「デジタルデトックス」とは?心と体をリフレッシュする方法(後編)
目次
なぜ過剰使用してしまうのか?
なぜデジタルツールを過剰に使用してしまうのか、その理由は様々ですが、大きな原因としては高い依存性が挙げられます。依存という言葉は、「アルコール依存症」や「ニコチン依存症」などの名称でも知られている通り、心身の健康や人間関係に悪影響を及ぼしているにも関わらず、特定の物質や行動をやめられない状態のことです。また、「依存」という言葉は、文脈によって「中毒」という言葉と近い意味で使われることもあり、以下のような性質を持つものとして説明されることもあります。
①欲求がコントロールできない(自制できない)
②耐性がついて沢山ないと満足できなくなる
③やめようとすると禁断症状が起きる
④一度やめても再発しやすい
デジタルツールの場合、スマホ依存やネット依存、SNS依存、ゲーム依存など、依存する対象によって名称が異なりますが、ここではそれらをまとめて「デジタル依存」と呼ぶことにします。
以下では、掲題のアンサーとして「デジタル依存」を中心に解説していきます。
射幸心が煽られるため
射幸心とは「まぐれあたりによる利益を願う欲心」のことです。スロットマシンと同様に、デジタルツールにも射幸心を煽る要素が随所に含まれています。例えば、SNSでは「いいね」や「コメント」が付くことを期待して、頻繁にアプリを起動したり更新したりする人がいますが、これはスロットマシンでいうところの「レバーを引く行為」にあたります。そして、起動や更新をしている最中に「何か良い(新しい)情報が届いているのでは」とドキドキするわけですが、これはリールが回っているときに「次は当たるのでは」と期待する心理と重なります[※]。SNSやメールのチェックをしているとき、脳内にはギャンブルと同じような刺激が伝わっているのです。
※. 快楽物質であるドーパミンは、「有用な情報が得られるかもしれない」という不確かな状況の方が、多く分泌されます。
FOMOにとりつかれるため
FOMO(フォーモー:Fear Of Missing Out)とは、「何か重要なことを見逃したことで、自分だけが取り残されているのではないか」と恐れる心理状態のことです。常に最新情報を流し続けるSNSでは、目まぐるしいスピードで流行やセール情報が変化していくため、それらに関心がある人たちはSNSのチェックが欠かせません。また、「自分だけが情報を取り逃がしていて、他の人たちは楽しいことを経験したり、成功に近づいているのではないか」と勘繰ったり羨んだりする心理もFOMOを助長させ、デジタル依存を高める要素になります。
脳は新しい情報を好むため
脳は、暇を嫌い、常に新しい情報を求める習性があります。そのため、脳はGoogleなどの検索エンジンを使って、連続的なネット検索をすることを心地よいと感じます。いわゆる「ネットサーフィン」と呼ばれる行動がそれにあたるわけですが、この行動も新しいモノ好きの脳(好奇心旺盛な脳)が、無意識のうちに引き起こしている現象と言うことができるでしょう。ネット検索をしている最中、ふと気づいたら「本来の検索目的とはまったく関係のないサイトにアクセスしていた」なんてことが頻繁に起きていたら、デジタル依存の兆候として注意が必要かもしれません。
便利すぎるため
スマホは常に手元に置いておける「携帯性」と「多機能性」を兼ね備えています。メールやSNS、ニュース、ゲーム、写真撮影、メモ、ボイスレコーダー、AIなど、さまざまなことがこの小さな端末1台でできてしまいます。また、アプリやクラウドサービスの発展により、場所を選ばずに作業ができるため、電車の中や外出先でもスマホがあれば、たいていの仕事や勉強を続けることができます。しかし、その便利さゆえに、デジタルツールへの依存が高まっているのも事実です。
恋愛感情を刺激するため
