鼠径ヘルニア(脱腸)とは?症状や原因について解説 | 水と健康の情報メディア|トリム・ミズラボ - 日本トリム

鼠径ヘルニア(脱腸)とは?症状や原因について解説

鼠径ヘルニアは中年以降の男性に起こりやすい病気ですが、女性や幼児、若い男性にも起きることがあります。盲腸などと並んで一般的な病気ですが、放置すると死に至る危険性もあり、軽視できない病気です。

すでに罹患している人の中には「痛みが少ない、押したら治る、相談するのが恥ずかしい」といった理由で治療をしない人がいるようですが、それは大病に繋がるリスクがあり危険な行為と言えます。鼠径ヘルニアの治療は早ければ早いほど有効です。

まずは症状などの基礎知識を学び、ご自身が該当していないかをチェックしましょう。また、罹患していない人であっても、症状や原因を知ることで罹患に備えることができますので、ぜひ参考にしてみてください。

鼠径ヘルニアとは

鼠径ヘルニアとは、腹部に収まっているはずの臓器が鼠径部にとび出して、膨らみが形成されている状態のことをいいます。

そもそも「ヘルニア」というのは、体内の臓器や組織の一部が、本来あるべき部位からとび出した(脱出した)状態を指す言葉です。有名なものとしては「椎間板(ついかんばん)ヘルニア」が挙げられますが、これは背骨の骨と骨の間にある椎間板の一部がとび出した状態です。

鼠径ヘルニアの場合、とび出すものは主に小腸です。そのため、鼠径ヘルニアは「脱腸」と呼ばれることもあります。

どのようにして膨らみができるのか?

「小腸がとび出る」と聞いても、なかなかイメージしにくいかと思いますので、もう少し具体的に説明しましょう。

まず、腹壁(お腹の肉)の断面図をイメージしてみてください。腹壁の断面は、外側(体表側)から「皮膚、皮下脂肪、筋膜、筋肉、腹膜」という順番で層をなしています[※1]。

通常、小腸などの臓器は、腹壁の内側にある「腹腔(ふくくう)」というスペースに収まっています。しかし、腹部の筋膜の一部が弱くなって穴が開いていたりすると、腹部に圧力(腹圧)がかかった際に、その部分から腹腔内の臓器がとび出してしまうのです。ただし、腹壁を突き破って、体外に臓器がとび出してくるわけではありません。腹膜や皮膚は、腹腔内から押し出された臓器を包むようにして伸び、体表側に膨らみを形成します。この膨らみは「膨隆(ぼうりゅう)」と呼ばれ、初期の段階では、手で押し込んだり、横になったりすると引っ込んで一時的に元の状態に戻ることがあります。しかし、そうやって手で押し込んだり、放置したりしていると、ヘルニア門[※2]は次第に大きくなっていき、膨隆のサイズも大きくなります。

※1. 腹膜の上には筋肉がいくつも重なり合っています。それらの筋肉の間には隙間があり、その隙間を覆うような形で筋膜があります。
※2. 臓器のとび出し口のこと

鼠径ヘルニアの種類

鼠径部ヘルニアの種類

鼠経ヘルニアには、「外鼠径ヘルニア」と「内鼠径ヘルニア」の二種類があります。また、「大腿ヘルニア[※]」も含めた場合には、「鼠径部ヘルニア」と呼ばれることがあります。これらのヘルニアは、いずれもヘルニア門がどこにあるかによって分類されます。

各ヘルニアのヘルニア門の位置は、以下のとおりです。

外鼠径ヘルニア 下腹部の下付近で、下腹壁動静脈の「外側」
内鼠径ヘルニア 下腹部の下付近で、下腹壁動静脈の「内側」
大腿ヘルニア 太ももの付け根付近
※嵌頓(かんとん)を起こしやすい(嵌頓については後述)。

 

鼠径ヘルニアの症状

鼠径ヘルニアの初期症状と重症化した場合の症状は、以下の通りです。

初期症状
・鼠径部にピンポン玉ほどの膨らみができる
・人によっては、軽い痛みを感じることがある
・人によっては、少し腫れることがある
・重み、圧迫感、違和感、不快感がある(特に歩行時)など

