慢性便秘症とは?原因と解消法について
多くの人が経験する身近な不調、「慢性便秘症」。よくあることだからといって放置をしていると、大病を患ったり、寿命を縮めてしまうこともあるようです。一般的に女性がよくかかる病気として知られていますが、男性も高齢になるにつれて慢性便秘症になりやすくなるため、注意が必要です。
便秘症を解消する方法としては、「野菜をたくさん食べる」、「しっかり運動する」といった方法がよく知られていますが、どのような野菜を摂り、どのような運動をするべきかを具体的に把握している人は、少ないのかもしれません。
今回は慢性便秘症の原因、解消法について解説をしていきます。
目次
慢性便秘症とは?
慢性便秘症は常習性の便秘症のことを指していて、次の3つに分類されます。
① 弛緩性(しかんせい)便秘症
→ 腸の筋力が衰えて動きが鈍くなり、便を押し出すことが困難になって起きる便秘症
② 直腸性(ちょくちょうせい)便秘症
→ 通常、便が直腸[※]に送られると便意が起きますが、その便意を我慢し続けることで、次第に便意が感じにくくなって起こる便秘症
③ 痙攣性(けいれんせい)便秘症
→ストレスなどから自律神経のバランスが崩れ、大腸に痙攣が生じ、便の送り出しがうまくいかなくなって起こる便秘症
比較的よくあるケースとしては、①もしくは②、または①と②の合併状態です。
※. 直腸(ちょくちょう)= 大腸の中で最も肛門に近い部分
女性は便秘症になりやすい
女性は男性と比べて、便秘症になる人が多いと言われています。
その主な理由は、以下の通りです。
・腹筋が弱いため(腸の蠕動運動[※]も弱い)
・生理があるため(生理前に黄体ホルモンが増え、腸の動きが鈍化)
・ガードルなど、きつい下着で腸の運動が抑えられるため
・排便が恥ずかしいという古くからの通念が強く、排便を我慢しがちなため
・少食ダイエットで、便の材料が不足するため
・朝に便意が起きても、家事などで忙しく、トイレに行き損ねることが多いため
・妊娠によって子宮が大きくなり、腸を圧迫するため
・出産後、腹筋がゆるむため
後ほど解説をしますが、便意は我慢を重ねるとだんだんと起きなくなり、それが原因で便秘症に陥ってしまうこともあるのです。
※. 蠕動運動(ぜんどううんどう)= 腸内の便を排出するため、肛門に向かって移動させる働きのこと
男性も歳を取ると便秘症に
男性も60歳頃から腸の機能は大幅に低下して、便秘症になりやすくなると言われています。
その具体的な理由としては、以下のものが挙げられます。
・腸内の善玉菌が減少し、悪玉菌が増加するため
(悪玉菌が増えると蠕動運動が低下する)
・小腸での栄養素の吸収が低下するため
(本来は届かない栄養素が大腸にまで流れ込み、大腸内の悪玉菌のエサ(増加原因)になる)
・便を送り出す力が弱まるため
(老化によって蠕動運動が低下し、骨盤底筋や肛門の筋肉も衰える)
また、中高年がよく服用する降圧薬やせき止め薬、抗うつ薬には、副作用として便秘症を引き起こすものもあり、それらがより一層便秘症に陥りやすくさせているとも考えられています。
大腸がんになる恐れがある
厚生労働省の報告によると、2021年の大腸がん死亡者数は、以下の通りとなっています。
男:28,080人
女:24,338人
計:52,418人
1970年の時点では8,499人(男:4,303人、女4,196人)ですので、おおよそ「50年で6倍」も増えていることになります。
大腸がんの原因としては、脂肪や乳製品の過剰摂取、運動不足などの要素が挙げられ、便秘症については明らかな見解は出ていないようですが、多くの有識者がそのリスクを訴えています。というのも、大腸がんは便がたまりやすい「S字結腸」や「直腸」によく見られる病気だからです。また、便秘症になると大腸がんの促進因子である「二次胆汁酸[※]」が濃くなることも、その理由の一つとして挙げられています。
※. 食べ物の消化や吸収のために肝臓から分泌される消化液で、腸に送られます。この胆汁酸から二次胆汁酸が作られます。
寿命を縮める恐れがある
米国メイヨー医科大学の研究では、「便秘症を放置すると寿命が短くなる」と報告されています。この研究は、回答者の実感で「慢性的な便秘症がある」と答えた622人と、そうでないと答えた3,311人の15年に及ぶ追跡調査によるものです。結果は「便秘症がある」と答えたグループが、そうでないグループよりも15年後の生存率が低い(約4分の3になっていた)、というものだったようです。
食品添加物や残留農薬、汚染物質など、口から体内に入ってくる有害物質と、体内で生まれる毒素が、腸内で長く滞留していることを考えれば、当然の結果なのかもしれません。
まずは生活習慣を見直そう
健やかな毎日を送るためには、「食事、睡眠、運動」の3大要素を継続的に正しく行う必要があります。しかし、忙しい毎日の中では、それらを後回しにしたり、犠牲にしてしまいがちです。そうした後回しや犠牲が生活習慣の乱れとなり、便秘症をはじめ、さまざまな不健康を引き寄せてしまいます。
