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胸焼けの原因と対策(前編)|原因や注意点について解説

みぞおちから胸にかけて、ジリジリと焼けるような不快感をおぼえたことはありませんか?
この症状は「胸焼け」と呼ばれ、近年では食生活の欧米化や運動不足、ストレス社会などを背景に急増していると言われています。

胸焼けは一時的な症状として現れることもありますが、慢性化すると深刻な健康問題に発展することもあるため、軽視はできません。また、胸焼けは高齢になるにつれて起きるリスクが高まるため、現在症状が現れていない人であっても、その基礎知識について学んでおくことは大切です。

今回は胸焼けの原因や対策、予防法などについて解説をしていきます。

胸焼けとは

胸焼けとは、みぞおちや、みぞおちの上の胸の辺りに灼熱感(チリチリと焼けつくような感じ)を覚える症状です。感じ方には個人差があり、下から上に向かって胸が熱くなるような感覚があったり、みぞおち付近に針で刺されたような痛みを感じる人もいるようです。

一般的な発生メカニズムとしては、胃から逆流した胃酸が食道の粘膜を刺激して、炎症を生じさせることで起こります。食生活の不摂生などから一時的に発生する場合もあれば、症状が長引いて病気として現れる場合もあります。

胸焼けに関係する代表的な病気としては「胃食道逆流症」が有名です。胃食道逆流症とは、胃酸や食べたものが胃から食道へ逆流することによって起こる病気の総称です。胃食道逆流症には、「逆流性食道炎(びらん性胃食道逆流症)」や「非びらん性胃食道逆流症」という病気が含まれます。

【逆流性食道炎(びらん性胃食道逆流症)】
・胃酸の逆流によって食道の粘膜が傷つけられ、びらん(ただれ、炎症など)ができている状態です。
・多くの場合、胸やけなどの症状を伴いますが、稀に症状がないものもあります。
・逆流性食道炎は、自然治癒することは少ないと言われています。

【非びらん性胃食道逆流症】
・食道にびらんがないにもかかわらず、胸焼けなどの症状が現れている状態です。
・胃酸の逆流があるものと、ないものとに分かれ、逆流のないものは「機能性胸焼け」と呼ばれることもあります。

胸焼けを治療するために受診する人の多くは、上記のような病名で診断されることが多いようです。

胸焼けが軽視できない理由

胸焼けは、一時的な症状として軽視されがちですが、症状が長引いたり、強くなることもあります。そのような状態を放置していると、逆流性食道炎をはじめ下記のような病気に繋がる可能性があります。

また、仮に病気に繋がらなかったとしても、胸焼けは多くの活動に影響を及ぼすため、QOL(生活の質)や仕事の効率を低下させてしまう可能性もあります。

胸焼けは、病気のサインや前兆として現れている場合もありますので、症状に異常を感じたら、早めに医療機関を受診して、適切な診断と治療を受けるようにしましょう。

食道腺がん

長引く胸焼けを放置していると、食道の粘膜(扁平上皮)は、胃酸が引き起こす炎症によって胃の粘膜(円柱上皮)に置き換わったように変化することがあります。これを「バレット食道」と言います(一度バレット食道になると、元の状態に戻ることはありません)。バレット食道は、食道がんの一つである「食道腺がん」の発症リスクを高めます(健常者と比較して発症リスクが30~60倍も高まると言われています)。

逆流性誤嚥性肺炎

胸焼けを感じている状態では、「逆流性誤嚥性肺炎」を起こす可能性があります。逆流性誤嚥性肺炎とは、逆流してきた胃酸や胃の内容物などを誤嚥(ごえん)[※]して、それらが気管から肺に入った結果、引き起こされる肺炎のことをいいます。飲み込む力が弱くなった高齢者に多く見られ、睡眠中におこりがちです。

※. のみ込んだものが食道に入るのではなく、誤って気管に入ること。

特発性肺線維症

特発性肺線維症は多因子疾患のため、さまざまな原因で起こりますが、胃食道逆流症が原因で起こることもあります。その場合の発生メカニズムとしては、まず逆流した胃酸が誤嚥によって肺に入り、肺胞[※]が損傷します。損傷の修復過程では、線維芽細胞が活性化され、コラーゲンなどの線維成分を過剰に産生することになります(肺の線維化)。こうなると、肺が膨らみにくくなり、酸素を十分に取り込めなくなります。その結果、呼吸困難、咳、疲労感などの症状が現れ、重症化すると、呼吸不全に至ることもあります。