重症化した場合の症状
・陰嚢が異常に大きくなることがある(陰嚢ヘルニア)
・排尿障害
・便秘
・嵌頓(かんとん)による激痛、嘔吐、死亡リスクなど

最後に挙げた「嵌頓」については、必ず知っておいた方がいい知識ですので、もう少し詳しく説明します。嵌頓とは「はまり込む」という意味で、とび出した臓器がヘルニア門付近でひっかかり、元に戻らなくなる状態のことです。この状態の例えとしては、犬や猫などが頭を鉄格子にはめ込んで、そのまま抜けだせなくなっている状態とよく似ています。

また、嵌頓の症状を説明するにあたっては、「水まきに使用するホース」を例にすると、分かりやすいかもしれません。まず、ホースを二つ折りにして、その折り曲げた部分をヒモできつく縛ります。この状態のホースを蛇口につないで水を流すと、縛られた部分で水が止められ、ホースはうねりはじめます。そして、ホースの中にある水は逆流したり、ホースを破裂させて、あたりを水びたしにしてしまいます。腸が嵌頓した場合も、これと同じようなことが体内(腹腔内)で起こるわけです。

【腸閉塞】
腸の内容物が詰まり、通過できなくなる
 ↓
【絞扼性(こうやくせい)腸閉塞】
腸の内容物が通過できなくなり、腸がうねる
 ↓
【腸壊死】
嵌頓した部分で血流が止まり、虚血やうっ血が起こることよって、腸の細胞が腐る
 ↓
【腸管穿孔(せんこう)】
腸がやぶける(腸内の便がバラまかれ、お腹の中が細菌だらけになる)
 ↓
【腹膜炎】
腹膜に炎症が起こる
 ↓
【敗血症】
細菌などの病原体が血中に侵入し、体が激しい炎症反応を起こす(死亡するリスクがある)

嵌頓になると、膨らみを手で押しても元には戻らず、数時間で激しい痛みにおそわれ、吐き気や嘔吐も起こり始めます。また、腸が詰まるため、いずれ排便することができなくなります。そして何より恐ろしいのは、鼠径ヘルニアが敗血症にまで進行すると、死亡してしまう危険性があるということです。

このように、鼠径ヘルニアは危険な嵌頓に進行する恐れがあるため、なるべく早く手術をして治す必要があるのです。

鼠径ヘルニアの原因

鼠径ヘルニアの原因には、先天性のものと、後天性のものがあります。
それぞれについて、見ていきましょう。

先天性の鼠経ヘルニア

鼠径ヘルニアの男女比は「5:1~10:1」の割合で、圧倒的に男性に多く起こります。これは男性の「身体的な構造」によるものです。

男性は母親の胎内にいる間に、自身の腹腔内で精巣(睾丸)が作られ、それが徐々に陰嚢へと降りていきます。その際、精巣は腹腔と陰嚢をつなぐ「鼠経管」という管の中を、腹膜をひきつれながら(包まれながら)降りていきます。精巣が陰嚢に到達した後、腹腔と陰嚢をつないでいた腹膜(腹膜鞘状突起)は徐々に閉鎖されていき、出生までに約98%前後が自然に閉鎖すると言われています。

しかし、人によっては腹膜鞘状突起が完全に閉鎖されないことがあります。その場合、腹腔内は「抜け穴」が残っている状態になりますので、そこから臓器がとび出しやすく、小児期に鼠径ヘルニアを起こしてしまうことがあるのです。また、腹膜の閉鎖が脆弱な場合には、成人以降の男性であっても、その部分が起点となって簡単に鼠径ヘルニアが起きてしまうこともあると言われています。

後天性の鼠径ヘルニア

鼠径ヘルニアの後天的な原因はたくさんありますが、大別すると以下の二つが挙げられます。

■加齢(筋膜が弱まり穴があく)

■腹圧(体の内側から臓器が押し出される)
・肥満
・便秘
・妊娠
・持続的な咳(肺炎や喘息など)
・吹奏楽(トランぺッター)
・重量挙げ
・腹筋運動
・立ちっぱなしの仕事 など

