フレイルは予防できる!早めの対策で健康寿命を延ばそう

「年をとって、寝たきりになるのは嫌だなぁ…」
「排便や排尿は、最期まで自力で済ませたいなぁ…」
老後に対して、このような心配を持たれていませんか?
老いは誰もが避けられず、受け入れざるを得ないものですが、高齢期の不調や機能低下には「自然な生理現象」と「不自然な病的状態」の2つがあります。
“フレイル”とは健常な状態と要介護状態の中間を指しますが、必然的な老化とは異なり、適切な取り組みによって健康な状態に戻ることが可能です。
今回は、フレイルの基礎知識について解説します。
目次
“フレイル”って何?老化との違いについて
フレイルとは、「身体的・精神(心理)的・社会的な活力」が低下した虚弱状態のことです。虚弱を意味する「frailty(フレイルティ)」が語源で、2014年に日本老年医学会が独自の造語として提唱しました。
フレイルは加齢とともに起こりやすく、高齢者においては「要介護状態の一歩手前」という位置づけで捉えられています。
フレイルと老化は本質的には異なる概念です。何がどのように違うのか、具体的に比較してみましょう。
~ 老化とは ~ | ~ フレイルとは ~ |
成熟期から加齢とともに身体や認知機能が徐々に変化していく自然なプロセス | 加齢により体力が低下し、外出も減ることで心身が衰えた虚弱な状態 |
誰にでも訪れて、時間とともに緩やかに進む | 短期間の入院や療養で、急激に悪化することがある |
年相応の変化(自然な衰え) | 同年代と比べて明らかに衰えが目立つ |
基本的に自立して生活でき、要介護リスクも低め | 放置すると、介護が必要な状態となる可能性が高い |
完全に止めることはできない | 適切な取り組みにより、予防や改善が可能 |
つまり、老化は自然な生理現象であるのに対し、フレイルは予防や改善ができる病的状態と区別することができます。
この違いをしっかりと理解しておくことは、高齢者の健康管理において非常に重要なことです。
フレイルの構成要素
フレイルは、特定の不調だけが現れる単一的な状態ではなく、さまざまな不調を包含する複合的な状態です。
包含される不調の種類は多くあり、以下の3つのグループに分けられます。
- 身体的フレイル
- 精神・心理的フレイル
- 社会的フレイル
それぞれについて、見ていきましょう。
身体的フレイル
身体的フレイルは、主に体の機能の低下を指します。具体的には、以下の様な状態が挙げられます。
筋肉の減少(サルコペニア)
筋力が低下し、歩く速度が遅くなったり、階段の上り下りが困難になったりします。
持久力の低下
疲れやすくなり、少しの活動でも息切れしやすくなります。
バランス能力の低下
転倒しやすくなり、骨折のリスクが高まります。
運動器の障害(ロコモティブシンドローム)
骨や関節、神経、筋肉などの運動器が障害され、活動能力が低下します。
口腔機能の低下(オーラルフレイル)
噛む力や飲み込む力が低下し、食欲低下や偏食が起きやすくなります。
これらの身体機能の低下は、ADL[※]の低下に繋がり、自立した生活を困難にする可能性があります。また、運動量が減ることで食欲が低下し、栄養不足に陥ることもあります。
※. (ADL=Activities of Daily Living):日常生活を送るために最低限必要な動作のこと。
精神・心理的フレイル
精神・心理的フレイルは、主に脳の機能の低下を指します。具体的には、以下の様な状態が挙げられます。
記憶力の低下
物忘れが多くなり、新しいことを覚えにくくなります。
注意力の低下
集中が続かなくなり、ミスが増えます。
判断力の低下
適切な判断ができなくなり、日常生活で困ることが増えます。
処理速度の低下
物事を考える速度が遅くなり、反応が鈍くなります。
ストレス耐性の低下(コーピングの低下)
ストレスに対して弱くなり、抑うつ症状が進行します。
感情の鈍化(アパシー)
普通なら感情が動かされる刺激に対して、関心がわかなくなります。
これらの認知機能の低下は、日常生活でのミスやトラブルを招き、社会的な孤立や閉じこもりにつながる可能性があります。
社会的フレイル
社会的フレイルは、社会的な繋がりの減少や、社会参加の機会の減少を指します。具体的には、以下の様な状態が挙げられます。
閉じこもり
外出する機会が減り、家に閉じこもりがちになります。
社会的孤立
人や社会との交流が減り、情報的に孤立しやすくなります。
経済的な困窮