※. 肺を構成している柔らかくて小さな袋のこと

頭頸部で起きる病気

逆流した胃酸が咽頭にまで到達すると、頭頸部に病気を引き起こすことがあります。たとえば、咽頭炎、喉頭炎、咽喉頭炎のほか、副鼻腔炎や口内炎、酸蝕症状[※]などが挙げられます。また、睡眠中に胃酸が頭頸部にまで上がってくると、鼻を通じて耳の方にまで流れてしまうことがあり、その場合には中耳炎が引き起こされることもあると言われています。

※. 歯のエナメル質が溶ける症状のこと。

QOL(生活の質)の低下

胸焼けはQOL(生活の質)を大きく低下させることがあります。その大きな理由は、以下のとおりです。

【睡眠が阻害される】
睡眠中は胃酸の逆流が起きやすい体勢になっているため、夜中に胸焼けを起こして目が覚めることがよくあります。これが繰り返されると睡眠不足に陥り、ストレスが蓄積したり、日中の集中力が低下することになるのです。ストレスの蓄積は、さらなる胃酸の分泌や逆流を招くだけではなく、人間関係に悪影響を与えることもあります。また、集中力の低下は仕事や勉強などに悪影響を与えます。

【栄養が不足する(偏る)】
胃酸の逆流による不快感から、食欲が減退してしまう人もいます。食欲が減退すると、栄養が不足したり偏ったりするため、体調や美容によくありません。また、栄養の不足や偏りは、睡眠の質にも影響を及ぼすことがあります。睡眠の質が低下すると、上記のようなデメリット(睡眠不足による悪影響)が現れるため、やはりQOLは低下してしまいます。

胸焼けが起きる主な原因

胸焼けの原因は意外と多くあります。
主な原因は以下のとおりです。

下部食道括約筋の緩み

下部食道括約筋は胃と食道の境目にある筋肉です。胃酸の逆流を防ぐストッパー(弁)のような役割があるため、この筋肉が緩むことで胃酸などが逆流しやすくなります。緩む原因は、老化、特定の薬の使用[※1]、過食による胃酸の過剰分泌、高脂肪食品の摂取[※2]」などが挙げられます。

※1. 高血圧の治療に使用されるカルシウム拮抗薬や、気管支喘息の治療に使用されるβ刺激薬、テオフィリンなど。
※2. 高脂肪食品を摂ると、下部食道括約筋を緩める作用を持つ「コレシストキニン」というホルモンが、十二指腸から分泌されます。

食道裂孔ヘルニア

食道裂孔とは、胸とお腹を隔てる横隔膜に開いている食道が通る穴(孔:あな)のことです。通常、この穴の大きさ(径)は、食道がギリギリ通れるくらいです。しかし、加齢などによって食道裂孔が緩む(拡がる)と、胃の一部が横隔膜の上に飛び出してきます(これを「食道裂孔ヘルニア」といいます)。すると、下部食道括約筋のしまりが悪くなって逆流が増えます。また、逆流したものを胃へ押し戻すのにも時間がかかるようになるため、食道の炎症が悪化しやすくなるのです。

食道の知覚過敏

食道の胃酸に対する知覚が過敏になっていると、少量の胃酸や酸性度の低い胃酸でも胸焼けが起こることがあります。食道の知覚過敏が起こる原因にはストレスが関係していると考えられています。

ピロリ菌の除菌

1970年代までは、日本人のほとんどがピロリ菌に感染していました。胃にピロリ菌がいると胃炎が起こり、胃の元気がなくなるため、胃酸の分泌が抑制されます。この状況を改善するため、近年、ピロリ菌の除菌治療が大きく進められました [※]。その結果、多くの人は胃の健康を取り戻し、胃酸をしっかりと分泌できるようになりましたが、中には胃酸の分泌が増えすぎて逆流を起こし、胸焼けの症状を訴える人も現れました。

※. 2013年、厚生労働省の承認により「ピロリ菌除去治療」の保険適用が拡大され、多くの人が除菌治療を受けやすくなりました。

食べすぎ

食べすぎは胃酸の過剰分泌を招き、下部食道括約筋が緩む原因になります。また、物理的に胃が膨らむため、胃の入り口付近が引っ張られて開きやすくなり、逆流が起きやすくなります。