以下の項目を参考にして生活習慣を見直していけば、便秘症の改善・解消が期待できます。忙しさに負けない、絶好調な体を手に入れましょう。
適度な運動
便秘症の解消には、運動が効果的だと言われています。ここでは、便秘症に良いとされる運動をいくつかご紹介します。
① 起床後の運動
起床した後に軽い運動(ラジオ体操や30分ほどのウォーキングなど)を行うと、腸に適度な刺激が加わり、蠕動運動を高めてくれます。
② お尻をすぼめる運動
お尻を意識的にキュッ、キュッ、キュッ、と3回連続してすぼめる運動です。肛門周囲にある括約筋の弾力がアップして、痔を予防するとともに、排便力も高めることができます。電車の待ち時間など、ちょっとしたスキマ時間を活用して行いましょう。
③ お腹のストレッチ
低い枕や巻いたタオルを腰の下にあてて仰向けに寝ると、自然とお腹がストレッチされます(伸ばされます)。その状態で、手の平を腹部に置き、「の」の字を描くようにさすります(朝晩それぞれ3~5分ほど行うと◎)。
④ 腹筋を鍛える
便を押し出すために必要な「腹圧」は、腹筋の強さにかかっています。つまり、腹筋を鍛えることで排便時に十分な腹圧をかけることができ、直腸に便が残りにくくなります。
⑤ 趣味に運動を取り入れる
単調な反復トレーニングとは別に、体を動かす「趣味」を1つ持っておくと良いでしょう。たとえば「ノルディックウォーキング」で大自然の中をハイキングすれば、爽快な気分になってストレスが発散されると同時に、全身運動によって効率的に運動量を稼ぐこともできます(ストレスと便秘症の関係性については後述します)。
食生活の改善
「食物繊維をたくさん摂って便秘症を解消しよう!」といった聞き慣れたフレーズがありますが、このフレーズには少し補足が必要です。
食物繊維には「不溶性」と「水溶性」とがあります。水溶性食物繊維は水を含むとゲル状になり、そのゲルの保水効果によって便を軟らかくし、排便をスムーズにしてくれます。一方、不溶性食物繊維は「便の材料」となり、カサを増やすという意味では、便秘症解消に一役買っています。しかし、不溶性食物繊維を多く含む食べ物ばかりを食べていると、便から水分が吸収されて硬くなり、便秘症を引き起こすこともあるため、過度に偏らないように摂取する必要があります。便秘症解消のためには、不溶性と水溶性とを2対1の割合で摂取するといいようです。
その他、以下のような食べ物を食事に取り入れると、便秘症の予防や解消に役立ちます。
① 発酵食品(善玉菌を刺激して元気にする)
納豆やヨーグルトなどの発酵食品には、腸内細菌の仲間である微生物が含まれています。それらの微生物が腸内に棲んでいる善玉菌を活性化させ、腸内環境を良好にしてくれます。また、腸内を弱酸性にして、悪玉菌の増加を防ぐ効果もあります。
② オリゴ糖(善玉菌のエサになる)
乳酸菌やビフィズス菌のエサとなって善玉菌を増やす効果があります。悪玉菌のエサにはならないため、善玉菌だけを効率よく増やすことができます。
③ EPA・DHA(腸の中の炎症を鎮める)
腸の炎症を防ぎ、善玉菌が増えやすい環境にしてくれます。また、便の滑りを良くする効果も期待されています。EPAとDHAは、どちらも体内で合成することができない成分(必須脂肪酸)ですので、食事から摂取する必要があります。
ストレスをためない
ストレスは交感神経を優位にさせるため、便秘症を引き起こす大きな原因になります。その最たる例が、阪神淡路大震災や東日本大震災で、被災者の多くが便秘症になったと言われています。震災による甚大な被害と、その後の住環境の劣悪さなどが、大きな影響を及ぼしていると考えられています。
上記はどちらも極端な例ですが、社会生活を営む上でも、強いストレスを受けることはよくあるため、それらを上手に発散させる「趣味」や「考え方」を持っておくことは大切です。ちなみに、リラックスをするという観点では、トイレルームのインテリアを心地よいデザインにすることも、スムーズな排便につながると言われています。
水分摂取
便秘症を解消するにあたって、水分摂取は2つの意味で重要です。
① 便の硬化予防
便は適度に水分が含まれていないと、スムーズに排便されません。体内水分量が不足(脱水)していると、便が硬くなり便秘症に陥りやすくなります。「意識的に水分摂取を行っている」という方であっても、飲んだ水がそのまま大腸に届けられるわけではないということは、知っておいた方が良いでしょう。実は、口から摂取した水のほとんどは小腸で吸収されていて、大腸に届けられるのは、その1/10程度とも言われています[※] さらに、夏場などは発汗などによって、より多くの水分が失われるため、大腸に届けられる水分もより少なくなります。便秘症予防だけではなく、脱水予防の観点からも、こまめな水分摂取は大切です。
※. 1Lの水分を摂った場合、およそ900mLの水分が小腸で吸収されると言われています。