鼠径ヘルニアの発症には個人差があるため、これらの原因が必ず鼠径ヘルニアを発症させるとはいえません。しかし、趣味や仕事、生活習慣などでも鼠径ヘルニアは発症することがある、ということは覚えておいた方がよいでしょう。特に中年以降は、筋膜を含む体の結合組織が弱くなっていきますので、上記のリストに該当している人は注意が必要です。

鼠径ヘルニアの治療法

先天性のものであれ、後天性のものであれ、すでに鼠径ヘルニアになっている場合は、嵌頓のリスクを避けるために、できるだけ早く治療することが大切です。

鼠径ヘルニアは、薬剤や運動療法で治療することはできず、基本的には手術を受けるしか方法はありません。「ヘルニアバンド」を使用して、患部を押さえながら固定する保存療法もありますが、これは何らかの理由により手術が受けられない人が行うものであって、一般的な治療法としては推奨されていません。

鼠径ヘルニアの手術は、大別すると以下の2つに分けられます。

組織縫合法 ヘルニア門を縫い閉じる方法
メッシュ法 メッシュ[※]を取り付けて、ヘルニア門をふさぐ方法

組織縫合法はメッシュ法と比較して、痛みや再発リスクがあるため、特別な場合を除いて現在ではあまり行われていないようです。
一方、メッシュ法は1990年ごろに登場してから、痛みや再発リスクが少ない治療法として高い評価を得ています。このメッシュ法にはいくつかの種類があり、大別すると以下の2つに分けられます。

開腹手術(切開手術)
腹部を4~5cmほど切開し、外側(体表側)からメッシュを取り付けてヘルニア門をふさぐ

腹腔鏡下手術
腹部に小さな穴をあけて腹腔鏡をさし入れ、内側(腹腔内)からメッシュを取り付けてヘルニア門をふさぐ

両者は手術痕の大きさや、手術時間の長さなどに違いがあり、それぞれにメリット・デメリットがあります。医師は、患者の体の状態や鼠径ヘルニアの種類を考慮した上で、最適な方法を患者に提案し、その上で手術が行われます。

※. 主にポリプロピレンなどの合成繊維から作られています。体内に入れても基本的には問題がないとされていますが、「体内に異物を入れたくない」と考える人もいるため、最近では「半吸収性のメッシュ」が使用されることもあるようです。

日常生活で気をつけるべきこと

上項でもお話ししましたが、鼠径ヘルニアの原因には先天性のものと後天性のものがあり、そのうち後天性に関しては、ある程度自分自身でコントロールできるものがあります。たとえば、「肥満」や「便秘」などが挙げられます。この二つを予防・改善する場合、「運動」や「睡眠」の見直しが必要になる場合もありますが、それよりも優先して見直さなければならないものが、「食生活」です。毎日の食事において、「どのような食品を、どのようにして、どれくらいの量を、どのタイミングで」食べるのか。

・どのような食品を
小麦、糖質、脂質、食品添加物の多い食品を多く食べていないか

・どのようにして
よく噛んでいるか、野菜を最初に食べているか

・どれくらいの量を
腹八分目にしているか、朝昼晩によって食べる量を調節しているか

・どのタイミングで
深夜に食べていないか、間食を多く摂っていないか

こういったポイントをしっかりと意識できているかどうかがとても重要なのです。
そして、腸に良い(腸内細菌が喜ぶような)食事を習慣的に摂ることも、肥満や便秘の予防・改善にとても役立つと言われています。また、腸内環境がよくなれば、脳と体のコンディションも整えられますし、健康的なプロポーションにも近づくことができます。つまり、腸内環境を整えるということは、鼠径ヘルニアの予防だけではなく、心身の健康維持にも繋がるというわけです。

鼠径ヘルニア予防の第一歩として「食生活の見直し」をされたい方は、以下の記事が参考になりますので参考にしてみてください。
【今話題の「腸活」とは?そのメリットやおすすめの食べ物を解説!】
https://www.nihon-trim.co.jp/media/29369/

さいごに

鼠径ヘルニアは陰部の近くに発症するということもあり、「恥ずかしい」という思いから、なかなか受診に踏み切れない人もいるようです。しかし、鼠径ヘルニアは自然治癒することはなく、手術なしでは治りません。

