高齢者における冬の熱中症と水分補給の重要性について
冬に気を付けるべきことと言えば、皆さんは何を思い浮かべますか?
おそらく、インフルエンザや乾燥肌と答える方が多いと思います。しかし、それらの他にも気を付けるべきことがあります。
それは、脱水によって現れる様々な病気です。
一般的に、脱水は夏に警戒されることが多いのですが、冬でも脱水は起きやすく、心筋梗塞や脳梗塞のリスクを高めます。また、あまり知られていませんが、高齢者においては脱水の進行による「熱中症」も懸念されます。
熱に中る(あたる)熱中症が、なぜ冬に高齢者に対して起きやすくなるのでしょうか?今回は、高齢者における冬の熱中症について解説します。
目次
冬の熱中症のメカニズム
熱中症を引き起こす主な原因は、脱水状態と高温環境にあります。
なぜ冬に脱水が進行するのか、また、冬の高温環境とはどういったものなのか。それぞれについて見ていきましょう。
不感蒸泄による脱水
不感蒸泄(ふかんじょうせつ)とは、発汗などの自覚のある水分喪失とは別に、自覚のない状態で皮膚や呼気から水分が喪失(蒸発)することです。
人間の体は、じっとしていても1日あたり900mLほどの水分を不感蒸泄によって失います。しかし、冬の乾燥した外気や、室内での暖房による乾燥した空気は、その不感蒸泄による水分喪失を加速させます。夏の発汗のように分かりやすい水分喪失ではないため、脱水の進行が自覚しにくく、いわゆる「隠れ脱水」状態に陥ることもよくあります。
脱水によって体内水分量が減少すると、体温を下げるための汗を十分にかくことができなくなります。これによって、身体活動によって生じた熱や、室内環境などから受けた熱の発散がうまくいかなくなり、熱中症のリスクが高まります。
飲水を避けがち
人間の体は体感温度が低いと喉が渇きにくいため、水分摂取を控えてしまうことがあります。また、日ごろ飲水習慣のある人であっても、この時期には常温水が冷たくなるため、体の冷えを気にして飲水回数が減ってしまうことはよくある話です。もちろん、白湯を作れば体を冷やさずに水分補給はできますが、わざわざ作らなくてはいけないという小さな負担が、飲水回数の減少に繋がっていることもあるでしょう。
いずれも、飲水回数の減少は脱水を招きやすく、そこから熱中症へと繋がってしまうことが考えられます。
暖房による高温環境
近年の住宅は、昔の住宅に比べて窓などの造りがしっかりとしているため、密閉性が高くなっています。
密閉性の高い室内でエアコン暖房などを使用すると、室内の乾燥を促進させるだけでなく、室内の高温状態を維持することにもなります。暖房効率はよくなる反面、のぼせや暖房病を引き起こすこともあるのです。また、脱水状態にあっては、体に対して熱をさらに加えることになるため、熱中症リスクは高まります。冬には「エアコン暖房の効いた室内でコタツに入り、そのまま翌朝まで眠ってしまった」といったのどかな話をよく聞きますが、熱中症の観点から言えば控えるべき行為と言えるでしょう。
密閉性が高く、高温になりやすい環境としては、他にも「車内(自動車の中)」が挙げられます。車に乗り込んだ時点では、車内温度は低く、ハンドルも冷え切っているため、ジャンバーなどの上着を脱がずに暖房をガンガンに効かせる人が多いのではないでしょうか?この状態で高速道路などに入り、長時間日差しを受けながら運転していると、熱中症を引き起こしてしまうことがあります。年末年始などで遠出をするときなどは、渋滞によって車内滞在時間がさらに長くなることも考えられますので、十分に注意するようにしましょう。
浴室内熱中症
浴室内熱中症とは、長時間の入浴や高温での入浴で、体温が上昇して血管が広がり、血圧が低下することによって起こる体調不良です。
浴室内熱中症は、隠れ脱水の状態でお風呂に入り引き起こされるケースも多いと言われています。例えば、暖房の効いた室内でお酒を飲み、不感蒸泄や排尿によって水分が失われている状態で入浴してしまうケースは、気のゆるんだ年末年始にはよくあることです。すでに体内水分量が減少している上に、さらに入浴によって汗をかきますので、脱水レベルも顕著になります[※]。
脱水によって体内水分量が不足しているため、血液はドロドロです。これによって、入浴で上昇した体内の熱を放出することが難しくなり、浴室内熱中症に陥りやすくなるのです。