収入や支援などが減少し、経済的に困窮しやすくなります。
QOL(生活の質)の低下
人や社会との交流が減り、孤独を感じやすくなります。
対人能力の低下
会話力や協調性が低下し、よりコミュニティへの再参加を困難にします。
これらの社会的な問題点は、精神的なストレスや孤独感を増大させ、身体的フレイルや精神・心理的フレイルを加速させる可能性があります。
フレイルの原因(危険因子)
フレイルの発生および進行を促進させる原因(危険因子)は広範囲にわたり、以下のものが挙げられます。
・高年齢
・女性
・少数民族
・低学歴
・社会的な地位の低さ
・一人暮らし
・孤独感
・併存症
・慢性疾患
・肥満
・低栄養
・認知障害
・うつの徴候
・ポリファーマシー(多剤併用)
・運動不足
・たんばく質不足
・喫煙
・お酒の飲みすぎ
・体内組織の炎症
・男性ホルモンなどの欠乏
・微量栄養素の欠乏(カロテノイド、ビタミンB6、ビタミンD、ビタミンEの低下)
このうち、修正可能な因子に対して適切な取り組みを行うことで、フレイルの予防・改善が期待できると言われています。
フレイル予防を始めよう!
上述の危険因子のうち、どの因子にどのような取り組みを行うかは、個人によって異なります。
その一方で、一般的に推奨されている主な取り組みには、以下のものが挙げられます[※]。
・タンパク質をしっかり摂る
・運動や筋トレなどを行う
・社会参加を積極的に行う
・良質な睡眠をとる
それぞれについて、見ていきましょう。
※. 適切な取り組みを行うには、医師の正確な診断が必要です。体調や体質、持病の有無などによって、食事や運動を制限しなければならないこともありますので、まずはかかりつけ医やフレイル外来などに相談してください。
タンパク質をしっかり摂る
高齢者は加齢とともに食が細くなり、肉や魚などの食品を避けがちです。肉や魚などをあまり食べなくなると、タンパク質の摂取量が少なくなり、筋肉量や骨密度が低下していきます。また、高齢者は若年者と違って、筋肉の分解量が合成量を上回るため、若年者よりも多めにタンパク質を摂らないと、筋肉量が低下してしまうのです。
筋肉量の低下はサルコペニア(筋肉減少症)のリスクを高め、骨密度の低下はロコモ(運動器症候群)のリスクを高めるため、タンパク質はしっかり摂る必要があります。タンパク質の1日の摂取量の目安は「体重1kgあたり1g以上」で、その量を朝昼晩の三食で「均等に摂る」のが良いと言われています[※1]。
また、タンパク質を摂る際には、その種類にも気をつけた方が良いかもしれません。滋賀県立大学の今井絵理准教授らの研究では、高齢男性においては特に動物性タンパク質の摂取量が多いほど、フレイルリスクが下がると報告されています[※2]。
食事はバランスよく摂ることが大切ですので、極端に動物性タンパク質に偏ることは良くありませんが、食事メニューに肉や魚などを適量含ませることが、フレイル予防に効果的だと言えるでしょう。
※1. 一回の食事で多く摂るよりも、三食均等に摂った方が、筋肉合成量は高まると言われています。
※2. 植物性タンパク質の摂取量は、多くても少なくてもフレイルリスクに大きな影響は与えなかったと報告されています。
運動や筋トレなどを行う
体の機能低下を指す「身体的フレイル」を防ぐには、タンパク質を摂ることと同時に、しっかりと体を動かして鍛えることも有効な手段となります。
運動メニューの大まかな構成は、有酸素運動と筋トレがメインになりますが、ストレッチやバランストレーニング、口腔トレーニングなども取り入れることで、予防効果が一層高まると言われています。
有酸素運動(持久力アップ) | ウォーキング、ジョギング など |
筋トレ(筋力アップ) | スクワット、ランジ など |
ストレッチ(柔軟性アップ) | 足首回し、アキレス腱伸ばし など |
バランストレーニング(バランス能力アップ) | 片足立ち、足裏ボール転がし など |
口腔トレーニング(咀嚼力・嚥下力) | 早口言葉、パタカラ体操 など |
これらすべての運動について具体的に紹介することは割愛しますが、ウォーキングについては、すぐに取り組めて分かりやすいということもあり、以下にポイントだけを紹介しておきます。
ウォーキングのポイント