たとえば、「マッチングアプリ」の活用においては、理想の恋人と巡り合うかもしれないという強い期待感が高揚感(興奮)に繋がり、依存性を高めることがあります。また、恋人との連絡手段としてスマホが欠かせないという人の中には、誰とどこで何をしているのかを頻繁に確認しないと気が済まない人もいるようです。そういった人は、相手のリアクションの速さ(どれくらい早く返信してくるか)も気になってしまうため、返信がくるまで、ずっとスマホを眺めてしまい、依存を深めてしまうことがあります。
ゲームの刺激が強いため
・ゲームには以下のような要素があるため、デジタル依存を強めます。
・強い光が速く点滅するため、興奮しやすい
・リズミカルなBGMや、テンポが速くひっ迫感のあるBGMによって、興奮しやすい
・心地よい効果音によって、何度もクリック(タップ)したくなる
・お金を連想するような効果音(コインの音など)によって、興奮しやすい
・殺害シーンなどのグロテスクな描写がリアルに表現されていて、興奮しやすい
・セクシーなキャラクターや性的な描写によって、興奮しやすい
・ディスプレイ性能の向上によって、リアルな映像を楽しめる
・VR技術の登場によって、より没入感のある映像を楽しめる
・アバターの活用によって、理想の容姿を簡単に手に入れることができ、アイドルとしてふるまうこともできる
・現実では考えられないような能力を持つことができ、全能感を得られる
・課金をすれば、他のプレイヤーよりも高い能力を持つことができ、優越感に浸れる
・ハイスコアを獲得した時やミッションをクリアした時などに、過剰な演出があり、強い達成感が得られる
・オンラインゲームでは、ログインボーナスやイベントボーナス、ランキングボーナスなどが与えられるため、毎日遊ぶ強い動機がある
・元々、エンディングが設計されてないオンラインゲームでは、エンドレスにゲームを続けてしまう
・スマホのゲームアプリは携帯性があるため、どこでも遊ぶことができる
SNSのアルゴリズムが強力なため
FacebookやX(旧Twitter)、Instagram、TikTokなどの主要なSNSは、利用者の興味や関心を引き付け、長時間のサービス利用を促すために、巧妙なアルゴリズムを採用しています。それらのアルゴリズムは、利用者の行動データ(投稿内容、いいね、コメント、フォロー、視聴履歴など)を常に分析しており、そのデータをもとに、一人一人の興味や嗜好に合わせてコンテンツを推奨します。つまり、利用者はそれらのSNSを使えば使うほど、アルゴリズムによって興味や嗜好が分析され、パーソナライズが強まるため、SNSからの離脱が難しくなるのです。
ショート動画の刺激が強いため
「YouTubeショート」や「TikTok」などのSNSに投稿されるショート動画は、視聴者の離脱を避けるため、動画の冒頭1~3秒間に強烈なインパクト与えるように設計されています。利用者はスマホの画面をフリックするたびに、強い刺激(快感)が即座に与えられることになるため、動画の連続視聴を止められなくなってしまうのです。また、アプリの運営会社もそのことを熟知しているため、刺激の強度を高めるようなエフェクトオプション(視覚効果)を投稿者に対して提供しています。
仲間からの疎外を恐れるため
仲間からの疎外を恐れて、グループチャットの会話から離脱できない人も多くいると言われています。この場合、スマホやSNSへの依存は見られませんが、結果的に電話やSNSの利用時間が長くなり、心身に不調をきたすことがあります。会話やグループからの離脱が、その人にとって良い結果をもたらすこともありますが、その反面、いじめや怨恨につながる危険性もあるため、実際にはなかなか言い出せないケースが多いようです。
元をとろうとする心理があるため
サブスクリプションサービス(以下「サブスク」)が、依存性を高める要因になることもあります。サブスクとは定額制サービスのことで、支払う料金は「利用期間」によって決定されます。例えば一定の料金を支払えば、対象期間中は「使いたい放題」になるわけです。最近では、ドラマや映画、漫画、音楽などのサブスクが人気を集めており、スマホのアプリでも利用することができます。利用者の中には、支払った料金の元を取るために、ドラマや映画をたくさん観ようとする人がいますが、そのような行為は、デジタル依存を強化することに繋がる恐れがあります。
