人工透析について | 水と健康の情報メディア|トリム・ミズラボ - 日本トリム

人工透析について

「人工透析を受ける必要がある」と医師から言われたけれど、そもそも人工透析ってなに?

「どのような種類があって、どのようなメリット・デメリットがあるの?」

「自分でも調べてみたけれど、医学用語ばかりで難しすぎる…」

この記事では、そういった方に向けて人工透析についての知識をやさしく解説しています。人工透析についての大まかな理解があれば、医師の説明がある程度分かりますし、相談もしやすくなります。また、これから受ける医療がどのようなものなのかを知っておくことは、メンタルを落ち着かせるという意味でも大切です。

まずは、ザックリとアウトラインからつかんでいきましょう。

人工透析とは

人工透析は腎臓病が進行し、末期腎不全に陥った場合に行われる「腎代替療法」の一つです。腎臓の代わりに人工的な手段を用いて、血液中の老廃物や余分な水分を取り除き、酸やアルカリの調整なども行います。

末期腎不全の患者が人工透析を一度行うと、老廃物や余分な水分などが排泄されることによって、体液バランスが健康時に近い状態に戻ります。しかし、その状態は一時的なものであり、そのまま生活をしていれば、生命活動によって生じる老廃物が再び血液の中に溜まっていくことになります。つまり、人工透析は定期的かつ継続的に行わなければならないものであり、腎移植を受けない限りは、一生続けていく必要があるものなのです。

透析の種類

人工透析の種類は細かく見るとたくさんありますが、基本的には「血液透析」と「腹膜透析」とに大別されます。

  • 血液透析(略名:HD)
  • 腹膜透析(略名:PD)

それぞれの特徴について、見ていきましょう。

血液透析

血液透析

「血液透析」は、血液をいったん体外に取り出して、それを「ダイアライザー」という機器(人工腎臓)を使ってキレイに浄化してから、体内に戻す透析療法です。

通常は、手首付近に「バスキュラーアクセス [※1]」という血管へのアクセスポイントが手術によって作られ、そこからチューブを介してダイアライザーに血液が送られます。浄化しおわった血液はダイアライザーから排出されて、別のチューブを介して再び体内に戻される流れです。

ダイアライザーは全長が約30cm、直径が約4cmの筒状の機器で、その中に極細のチューブが約1万本入っています。これらのチューブは、半透膜[※2]の性質を持った膜からできていて、このチューブの内側を汚れた血液が流れていきます(この膜のことを透析では「透析膜」といいます)。そして、この密集しているチューブの外側(合間)には、「透析液[※3]」という液体が逆方向に流れています。つまり汚れた血液は、透析膜を介して透析液と触れ合う形になるわけです。これによって、血液中の老廃物や毒素などが透析液中に溶け込み、それと同時に必要な電解質などが血液中に供給され、血液成分のバランスが整えられるのです。

また、除水については、汚れた血液がチューブの内側を通る際、チューブの外側(透析液側)に向けて機械的に陰圧(引っ張る力)を発生させることで、血液中の余分な水分をチューブの外側に引き出すことができます。

一般的な血液透析の場合、透析に費やす時間は1回あたり4~5時間で、週3回の頻度で行われます。血液透析を受けられる時間帯については、「朝・昼」が一般的ですが、病院によってはまれに「夕・夜(オーバーナイト)」を選択できるところもあります。

血液透析を受けるにあたっての、メリットとデメリットは、以下のものが挙げられます。

【メリット】
・一回の人工透析で、効率的に老廃物や余分な水分を体外へ排出できる
・病院内での治療なので、何かあっても専門家がすぐに対応してくれる
・透析機器を自宅に設置しなくてよい
・透析機器の管理をしなくてよい など

【デメリット】
・病院が遠くにある場合、通うのに時間がかかる
・人工透析の時間帯によっては、会社を半日休暇または全日休暇しなければならない
・アクセス部の不具合や合併症のリスクがある
・海外旅行などがしにくくなる
・残存腎機能[※4]がある場合、その機能がダメになってしまうリスクがある など

※1. 別名「ブラッドアクセス」。血液を体外へ導き出すための窓口のようなもの。手首付近の静脈と動脈を手術によって接続した「シャント」が、一般的なバスキュラーアクセスとして知られています。
※2. 目では見えないほどの小さな穴(孔)がたくさんあいている膜のこと。
※3. 透析液は、複数のメーカーから異なる製品が作られていますが、一般的な組成としては「電解質・ブドウ糖・重炭酸・酢酸」などが入っています。
※4. まだ残っている(生きている)腎機能のこと。