厚生労働省が推奨している一日の歩数は、18~64歳までの成人は「約8,000歩以上」、65歳以上の高齢者は「約6,000歩以上」です。しかし、ウォーキングを始めて間もない頃は、その目標歩数は気にせずに、体が心地よいと感じる程度のウォーキングにしておいた方がよいでしょう。ウォーキングに慣れて目標歩数に到達できた後、別の筋肉にも少し負荷を加えたい場合には、歩幅を10cmほど広げて歩くとよいでしょう。全身の主要な筋肉が、まんべんなく鍛えられますのでオススメです。また、ウォーキングは以下の通り、脳にも良い影響を与えるため、「精神・心理的フレイル」予防にも有効と言えるでしょう。
・脳の血流量がアップするため、脳が活性化しやすくなる
・見知らぬ街の景色を見ながら歩くと、ストレス発散になる
・生活習慣病予防にも効果的で、脳血管疾患等から脳細胞を守る
・アルツハイマー病の原因物質を分解する酵素が増える
社会参加を積極的に行う
「身体的フレイル」、「精神・心理的フレイル」、「社会的フレイル」のうち、特に気をつけたいのが「社会的フレイル」です。なぜなら社会的フレイルは、身体的フレイルと精神・心理的フレイルを誘引する可能性が高いからです。
たとえば、人や社会との繋がりがなくなると、得られる情報の量が少なくなり、口数が少なくなり、物事に対する興味や関心も弱くなります。そういった社会性の欠如が、認知機能の低下を招き、「精神・心理的フレイル」に繋がることがあるのです。また、体を動かす機会(仕事や趣味などに関連する活動)も減るため、身体機能が衰えて、「身体的フレイル」に陥ることもあります。
東京大学高齢社会総合研究機構が行った様々な調査では、最初にフレイルの兆候が現れるのは「社会との繋がり」だと結論づけています。ドミノ倒しで言うところの、最初のドミノ牌が「社会との繋がりの喪失」であり、そこから次々と他のドミノが連鎖的に倒れるように、様々な不調へと繋がっていくというわけです。
また、東京女子医科大学の吉澤裕世氏らが行った約5万人の高齢者を対象とした調査では、単に運動を行っている人よりも、人との繋がりがある活動[※]を行っている人の方が、フレイルリスクは低いと報告されています。
これらのことから、社会的フレイルの予防は、他のフレイルよりも優先(重視)して取り組んだ方がよいということがうかがえます。
社会的フレイルは、定年退職や伴侶の喪失、親しい友人の引っ越しなどをキッカケにして起きることがあります。その対処として、復職や再婚をするのは現実的に難しいかもしれませんが、同好会に入ったり、ボランティアをすることは比較的行いやすいはずです。お住まいの地域でそのような活動がないか、一度探してみてはいかがでしょうか。また、何らかの理由で実際に人と会うことが難しい場合は、SNSやオンライン通話など、インターネットを使った交流方法を探してみるのもよいでしょう。
※. 「文化活動」と「ボランティア・地域活動」の2種の活動
良質な睡眠をとる
良質な睡眠をとり、しっかりと体力を回復させることは、フレイル予防において重要なポイントです。
良質な睡眠がとれずにいると、体力回復のためにエネルギーが消費され、筋肉がやせ細ること(筋肉量の減少)に繋がります。また、筋肉を合成する成長ホルモンは睡眠中に分泌されるため、その意味でも良質な睡眠は重要です。
良質な睡眠をとるための有効的な方法は数多くありますが、その一つには「腸内環境を整える」ことが挙げられます。
たとえば、ある被験者集団を「腸内環境が整っているグループ」と「整っていないグループ」とに分け、就寝前に刺激的な映像を見せた場合、整っていないグループでは動揺などの反応が比較的強く見られ、睡眠の質が悪かったという調査結果もあるようです。
腸内環境を良くするためには、一朝一夕な取り組みではなく、継続的な取り組みが求められます。食生活においては粗悪な加工食品を避け、プロバイオティクス[※1]やプレバイオティクス[※2]をしっかり摂ることなどが有効です。また、現在「胃腸症状」にお悩みの方は、その症状を改善するために「電解水素水」を試してみるのもよいでしょう。
※1. 適正量の摂取で有用な効果をもたらす生きた微生物のこと。納豆の納豆菌や、ヨーグルトのビフィズス菌など。
※2. 善玉菌のエサとなり、その働きを促進させる物質のこと。ワカメの水溶性食物繊維や、バナナのオリゴ糖など。
さいごに
高齢者の人たちの中には、「年だから仕方がない」という言葉を口癖のように言う人がいます。確かに、良い意味での潔さや受け容れは必要かもしれません。しかし、フレイルに対する適切な取り組みをせず、悲観的な諦めとして言っているのであれば、それは非常にもったいない考え方と言えるでしょう。
