サステナブルフードとは?未来の食を考えよう
みなさんは「サステナブルフード」という言葉を聞いたことがありますか?
近年、環境問題や食料問題に対する意識の高まりとともに、このサステナブルフードという概念が注目を集めています。この概念は一体どのようなもので、私たちの食生活とどのように関係しているのでしょうか。
今回は、サステナブルフードの概念や重要性、選び方について解説していきます。
目次
サステナブルフードとは
サステナブルフードとは、環境や社会、経済に配慮した方法で生産される食品を指します。直訳では「持続可能な食品」と訳されるため、食べ物自体を指すことが一般的ですが、広義においては食品の生産・加工・流通の仕組み自体を指していたり、消費のあり方などを含めた大きな概念として使用されることもあります。
近年、この言葉はフードロスや環境保護などの話題で頻繁に登場しているため、なんとなくエコ(ecology)な印象を持たれている人も多いのではないでしょうか。実際、サステナブルフードはエコな食品ではありますが、単なるエコフードではなく、経済性(economy)もしっかりと見据えた上で作られています。
このサステナブルフードが持つ二面性については、「エシカルフード」との対比をすることで理解が深まるでしょう。エシカルフードとは、食品の生産から消費に至るまでの過程において、動物や労働者、環境に対して倫理的(エシカル)な配慮がなされた食品のことです。経済性を考慮しつつも、ウエイトは「倫理性」に置かれるのがエシカルフードのスタンスです。
一方のサステナブルフードは、倫理的な配慮は持ちつつも、ウエイトは「システム」に置かれます。システムというのは、循環型社会の設計や、永続的なビジネスモデルのことを指していて、この点においてエシカルフードとは、ややニュアンスが異なるわけです。
持続可能性の追求において「倫理性」と「経済性」はともに重要な要素ですが、どちらかに偏るとトレードオフに陥ります。食の未来を考える際、両者の違いをしっかり認識すると同時に、互いの要素を上手に融合させ、バランスをとることが重要だと言えるでしょう。
なぜ重要視されているのか
サステナブルフードが重要視される理由は、以下のような地球レベルの問題があるからです。
【温室効果ガス排出の問題】
・家畜の消化管内発酵(ゲップやおなら)や排せつ物からメタンガスや亜酸化窒素などの温室効果ガスが発生し、地球温暖化を進行させている
・世界中の畜産業から出る温室効果ガスの量は、世界中の運送関連から発生する温室効果ガスの総量を超えている
【発展途上国での労働問題】
・発展途上国の農家が搾取され、公正な対価を得られていない現状がある
【食料分配の問題】
・飢えに苦しむ国がある一方で、先進国ではフードロス(食料廃棄)が起きている
・穀物の多くが家畜の飼料やバイオマスエネルギーに使われ、人間の食料になっていない
【森林破壊の問題】
・森林は二酸化炭素を吸収する役割を果たしており、農地拡大による森林の減少は地球温暖化を加速させる
【土壌(水質)汚染問題】
・化学肥料や農薬の大量使用は土壌の質を低下させるだけでなく、河川や海洋の水質も汚染する
・土壌や水質の汚染が、生態系や私たちの食生活にも悪影響を及ぼす
【気候変動による食料問題】
・干ばつや気温上昇などによって、作物の収量が減少するリスクが高まっている
【農業の後継者不足問題】
・日本の農業人口はかなり少なく、就農年齢も世界で最も高い(平均64歳)
【乱獲による水産資源の枯渇問題】
・日本ではマグロやサンマなど、多くの魚種で漁獲量が減少している
【家畜の伝染病問題】
・鳥インフルエンザや豚コレラなどによって、大量の家畜が殺処分されるケースが後を絶たない
【人口増加による食料問題】
・国連の報告によれば、2024年の世界人口は81億人を突破し、2030年に約85億人、2050年には約97億人に達すると予測されている
・人口増加は食料需要の増大につながり、食糧価格の高騰、食料をめぐる紛争、貿易の断絶などのリスクが高まる
サステナブルフードの例
サステナブルフードには、どのようなものがあるのでしょうか?