早食い

早食いをしている人は、食べ物をよく噛まずに飲み込みます。十分に噛まずに飲み込むと消化に時間がかかり、その分だけ胃酸の分泌時間が長くなってしまいます。また、早食いの最中にたくさん空気を飲み込むと、ゲップがたくさん出ます。ゲップがたくさん出ると、食道に悪い影響を及ぼす恐れがあるのです。

高脂肪食品の摂りすぎ

高脂肪食品を摂取すると、十二指腸から下部食道括約筋を緩めるホルモン「コレシストキニン」が分泌されます。また、脂肪は5大栄養素の中で最も消化が悪い栄養素のため、胃酸の分泌が増えることになります。さらに、高脂肪食品の摂りすぎはカロリーの過剰による肥満を招き、その結果、腹圧が高まって胃酸の逆流が起きやすくなると言われています。

刺激物の摂りすぎ

炭酸飲料は腹圧を上昇させるだけでなく、ゲップも出やすくなり、それによって逆流が起こりやすくなります。アルコールは下部食道括約筋を緩め、食道の蠕動運動を低下させて胃酸の逆流を引き起こします。塩分や糖分が多い食事は、食道の粘膜が接する液体の浸透圧が高まり、食道が刺激されて胸焼けが現れます。酢やオレンジジュースなどの酸っぱいものは、胃液の分泌を過剰にし、空腹時に摂ると逆流を引き起こします。この他、カフェインや激辛の香辛料、やけどするほど熱々の飲食物なども、胸焼けの原因になることがあるようです。

食後すぐの就寝

食べたものが消化されるまでの時間は、おおよそ3~4時間です(何をどれくらい食べるかによって前後します)。食後3~4時間以内に就寝した場合、胃の中に残っている未消化の食べ物が逆流する可能性が高まります。また、体が横になった状態になるため、逆流した胃酸や食べ物が食道にとどまり、食道に炎症が起きやすくなります。

悪い姿勢

前かがみの姿勢(デスクワーク、スマホいじり、草むしりなど)や猫背、加齢(骨粗しょう症)による腰曲がり状態は、腹圧を高めて胃を圧迫します。すると、下部食道括約筋が押し広げられて胃酸が逆流しやすくなります。また、悪い姿勢を続けていると、呼吸が浅くなり、横隔膜の動きが小さくなります。動きが小さくなると横隔膜は柔軟性を失って硬化するため、下部食道括約筋の働きをサポートできなくなってしまうのです。

肥満

腹部に内臓脂肪がたまって肥満になると、腹圧が高まり胃を圧迫するため、胃酸が逆流しやすくなります。また、肥満の人の多くはノドの周辺にも皮下脂肪がつきやすく、それによって上気道が狭くなって、睡眠中に呼吸が止まりやすくなります(閉塞性の睡眠時無呼吸症候群)。睡眠中に呼吸が低下したり停止したりすると、胃酸が逆流しやすくなります。

糖尿病

糖尿病の人は、その合併症として「糖尿病性神経障害」を起こしやすいと言われています。この障害が起きると、末梢神経が傷つけられるだけではなく、食道の蠕動運動機能(胃に送り出す機能)も低下するため、逆流したものを胃に送り返すことが十分にできなくなります。また、唾液の分泌も減少するため、逆流した胃酸を十分に中和できなくなり、食道が炎症しやすくなります。

胃の切除手術

胃の切除手術を受けた人は、胃液や胆汁などが食道に逆流しやすくなるため、後遺症として胃食道逆流症になることがあります。この場合の胃食道逆流症は、「術後食道炎(術後逆流性食道炎)」と呼ばれます。

締めつける服装

ベルトをきつく締めたり、細身のズボンをはいていると、腹圧が高まり、胃酸が逆流しやすくなります。また、腰痛対策としてのコルセットや、下半身のシルエットを補正するガードルなども腹圧が高まる恐れがあるため、注意した方がよいでしょう。

喫煙

吸い込んだタバコの煙は食道を刺激するだけではなく、下部食道括約筋の働きも弱めると言われています。また、喫煙をすると胃酸の分泌量が増え、唾液の分泌量が減ります。唾液には胃酸を中和する働きがあるため、分泌量が減ると、胃酸の逆流による食道のダメージを抑えることが難しくなります。