「人事を尽くして天命を待つ」という格言があるように、まずは“やるべきこと”を明らかにし、最善を尽くすことが健康寿命を延ばす秘訣です。また、フレイル予防の開始時期は早いほど効果的ですので、具体的な対策が決まったら、できるだけ早く実践することが重要です。
そして、最後にもう一つ大切なことは、楽しみながら取り組むことです。義務感だけでなく、ポジティブな気持ちを持って続けることが、より良い結果につながります。何よりも大切なのは、フレイル予防に取り組む時間も「人生の大切な一部」だということをお忘れなく。
参考文献
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(成人版)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001195866.pdf
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(高齢者版)」
https://www.mhlw.go.jp/content/001195868.pdf
厚生労働省「e-ヘルスネット|高齢者」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/hale/ya-032.html
PLOS One「Feng Z,et al,|Risk factors and protective factors associated with incident or increase of frailty among community-dwelling older adults: A systematic review of longitudinal studies」
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0178383
NLM(PubMed)「Eri Imai et al.|Animal protein intake is associated with higher-level functional capacity in elderly adults: the Ohasama study」
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24576149/
J-STAGE「日本公衆衛生雑誌(66巻(2019)6号)・吉澤裕世ほか|地域在住高齢者における身体・文化・地域活動の重複実施とフレイルとの関係」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/66/6/66_18-068/_pdf/-char/ja
骨粗しょう症(骨粗鬆症)ホームページ-いいほね.jp「食事と運動/骨粗しょう症(骨粗鬆症)」
https://iihone.jp/nutrition-exercise.html
日本歯科医師会「オーラルフレイル対策のための口腔体操」
https://www.jda.or.jp/oral_frail/gymnastics/
長寿科学振興財団「フレイル予防・対策:基礎研究から臨床、そして地域へ」
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/pdf/R2_frailty_gyosekishu.pdf
医療法人社団愛友会 伊奈病院「骨や筋肉のための栄養」
https://www.inahp.saitama.jp/page/kotsusoshosho_05-2/
すみれ鍼灸整骨院「足裏の感覚をとりもどす(足裏のボールエクササイズ)」
https://sumireseikotsu.com/archives/825
長野市 地域包括ケア推進課「『脳活ウォーキング』しよう」
https://www.city.nagano.nagano.jp/documents/3834/306225.pdf
書籍「今日からできるフレイル対策」飯島勝矢 著
雑誌「みんなのスポーツ」日本体育社 出版
雑誌「栄養と料理(2023年9月号)」女子栄養大学出版部 出版
雑誌「NHKテキストきょうの健康(2024年1月号)」NHK出版 出版
雑誌「暮しの手帖(2020-21年12-1月号)」暮しの手帖社 出版
雑誌「日経ヘルス(2023年冬号)」日経BP 出版
雑誌「健康(2021年春号)」主婦の友社 出版
雑誌「AERA(2023年10月9日号)」朝日新聞出版 出版