仕事で必要なため
職務上、デジタルツールを常用しなければならない人もたくさんいます。特に、現代のビジネスパーソンの多くは、何らかのデジタルツールを会社から支給され、それを使って職務にあたるよう指示されていることがあります。また、会社からの指示はなくても、任されたタスクを処理するためには、どうしてもデジタルツールを常用せざるを得ない場合もあります。さらに、社内競争が激しい会社においては、会社から帰った後のプライベートにおいても、自己啓発としてオンラインスクールを受講してスキルアップをはかる人もいるようです。
視聴回数や登録者数を増やそうとするため
YouTuberやTikTokerなどの動画投稿者は、視聴回数や登録者数を増やすため、ライバル投稿者の動向をチェックしたり、自分のアカウントデータの分析をしたり、動画の品質を高めたりします。いずれもデジタルツールなしでは行えない作業で、長時間・多頻度の使用が求められます。特に、昨今の動画投稿サイトでは競争が激化していることもあり、視聴回数が安定するまでは、毎日投稿を行うことが前提になりつつあります。連日の動画投稿は制作者にとって、精神的にも身体的にも大きな負担となり、その忙しさからうつ病になってしまう人もいるようです。
デジタルデトックスの実践方法
ここでは、デジタルデトックスの具体的な実践方法を紹介します。
ご自身のライフスタイルに合わせて、実践できそうなものから取り入れていくと良いでしょう。
・デジタルツールの使用傾向を可視化する(スマホやPCのスクリーンタイム機能を使うと傾向を調べやすい)
・消しても問題のないSNSがないか検討する
・デジタルツールの使用時刻を変更する必要がないか検討する
・デジタルツールの使用時間を減らせる余地がないか検討する
・食事中はスマホを使用しない
・トイレやお風呂にスマホを持ち込まない
・通勤電車内でスマホを使用しない
・朝一番にメールやSNSをチェックしない
・就寝1時間前はグループチャットに参加しない(メッセージのラリーが始まると抜け出せなくなる)
・就寝中はスマホを別の部屋に置く(夜中に目覚めた時、メールチェックをしてしまわないように)
・リアルな体験ができる趣味を探す(まずはスポーツや芸術活動などから探してみる)
・休日を「デジタルデトックス日」に設定する
・スマホを取り出しにくい所にしまう(ズボンのポケットに入れたり、ストラップで首から下げたりしない)
・仕事中や勉強中は可能な限りスマホを遠ざける(視界に入らない所に置くことが理想)
・スマホのパスコードを複雑にする(あえて使いにくい状態にすることで使用頻度を下げる)
・スマホの画面をモノクロにする(スマホへの興味を半減させる)
・スマホの着信音設定を学ぶ(シーンに合わせてON/OFFの切り替えをスムーズに行えるようにしておく)
・スマホを半透明のビニール袋に入れる(操作性や視認性を下げ、使いづらくする)
・デジタルデトックスを取り入れている宿泊施設を利用する(星野リゾート、長崎県佐世保市宇久島の観光協など)
・デジタルデトックスのツアーやキャンプに参加してみる
・読まない宣伝メールやメールマガジンは、配信を停止させる
・瞑想(メディテーション)を行う(または、ボーっとする時間を作る)
・デジタルツールを長時間使わざるを得ない場合は、極力サイズの大きいディスプレイを使用する(精神的な負担が軽減される可能性があるため。ノースカロライナ大学のスティーブン・ポージス教授の仮説)
オススメの機能・アイテム・アプリ
デジタルデトックスを行う際には、依存を断ち切る精神的な苦労を伴うことがあります。ルールや精神力だけで乗り切ることが困難な場合には、機能やアイテム、アプリの力を借りるとよいでしょう。
ここでは、デジタルデトックスを行う際に役立つオススメの機能やアイテム、アプリを紹介します。
スクリーンタイム機能