腹膜透析

腹膜透析

「腹膜透析」は、患者自身の腹膜(ふくまく)を、透析膜として利用する透析療法です。     

腹膜とは、お腹の中にある複数の内臓(胃・腸・肝臓など)を丸ごと包んでいる薄い膜のことで、袋のような形になっています(袋の中の部分を「腹腔(ふくくう)」と言います)。腹膜透析では、まず「カテーテル」と呼ばれる専用のチューブを腹部に入れる(設置する)手術を行います。簡単に言うと、チューブの片方の先端を腹腔へ入れ、もう片方の先端は、おへその横あたりから体外へ出すような状態にするのです(おへその横あたりからチューブがぶら下がっている状態)。このおへその横あたりから出ているチューブの先端に「透析液」が入った袋を取り付け、重力を使って腹腔内に透析液を注入します(透析液の入った袋は腹部よりも上方にセッティングします)。

注入された透析液には、血液[※]の中の老廃物や毒素などが腹膜を通して、徐々に入り込んでいきます。そして、一定時間が経った後、腹腔の汚れた透析液を再びカテーテルを通して体外(廃液用の袋)に排出するというのが、大まかな流れです(廃液用の袋は腹部よりも下方にセッティングします)。

腹膜透析でも除水は行われますが、血液透析のように陰圧をかけることができませんので、「浸透圧」の原理を利用して除水を行います。浸透圧というのは、簡単に言うと「水を引っぱる力」のことです。透析液中に含まれるたくさんのブドウ糖が浸透圧物質となって、血液中の余分な水分を、腹膜を介して透析液中(腹膜の内側)へと引っぱり出してくれるのです。

ここまで説明したやり方を、朝~夕の起きている間に3~4回行うのが「持続携行式腹膜透析(略名:CAPD)」と呼ばれる方法で、夜の寝ている間に「サイクラー」と呼ばれる装置を使って、自動で行うのが「自動腹膜透析(略名:APD)」と呼ばれる方法です。たとえば、仕事の制約上、ワークスタイルを大きく変えられないという人などは、就寝中に透析液交換を行う「APD」を選択することが多いと言われています。

ただ、いずれの方法であっても、腹膜透析を選択する場合には、事前に知っておかなければいけないことがあります。それは「腹膜透析はずっと行うことはできない」ということです。といいますのも、腹膜透析は腹膜に負担がかかるため、5~8年が限度と言われています。その後は、医師の判断にもよりますが、多くの場合は血液透析へと移行することになるのです。

「いずれ血液透析へと移行するのなら、最初から血液透析にしていた方がわかりやすい」と考える人もいるかもしれませんが、腹膜透析は残存腎機能を保護してくれるという大きな特徴があります。そのため、近年では残存腎機能があるのであれば、まずは腹膜透析から行って、腹膜透析ができなくなってから血液透析を行うといった選択スタイル(PDファースト)が推奨されているようです。

腹膜透析を行うにあたっての、メリットとデメリットは、以下のものが挙げられます。

【メリット】
・血液透析のように何時間も同じ体勢をとり続けなくてよい(透析液の交換は1回30分ほど)
・頻繁に通院しなくてもよい
・職場などでも透析液の交換が行える
・残存腎機能を保護することができる
・APDであれば、就寝中に透析液交換が行える

【デメリット】
・毎日行わなければならないので面倒
・血液透析よりも浄化能力が弱い
・APDの場合、寝室に機器をおくスペースや電源を確保する必要がある
・スポーツなどでは、強い腹圧がかからないようにする必要がある
・透析液を交換する手技を覚える必要がある
・カテーテルの衛生管理に気を使う必要がある(入浴時など)

 ※. 腹膜の血管を流れる血液

透析患者の身体的・精神的負担

腎臓の機能は人が生きていく上で欠かすことのできないものですので、腎移植を受けない限り、人工透析は基本的には一生続けていかなければなりません。長い付き合いになるわけですから、できるだけ体に負担の少ないことが望まれますが、現在行われている標準的な人工透析では、その点における改善がやや不足しているのが現状です。

たとえば血液透析は、溜まった老廃物や余分な水分などを、限られた時間内で一気にきれいにするという特徴があります。効率的に浄化するという点においては、良いことだと言えますが、その反面、体内環境が急激に変わってしまうため、体がそれについて行けず、負担になることもあるのです。