とび出している腸を手で押し込み、一時的に膨らみをなくすことはできても、またすぐに膨らんできます。そして、それを繰り返すうちにヘルニア門は大きくなっていくのです。ヘルニア門が大きくなるということは、それだけ塞ぐべき範囲が大きくなることを意味しており、その後の手術も大掛かりになってしまいます。また、放置をし続けて嵌頓が起きてしまうと、強烈な痛みや嘔吐に苛まれ、最悪の場合、死に至ります。嵌頓の手術をする場合も、初期の鼠径ヘルニアの手術と比べて、圧倒的に難しくなるのです。鼠径ヘルニアが必ずしも嵌頓になるとは言い切れませんが、そのリスクがある以上、早期に治療することをオススメします。


参考文献

ふるかわ北安東クリニック「ヘルニアってどんな病気?」

https://furu-clinic.com/d_helunia.htm

岩井医療財団「教えて、ドクター!|椎間板ヘルニア」

https://www.iwai.com/seikei-qa/content/001-herunia.php

福島県立医科大学「「そけいヘルニア」(脱腸)とは?」

https://www.fmu.ac.jp/amc/files/sokei_herunia/A001.pdf

国立病院機構北海道医療センター「おなかのヘルニアについて 外科・消化器外科」

https://hokkaido-mc.hosp.go.jp/department/surgery_02.html

神戸市立医療センター西市民病院「鼠径部ヘルニア」

https://nishi.kcho.jp/disease/inguinal_hernia.html

倉敷成人病センター「鼠径ヘルニア」

https://www.fkmc.or.jp/data/290/dept_dtl

Gi外科クリニック「鼠径ヘルニアが引き起こす陰嚢腫れ:原因と対処法」

https://gi-clinic.net/blog/blog_inguinalhernia/entry-278.html

大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック「嵌頓とは|鼠径ヘルニアの危険な合併症をわかりやすく解説!」

https://osaka-sokei.com/blog/kanton/

大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック「なぜ女性の鼠径ヘルニア(脱腸)診療は難しい?専門医がポイントを解説!」

https://osaka-sokei.com/blog/female-inguinal-hernia/

大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック「外鼠径ヘルニアとは」

https://osaka-sokei.com/blog/【解説】外鼠径ヘルニアはこんな病気/

大阪日帰り外科そけいヘルニアクリニック「【解説】メッシュってなに?なぜ必要?」

https://osaka-sokei.com/blog/【解説】メッシュってなに?なぜ必要?/

大阪うめだ鼠径ヘルニアMIDSクリニック「鼠径ヘルニア・脱腸(足の付け根の痛みや違和感)」

https://misc-sokei.com/medical/inguinal_hernia/

国立病院機構岡山医療センター「鼠径ヘルニア」

https://www.shonigeka.com/ailment_11.html

大宮セントラルクリニック「鼠径ヘルニアは筋肉を鍛えれば治るのか?」

https://oc-clinic.jp/blog/sokei/2874.html

ケアネット「成人鼠径ヘルニア手術用半吸収性メッシュ「ULTRAPRO HERNIA SYSTEM」新発売」

https://www.carenet.com/news/general/carenet/10874

動画「そけいヘルニア かつやチャンネル(太田医院)|鼠径ヘルニア|嵌頓とは?鼠径部の膨らみはどうしてできるのか解説します!」

https://youtu.be/cperEkkakjM?si=FuS9Is87rcwg0IJ3

動画「そけいヘルニア かつやチャンネル(太田医院)|鼠径ヘルニア2つの治療法|手術のメリットとデメリットを解説」

https://www.youtube.com/watch?v=ANhTPQiStt0

動画「そけいヘルニア かつやチャンネル(太田医院)|『脱腸・鼠径ヘルニア治療』ヘルニアバンドは有効か?徹底解説」

https://www.youtube.com/watch?v=mk1EwqQ_gnc

動画「百福ももふく|【外科医が解説】知らないとヤバイ怖い症状(脱腸で緊急手術)」

https://youtu.be/sSh3FgIr3z4?si=pKvXB5vQPFehDhnX