin-03.html

環境省「ダイオキシン類挙動モデルハンドブック」

https://www.env.go.jp/content/900405383.pdf

経済産業省「POPs条約」

https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/int/pops.html

テレ朝news「【北極ノート】生活に欠かせない海獣にも影響が…北極に集まる汚染物質」

https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000311289.html

総合南東北病院「デトックスで体キレイ!」

https://www.minamitohoku.or.jp/kenkokanri/200611/detox.htm

動画「栄養チャンネル Nobunaga|日本人は水銀だらけ!?水銀の毒性で脳が壊れる!水銀の原因は!?」

https://www.youtube.com/watch?v=CsWEYF6GFms

書籍「生物濃縮-環境科学特論-」山県登 編著

書籍「地球白書2000-01」レスター・R・ブラウン 編著

書籍「地球をめぐる不都合な物質」日本環境化学会 編著