具体的には「倦怠感(透析疲労)」や「掻痒感(強いかゆみ)」などが挙げられ、それらが仕事や睡眠などに悪い影響を与え、生活の質を著しく下げてしまいます。

また、透析患者さんは常に合併症のリスクを抱えています。

【透析患者さんの代表的な合併症】
・うっ血性心不全
・虚血性心疾患
・脳卒中
・虚血による下肢切断 など

このように透析患者さんは、倦怠感や掻痒感の我慢、合併症の発症リスクなど、様々なストレスと闘っているのです。

水素を付加した新療法「電解水透析」

上記に挙げた透析による倦怠感や掻痒感、合併症などは、透析医療における大きな課題として、今もさまざまなところで改善の試みがなされています。そのような中、近年「電解水透析」という名の新しい血液透析療法が、透析患者さんの負担を減らすとして、大いに注目を集めています。以下では、一般的な血液透析との違いを簡単に説明します。

一般的な血液透析では、1回あたり約120Lの「透析液」が使用されていて、この透析液は透析液の原液または粉末を、透析用水で薄めて作られます。

透析液=(透析用水+透析液の原液)
または、
透析液=(透析用水+透析液の粉末)

つまり、一般的な透析液は「原液」または「粉末」によって、その性質が大きくコントロールされているわけです。

これに対して電解水透析では、透析液の主原料である「水(透析用水)」を改良することによって、その性質を向上させています。大まかに説明すると、透析用水の生成過程において水を電気分解し、透析用水の中に抗酸化成分である「水素」を含ませているのです。これによって、透析患者さんの血液を透析装置に循環しているときにおこる酸化ストレスを軽減しているという論文が発表されています。これらのことが、結果的に患者さんの体の負担(副作用)を軽減することにつながる、というわけです。人工透析による倦怠感や掻痒感、合併症などの発生原因は、様々なものが挙げられていますが、活性酸素もその一つだと考えられています[※1]。

電解水透析の有用性は、いくつかの大学や病院によって研究や調査が進められ、上記のもの以外にも様々な有用性が報告されています。

【 報告されている電解水透析の有用性 】
・倦怠感の改善
・掻痒感の改善
・血圧の改善[※2] 
・ESA使用量の減少[※3] 
・合併症発症リスクの低減
・栄養状態悪化の抑制
・抹消皮膚温度の上昇 など

※1. 透析中は好中球(白血球の一種)が刺激され、MPO(ミエロペルオキシダーゼ)という酵素が放出されます。これが酸化ストレスに繋がっていくと考えられています。
※2. 電解水透析を12ヶ月間行うことで、降圧薬の量を約2割削減できるという報告があります。
※3. ESA・・・赤血球造血刺激因子製剤(腎性貧血の治療用製剤)

さいごに

医師から「透析が必要です」と告げられたときのショックは、誰にとっても非常に大きいものです。絶望や後悔の念に押しつぶされ、何も考えられなくなってしまうこともあるかもしれません。また、人工透析を受けるにあたっては、いろいろな手間や制約があり、強いストレスを感じることもあるでしょう。

しかし、そのような中であっても、私たちは人工透析を「受けられる」ことのありがたさを忘れてはいけません。なぜなら、身体的な条件によって人工透析が受けられない人もいれば、医療体制が十分に整っていない国に住んでいる人もたくさんいるからです。

日本の透析医療は世界でもトップクラスと言われており、私たちはその恩恵を受けています。落胆する気持ちを完全に払しょくすることはできないかもしれませんが、自分には何が残されていて、何ができるのか、あらためて見つめ直してみることも大切なのではないでしょうか。

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参考文献

医療法人社団三杏会 仁医会病院「人工透析」

http://www.jinikai.com/index.php/touseki2/

東京新橋透析クリニック「透析液の種類と成分について知ろう」

https://www.toseki.tokyo/blog/typedialysate/

日本トリム「分子状水素(H2)溶存血液透析液を使った新しい血液透析療法は、慢性血液透析患者の予後を改善する:前向き観察研究」

https://www.nihon-trim.co.jp/research/1048/

株式会社日本トリム「EW-HDシステム|電解水透析システム」

https://www.nihon-trim.co.jp/product/ew/ew_hd/

森下記念病院「透析患者さんの痒みについて」

https://www.morishita.or.jp/department/hemodialysis/itch/

株式会社日本トリム「W-HDシステム|電解水透析システム」

https://www.nihon-trim.co.jp/product/ew/ew_hd/

動画「電解水透析~New Discovery~|日本トリム共催ランチョンセミナー2023年6月17日」

https://www.youtube.com/watch?v=BCev2u1QReU

動画「電解水透析について|日本トリム」

https://www.youtube.com/watch?v=AwAF_vfbu3s

動画「都内の透析クリニックで初めて導入!疲労改善に有効な【電解水透析システム】を紹介します。」

https://www.youtube.com/watch?v=ckU9ELf8JLw

書籍「ステージ別 腎臓病の治療とケア」富野康日己 著