※. 通常、一回の入浴では約500mLも汗をかきます。
特に高齢者が陥りやすい理由
冬の熱中症は、上記のような特定の条件が揃うことで誰でも起こるリスクがありますが、とりわけ身体機能の低下が見られる高齢者においては、そのリスクは高いと言われています。
なぜ、高齢者は熱中症を起こしやすいのでしょうか?その理由を具体的に見ていきましょう。
筋肉量の減少
高齢者は加齢によって活動量や運動機能が低下するため、それに伴い筋肉量も低下します。筋肉は体の中で最も水分含有量の多い器官ですので、筋肉量の減少は体内水分量の減少に直結すると言えるのです。
年齢による体内水分量の変化
小児・・・・70~80%
成人・・・・60%
高齢者・・・50%
一般的に、高齢者に対しては筋トレが推奨されていますが、それはロコモ予防のためだけではなく、体内水分量の低下を抑制するためでもあるのです。
口渇中枢機能の低下
口渇中枢機能とは、のどが渇いたと感じる機能のことです。
この機能は加齢によって低下する傾向にありますので、高齢者は体内水分量が減少した状態でも口渇感を自覚しにくいと言われています。その結果、脱水が進行していてもそれに気づかず、水分補給が遅れがちになります。
また、口渇中枢機能が低下した状態にあっては、水分補給した場合でも「少量の飲水で必要十分」と勘違いすることがあるので注意が必要です。
さらに、高齢者は嚥下機能[※]が衰えていることもあり、飲水時の負担から水分摂取量が少なくなることも考えられます。
※. 嚥下機能(えんげきのう)・・・飲食物を飲み込む身体機能のこと
体温調節機能の低下
高齢者は加齢によって、暑さや寒さが感じにくくなります(体温調節機能の低下)。
人間は皮膚の温度センサーで気温を読み取り、それを脳に伝えて血流や発汗量を変えることで体温を調節しています(暖房をつけたり、ジャンバーを脱いだりする対処行動も脳からの指令です)。しかし、加齢によってこの皮膚の温度センサーの感度が弱まると、暑さや寒さが脳に正確に伝わらず、体温調節をするための身体機能や行動に繋がらなくなるのです。
夏の熱中症は、暑さによる大量発汗で体温調節機能に異常をきたし、それによって引き起こされることで知られていますが、高齢者は加齢によってすでにそのような素地ができているため、より注意が必要です。
また、一部の高齢者においては、認知症が発汗や血液量を調整する自律神経に影響し、体温調整を難しくしている場合もあります。
多尿・頻尿
高齢者は加齢によって、腎臓の尿濃縮力が低下します。
正常な状態の腎臓は、体液の喪失を防ぐために、尿細管が尿中の水分や電解質を再吸収し、濃度の濃い尿を作ってから排出します。この腎臓での再吸収は、脳下垂体から分泌される「ADH(抗利尿ホルモン)」の働きによって行われますが、このADHの感受性は加齢にともなって低下します。すると尿は薄い状態のまま排出されることになるため、排尿の量やペースが増えて、体内水分量が減少しやすくなるのです。
意図的な飲水控え
腎臓の尿濃縮力が低下し、多尿や頻尿が見られるようになると、高齢者は夜間の排尿を気にして、就寝前の飲水を意図的に控える傾向があると言われています。睡眠が中断されることへのストレスに加え、夜間に冷えたトイレに向かう負担が、飲水を控える理由の一つと考えられます。
さらに、介護が必要な高齢者の場合、尿失禁によるおむつ交換を介護者に頼むことを避けたいという思いから、飲水を控えるケースも見られます。
また、日中でも尿漏れが起こることや、トイレの回数が増えることが、高齢者にとって足腰への負担となる場合があります。このため、夜間だけでなく、日中でも意図的に飲水を控えることがあります。
食欲の低下(欠食)
高齢者は加齢に伴って食が細くなる傾向にあり、体調によっては食事を抜くこともあります。また、嚥下機能の低下がある場合には食事が困難になるため、そのストレスが原因で食事量が減ったり、食事を取らないことがあるようです。さらに、食事量が少ないにもかかわらず、歯磨きや入れ歯の手入れをいつも通り行うことが面倒に感じられ、その結果として欠食する人も見受けられます。