② 蠕動運動の促進
朝起きてコップ一杯の水を飲むことも、便秘症の予防・改善に効果的です。胃が空っぽの状態で水を飲むと、水の重みで胃が下がり、胃のすぐ下を通る大腸(横行結腸)が刺激され、強い蠕動運動が始まります(これを「胃・結腸反射」と言います)。つまり、朝一番に飲む水が眠っていた腸にとっての「目覚ましベル」となるわけです。そして、その水を飲んだ後に朝食を摂ることで、胃や腸が本格的に動き出し、朝食から20分後くらいに便意が現れやすくなります。このとき、飲む水は「冷水」よりも「常温水」の方が、体の冷えを抑え、胃腸にも優しいためオススメです。
また、「電解水素水」という水を飲めば、便の硬化予防や蠕動運動の促進に加えて、「胃腸症状の改善効果」も得ることができますので、腸の健康を意識されている人は、一度試してみても良いかもしれません。
便意は我慢しない
通常、便が直腸にまで降りてくると「便意」が起きます。しかし、朝の身支度や家事が忙しかったり、学校や職場でトイレに行きにくかったりして、常習的に便意を我慢していると、自然な便意はだんだんと起きにくくなります。朝は排便のための時間をしっかりと確保できるよう、前日の夜には早めに寝るようにした方が良いでしょう。また、そうやって朝に排便を済ませておけば、学校や職場で便意を我慢することも少なくなります。
腸に排便リズムを覚えさせる
「朝に排便をする」ということを体に覚えさせておけば、自然な便意が朝に起きるようになります。そのためには、睡眠と食事のリズムを整えることが前提となります。つまり、決まった時間に食べ、決まった時間に寝る、これが定期的な「排便リズム」に繋がります。
また、朝食後しばらくして便意が起きなくても、必ず一旦はズボンを下ろし、便器の上で排便のポーズをとるようにして下さい。神経の反射というのは繊細なもので、ズボンをはいたままでは、なかなか便意が起きないようになっています。排便する状態を形式的にとるだけで、意外とスルッと出てくれることもあるのです。
薬物療法
便秘症を解消する方法の一つに、「下剤」の使用が挙げられます。ただし、下剤は長く常用していると、本来体に備わっている「自然な排便力」が失われたり、さまざまな体の不調を招くこともあるため、どうしてもの時にだけ使用するようにしましょう。
以下は、下剤の大まかな種類分けです。
① 刺激性下剤
腸を直接強く刺激して蠕動運動を活発にして、排便を促進する下剤です。漢方薬にも含まれている大黄やセンナなどが主成分で、市販下剤の大半を占めています。刺激が強いため、長期服用には向いていません。
② 緩下剤
便を軟らかくして排便を促進する下剤で、次の2つに大別されます。下剤の中では、刺激が少ないのが特徴です。
・塩類下剤 ── 便の水分を増やして柔らかくする
・糖類下剤 ── 大腸内の水分を増やして便を軟らかくする
③ ルビプロストン下剤
2012年に登場した比較的新しい下剤です。小腸で腸液の分泌を促進し、便に含まれる水分を増やして、排便を促進します。それまでの下剤とは効き方が異なり、長期服用しても効果が落ちにくく、比較的安全に使用できると言われています。
さいごに
便秘症を解消して腸を健やかな状態にしておけば、病気になりにくく、肌の状態も良くなります。また「脳腸相関」という言葉があるように、腸は脳とも密接な関わりがあり、良好な状態を保つことでメンタルをも健やかにしてくれます。つまり、腸内ケアをするということは、心身の健康に大きく役立つというわけです。
便秘症の改善・解消をキッカケに、ぜひ腸活についても学ばれてみてはいかがでしょうか。
参考文献
大正製薬「生理前の便秘」改善に! タイプ別に見るオススメの食べ物」
https://brand.taisho.co.jp/colac/benpi/005/
ハウス食品「あなたの腸内環境は大丈夫?悪玉菌を増やさないためのチェックポイント」
https://comeon-house.jp/fromhouse/136/index.html
政府統計の総合窓口e-stat「人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡上巻 5-24 悪性新生物による主な死因(死因簡単分類)別にみた性・年次別死亡数及び死亡率(人口10万対)」
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411668
PubMed「Impact of functional gastrointestinal disorders on survival in the community」
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20160713/
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