ストレス

ストレスは、下部食道括約筋の機能を低下させるため、胃の入口である「噴門」の締まりが悪くなり、胃酸や胃の内容物の逆流が起こりやすくなります。また、ストレスが強まると、消化管を保護する粘膜の分泌量が低下するため、食道の胃酸に対する抵抗力も低下して、胸焼け症状を悪化させます。

脳と神経のネットワーク異常

近年急増している機能性胸焼け(胃酸の逆流がない非びらん性胃食道逆流症)は、脳と神経のネットワーク異常が原因として考えられています。このネットワーク異常が起きると、たとえば熱湯に触れていなくても、脳が熱さや痛みを感じることがあるそうです。機能性胸焼けでは、胃酸が逆流しておらず、食道の炎症もないのに、脳に誤った情報(胸焼け症状)が伝えられていると考えられています。

便秘

便秘は、逆流性食道炎と深い関連性があると言われています。便秘によって腸内に便がたまると、腸内が交通渋滞のような状態になり、腸につながっている胃への圧も高まります。その結果、胃酸が逆流しやすくなるのです。

«後編へ続く»


参考文献

しおや消化器内科クリニック「逆流性食道炎」

https://www.shioya-clinic.com/disease/reflux_esophagitis/

仙台消化器・内視鏡内科クリニック「バレット食道」

https://www.sendai-naisikyou.jp/barretts/

小笹歯科診療所「誤嚥性肺炎」

https://ozasa-dentist.com/treatment/goen.php

J-STAGE「西山耕一郎|在宅で経口摂取を続けるためには」

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcr/29/2/29_206/_html/-char/ja

シオノギ製薬「肺について」

https://wellness.shionogi.co.jp/IPF/lung.html

シオノギ製薬「特発性肺線維症(IPF)について」

https://wellness.shionogi.co.jp/IPF/about.html#about

日清製粉グループ「ウェルナビ|睡眠に役立つ-快眠食材-とは?」

https://www.nisshin.com/welnavi/magazine/lifestyle/detail_014.html

ながくて西クリニック「専門医が語る病気の知識(胃食道逆流症と生活習慣の改善)」

https://www.nagakute-nishi.com/column/gerd_improve.html

上星川ファミリークリニック「逆流性食道炎」

https://www.kamihoshikawa.clinic/reflux-esophagitis/

サワイ健康推進課「逆流性食道炎とは? 原因と症状を知って、正しく治療しよう」

https://kenko.sawai.co.jp/prevention/201410.html

株式会社 リージャー「ピロリ菌の除菌について保険適用範囲が拡大されました」

https://www.leisure.co.jp/leisurenow/2013-02-25-1.html

髙橋内科医院「バレット食道と言われたら」

https://www.takahashi-naika.com/barrett-esophagus/

厚生労働省「e-ヘルスネット|アルコールの消化管への影響」

https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-010.html

大原薬品工業「けんこう名探偵|ワン太郎が教える「健康のヒミツ」vol.3」

https://www.ohara-ch.co.jp/meitantei/vol03_1.html

バムルンラード病院「胃食道逆流症について知る」

https://www.bumrungrad.com/jp/health-blog/august-2023/navigating-gastroesophageal-reflux

ティーペック株式会社「胸焼けがつらい 逆流性食道炎の症状と予防法」

https://www.t-pec.co.jp/health_news/2024-02/

AERA dot「胃酸が逆流して胸焼けを起こす人が増加 粘膜が炎症を繰り返すと「がん」になる恐れも(3ページ目)」

https://dot.asahi.com/articles/-/65340?page=3

書籍「逆流性食道炎は自分で防ぐ」池田書店 出版

雑誌「壮快(2019年8月号)」ブティック社 出版

雑誌「壮快(2021年3月号)」ブティック社 出版

雑誌「壮快(2022年11月号)」ブティック社 出版

雑誌「ゆほびか(2021年1月号)」ブティック社 出版

雑誌「わかさ(2020年12月号)」わかさ出版 出版

雑誌「週刊現代(2019年6月15日号)」講談社 出版

雑誌「きょうの健康(2019年5月号)」NHK出版 出版

雑誌「きょうの健康(2022年11月号)」NHK出版 出版