いずれの場合でも、食事量が減ることは、食品に含まれる「水分」や「電解質(ナトリウムなど)」の摂取量が減少することを意味します。これらの不足は、体温調節機能に影響を及ぼし、熱中症のリスクを高める要因となります。
水分補給の重要性
冬の熱中症対策には、「乾燥対策・温度管理・水分補給」が大切です。特に水分補給は、熱中症予防に加え、便秘予防やお肌の健康維持といった様々な健康メリットをもたらしてくれるため、ぜひ習慣化して行って頂きたいと思います。
水分補給を習慣化するにあたっては、以下のポイントを押さえておきましょう。
一度にたくさん飲まない
一度に大量の水を飲むと内臓に負担をかける可能性があるため、一回の飲水はコップ一杯程度に抑え、少しずつゆっくり飲むことが理想的です。
水だけを大量に摂らない
水を大量に飲むだけでは、希釈性低ナトリウム血症を引き起こす可能性があるため、必要に応じてナトリウムなどの電解質も適切に摂取することが大切です。
口渇感があらわれる前に飲む
喉の渇きを感じた時点で、すでに脱水が進行している場合があります。そのため「先制飲水」を心がけ、喉が渇く前にこまめに水分補給を行うことが大切です。
最低でも4つの飲水タイミングは守る
・起床後すぐの飲水
・入浴前の飲水
・入浴後の飲水
・就寝前の飲水
先ほどの解説では、食欲の低下により食品から摂取できる水分や電解質が不足する点についてお話ししました。この原因についてはいくつか挙げましたが、それ以外にも「腸内環境の悪化」や「胃腸の不調」などが影響している可能性もあります。
こうした胃腸の不調が原因の場合、「電解水素水」の飲用がおすすめです。「胃腸症状の改善効果」が認められている電解水素水を取り入れることで、水分補給と胃腸ケアを同時に行うことができるため、一度試してみるのも良いかもしれません。
さいごに
冬に起きる熱中症は、夏に起きる熱中症に比べて発生件数はとても少ないようです。しかし、高齢化社会の深刻化を考えた場合、今後、冬の熱中症の絶対的な発生件数は、増えていくことが予想されます。
高齢者の方が、冬の熱中症に対して注意を払うことはもちろん大切ですが、家族や介護者の方も、高齢者が熱中症に陥らないよう、サポートの体制を作っておくことも大切と言えるでしょう。
参考文献
日本救急医学会「医学用語解説集|不感蒸泄」
https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0515.html
総合東京病院「訪問・通所リハビリ通信|12月号「熱中症」」
https://www.tokyo-hospital.com/wp/wp-content/uploads/2020/12/202012.pdf
NCBI(Robert W Kenefick,et al)「Thirst sensations and AVP responses at rest and during exercise-cold exposure」
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15354034/
産経ニュース「【暮らしの注意報】冬でもかかる熱中症 まさか、●●●の中で」
https://www.sankei.com/article/20170101-7PKBM7MOZ5PDJML6DK3AMO7ZJM/
valuepress(赤穂化成株式会社のプレスリリース)「夏だけではない、冬も「熱中症」に注意! “隠れ脱水”が引き起こす「浴室熱中症」対策に、 「ミネラル入りむぎ茶」が効果的」
https://www.value-press.com/pressrelease/211119
ノーリツ「冬こそ入浴時に気をつけよう!「ヒートショック」と「浴室内熱中症」」
https://www.noritz.co.jp/aftersupport/careful/heatshock.html
シチズン・システムズ株式会社「高齢者の体温調節機能が低下する理由と対策方法」
https://www.citizen-systems.co.jp/health/column/article/article_10.html
書籍「経口補水療法ハンドブック[改訂版]」谷口英喜 著
雑誌「きょうの健康(2015年8月号)」NHK出版 出版