代表的なサステナブルフードについて見ていきましょう。
ジビエ
ジビエとは、シカやイノシシなど、狩猟で得られた野生鳥獣の肉を指します。ジビエはローカルフード(地元の自然資源を活用した食材)であり、食品輸送に伴う環境負荷も少ないことから、サステナブルフードの一つとして注目されています。また、ジビエを得るための狩猟は、農作物を食べてしまう有害な野生鳥獣の個体数を減らすため、農業被害の防止にも役立っているのです。さらに、ジビエの利用は狩猟者の収入源にもなるため、地域経済の活性化にも寄与します。
大豆ミート
大豆ミートは、大豆たんぱく質を主原料とした植物性の代替肉です。畜産による環境負荷が問題視される中、大豆ミートは環境に配慮した食品として注目を集めています。家畜の飼育には多くの水や穀物、土地を必要とし、温室効果ガスの排出源にもなっていますが、大豆ミートは植物由来であるため、家畜を飼育するときのようにたくさんの資源を使うことはなく、温室効果ガスの排出も少なく抑えられるのです。大豆ミートには大豆たんぱく質の他にも、食物繊維や大豆イソフラボンなど、有用な成分が含まれています。
昆虫食
昆虫食とは、食用昆虫[※]を食材として利用することを指します。昆虫は、牛や豚などの家畜と比べて、飼育に必要な土地や水、飼料が少なくて済むという利点があります。また、飼育に際して温室効果ガスの排出も少ないため、近年、持続可能な食料源として注目を集めています。さらに、栄養面でも優れた特徴を持っており、たんぱく質や必須アミノ酸、ビタミン、ミネラルなどを豊富に含んでいます。そのため、アスリートの食事にも向いているのではないかと、注目する人が増えているようです。
※. しっかりとした検査がなされ、食品として正式に認められた昆虫。自然にいる昆虫には、寄生虫や細菌が含まれていることがあるため、そのまま食べてはいけません。
オーガニック食品
オーガニック食品とは、自然な方法でつくられた食品のことを指します。たとえば、オーガニック農法では、化学肥料や農薬を使用せずに栽培が行われるため、比較的安全性の高い作物ができます。また、化学肥料や農薬を使用しないことで、土壌の健全性や生物の多様性が維持されるため、環境保全にも貢献していると言えるでしょう。さらに、生産者側も農薬散布作業などがないため、これらの化学物質による弊害を受けずに済むのです。価格やコストの面では、いまだ改善の余地があるという声もありますが、「安全な食」を得るための対価としては妥当な金額なのかもしれません。
フェアトレード食品
フェアトレードとは、発展途上国の生産者に公正な価格で製品を買い取る仕組みのことを指します。フェアトレードは倫理的な側面が強調されていますが、以下の点においては先進国にもメリットがあります。
安定した貿易関係
発展途上国の経済が発展し、対等な立場でビジネスができるようになれば、先進国との貿易関係がより安定し、長期的な経済協力が可能になる
新たな市場の開拓
発展途上国の経済発展は、先進国にとって新たな市場の開拓につながる。現地の購買力が向上すれば、先進国の製品やサービスに対する需要も高まる
国際社会の安定
発展途上国の貧困や不平等が解消されれば、国際社会がより安定するため、戦争やテロのリスクを抑えられる
サステナブルフードの選び方
サステナブルフードを選ぶ際は、以下のようなポイントを意識すると良いでしょう。
■生産地
輸送に伴う環境負荷を減らすため、地元または地元に近い場所で生産された食品かどうかを確認する
■包装
資源の枯渇を防ぐため、過剰包装を避けているかどうか、また、リサイクル可能な素材を使用しているかどうかを確認する
■量
食品ロスを減らすため、購入する食品は消費期限内に「食べきれる量」になっているかを確認する
■認証ラベル
第三機関によって正式に認められたサステナブルフードをより簡単に見つけるため、パッケージに付されたラベル(マーク)を確認する
有機JAS認証 | 農薬や化学肥料の使用を極力避け、自然循環機能を活用して生産された農産物などに与えられる |
MSC認証 | 持続可能な漁業で獲られた水産物に与えられる |
ASC認証 | 環境と社会に配慮した養殖水産物に与えられる |
国際フェアトレード認証 | 労働者の権利保護、公正な取引、環境保全などの基準を満たしている農作物(発展途上国で生産されたもの)などに与えられる |
レインフォレスト・アライアンス認証 | 森林の保護や労働者の人権尊重、気候危機への緩和と適応など、厳しい基準要件を満たす認証農園で生産された作物に与えられる |