上記でも触れましたが、ご自身のスマホの使用傾向は「スクリーンタイム機能」を使うと簡単に調べることができます。ただし、Androidスマホの場合はスクリーンタイム機能という名称ではなく、「デジタルウェルビーイング」という名称の機能がそれに該当します。
・iPhone ── iOS 12以降、iPadOS 13.1以降、macOS 10.15から搭載
・Android ── Android 9.0 から搭載
いずれの機能もご自身がどのアプリをどのくらい利用しているのかが分かるだけではなく、通知を一定時間オフにしたり、アプリを一時的に使用不可にしたりすることができます。本来は、子どもがスマホを使いすぎないようにするための機能なのですが、ご自身のスマホとの付き合い方を見直すのにも大変役立つ機能です。
タイムロックポーチ
タイムロックポーチとは、タイマー付きの南京錠が付いているポーチのことで、設定した時間が来るまでポーチを開けることができないという機能があります。スマホをポーチに入れて施錠すると、強制的にデジタルデトックスが行えるというアイテムです。
類似商品としては、他にも「タイムロッキングコンテナ」などがありますので、一度「スマホ タイムロック」というワードで検索してみるとよいでしょう。
Forest(by Seekrtech)
スマホに触れないことで木が育つアプリ「Forest(by Seekrtech)」もオススメです。このアプリでは、設定したタイマーの時間内に他のアプリに触れると、木が枯れてしまいます。スマホを触らない時間が長ければ長いほど木は育ち、最終的には森を作ることができるのです。また、木を育てると報酬としてコインがもらえ、何枚かのコインを貯めて違う種類の木を購入することもできます。
さいごに
デジタルデトックスを行うと、今まで気づかなかった「リアルな世界」の魅力に気づくことができるはずです。家族や友人との会話、自然の美しさ、体を動かす心地よさ、本を読む喜び、手作りの温かみなど、デジタルでは得られない素晴らしい体験があなたを待っています。デジタルデトックスは、そんなリアルな体験の楽しさを再発見するチャンスと言ってもよいでしょう。
デジタルツールに支配されるのではなく、上手に活用しながらリアルな世界も充分に楽しむ、そんなバランスの取れたライフスタイルを目指してみてはいかがでしょうか。
参考文献
WIRED.jp「なぜ人は新しい情報を欲するのか:「情報中毒」と「好奇心のパラドックス」 」
https://wired.jp/2010/11/30/「情報中毒」と「好奇心のパラドックス」/
ELEMINIST「取り残されることへの不安「FOMO」に悩む人が増えるわけ SNSの普及で顕在化した疎外感の正体とは」
https://eleminist.com/article/1018
星野リゾート「【星のや】「星のや」にて「脱デジタル滞在」を通年で提供開始」
https://hoshinoresorts.com/jp/information/x0cu6_5na7jk/
宇久町観光協会「宇久島 デジタルデトックス」
https://www.ukujima.com/minpaku/?page=digitaldetox
東洋経済オンライン「メールは危険「スクリーン無呼吸症候群」のヤバさ メールとメッセージアプリは自律神経に悪影響-The New York Times」
https://toyokeizai.net/articles/-/698874
楽天モバイル「スクリーンタイムとは?iPhoneとAndroid™での使用方法や注意点を解説」
https://network.mobile.rakuten.co.jp/sumakatsu/contents/articles/2024/00109/#link1
Android「Android のおやすみ時間モードとは? 便利な活用シーンや設定方法を紹介」
https://www.android.com/intl/ja_jp/articles/306/
雑誌「週刊ダイヤモンド(2015年5月23日号)」ダイヤモンド社 出版
雑誌「週刊新潮(令和元年・8月8日号)」新潮社 出版