さいごに
地球環境の変化や人口増加など、私たちを取り巻く状況を考えると、サステナブルフードの実践はもはや必須の課題と言えるでしょう。スーパーで食品を購入するとき、自宅で調理をするとき、食卓で食べるとき、そのすべての段階でサステナブルフードを意識し、実践することが大切です。
また、実践にあたっては気持ちの持ち方も大切です。やらねばならないと思いながら義務的に行っていては、継続することは困難です。自分を育んでくれた地球への感謝、未来の子孫たちへの思いやり、こういった前向きな気持ちを持つようにすれば、サステナブルフードの実践は継続しやすくなるでしょう。
まずは食べ物に対する謝辞、「いただきます」と「ごちそうさま」を、気持ちを込めて言うことから始めてみてはいかがでしょうか。
参考文献
ethicame「エシカルとは?サステナブルとの違いやエシカル消費、ファッション、私たちにできること」
https://ethicame.com/shop/information/ethical01#link09
気候ネットワーク・ブログ「私たちの食と気候変動の関係を考える」
https://kikonet.org/kiko-blog/4821/
農林水産省 環境政策課「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書(「科学的根拠」、「影響・適応・脆弱性」)について」
https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kikaku/goudou/18/pdf/data1.pdf
nippon.com「水産資源管理が左右する日本漁業の未来」
https://www.nippon.com/ja/currents/d00455/
UNFPA Tokyo「世界人口白書2024」
https://tokyo.unfpa.org/ja/publications/世界人口白書2024-1
国連広報センター「世界人口は2022年11月15日に80億人に達する見込み」
https://www.unic.or.jp/news_press/info/44737/
Greenroom株式会社「昆虫食のメリット・デメリット、食糧危機を救う理由とおすすめ商品を紹介」
https://green-note.life/1179/
公益社団法人農林水産・食品産業技術振興協会「虫を食べるはなし 第22回(肉にまさる虫の栄養価)」
https://www.jataff.or.jp/konchu/hanasi/h22.htm
NHK「サイエンスZERO|もう食べずにはいられない…!- 栄養満点で地球に優しい「昆虫食」の“底力”」
https://www.nhk.jp/p/zero/ts/XK5VKV7V98/blog/bl/pkOaDjjMay/bp/p86YdDqBPe/
Futurenaut「第4巻 コオロギと栄養のはなし - フューチャーノート:クリケット(コオロギ)パウダーなど昆虫由来の加工食品を日本へ」
https://futurenaut.co.jp/library/vol4-cricket-nutrition/
一般社団法人 日本サステナブル・ラベル協会「サステナブル・ラベルを知ろう!|有機JAS」
https://jsl.life/learning/jas/
一般社団法人 日本サステナブル・ラベル協会「サステナブル・ラベルを知ろう!|海洋管理協議会 Marine Stewardship Council(MSC)」
https://jsl.life/learning/msc/
一般社団法人 日本サステナブル・ラベル協会「サステナブル・ラベルを知ろう!|水産養殖管理協議会 Aquaculture Stewardship Council(ASC)」
https://jsl.life/learning/asc/
一般社団法人 日本サステナブル・ラベル協会「サステナブル・ラベルを知ろう!|国際フェアトレード認証ラベル」
https://jsl.life/learning/fairtrade/
環境省「環境ラベル等データベース|レインフォレスト・アライアンス認証」
https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/ecolabel/a04_53.html
書籍「FRaU SDGs MOOK FOOD」講談社 出版