毎日の発酵習慣で腸内フローラを整えよう！
皆さんが毎日摂っている食事に「発酵食品」は含まれていますか？
もしも含まれていないなら、皆さんは損をしているかもしれません。なぜなら発酵食品は、心身の健康を強力にサポートする食品だからです。
発酵食品を摂ると、腸の内側に形成されている腸内フローラが整い、腸が元気になります。腸が元気になると、食べたものがしっかり吸収され、お通じが改善され、感染症にかかりにくくなり、メンタルも安定します。こんなにもメリットがある発酵食品を、食事に取り入れないなんて、本当にもったいないことです。
今回は腸内フローラの基礎知識や、発酵食品の重要性などについて解説していきます。
目次
そもそも「腸内フローラ」とは？
腸内フローラとは、腸内に生息するたくさんの細菌の集合体のことです。
腸の内側の壁には、膨大な数の腸内細菌がびっしりと敷き詰められていて、種類ごとにまとまりを作っています。その様子がお花畑（フローラ）のように見えることから、「腸内フローラ」と名付けられました（正式名称は「腸内細菌叢（ちょうないさいきんそう）」）。
腸内細菌の種類や数量は諸説ありますが、現在では1000種類以上、1000兆個以上との見方が有力になりつつあるようです。
そして、それらの腸内細菌は、以下の3つのグループに大別されます。
| 善玉菌 | 主に健康に良い影響を与える菌（ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌 など） |
| 悪玉菌 | 主に健康に悪い影響を与える菌（ウェルシュ菌、ブドウ球菌、大腸菌（有毒株）など） |
| 日和見（ひよりみ）菌 | 優勢な菌に味方する菌（バクテロイデス、連鎖球菌、大腸菌（無毒株） など） |
腸内細菌は胎児の時点では腸内に存在せず、出生時に母親の産道を通る際に、口から受け継がれます。そして、新生児から乳幼児期の間に大きく発達し、3歳頃までに腸内フローラの組成（どのような菌で構成されるか）は、ほぼ決定すると言われています。
この時に決定した腸内フローラの組成は、人種や民族による傾向はあるものの、一人ひとり異なっていて、同じものはありません。ただし、善玉菌、悪玉菌、日和見菌といった大別されたグループで見た場合、一般的な目安となる組成比率は、以下のようになっています。
「善玉菌：悪玉菌：日和見菌」＝「2：1：7」
この比率において、注目すべきは「悪玉菌が少しだけ存在している状態」と、「善玉菌の方が悪玉菌よりも多い状態（善玉菌優位の状態）」の2点です。
悪玉菌は完全にいない方がよいと思われがちですが、実はある条件下では悪玉菌も良い働きをすることがあり、重要な役割を担っています。そのため、一定数は存在していた方が、体は健康状態を維持しやすいのです。
ただし、その数は善玉菌の数を上回ってはいけません。「2：1：7」という絶妙なバランスを保つことが、ポイントとなります。
一方、「バランス」の他に「多様性」という要素も、腸内フローラにとって重要です。たとえば、上記のバランスが保たれていたとしても、善玉菌の種類が1種類だけだと良い状態とはいえません。ある研究では、腸内に生息している細菌の種類が多い人ほど、健康だったという報告もあるようです。
つまり、腸をはじめ、全身の健康を維持するためには、腸内細菌の「バランス」と「多様性」を保つことが、とても重要なのです。しかし、この二つの要素は、生活習慣の乱れや食生活の乱れ、食品添加物の摂取、抗生物質の使用などによって、簡単に崩れ、場合によってはなかなか元に戻らないこともあります。また、善玉菌の数は年を取るごとに減少する傾向があるため、生涯健康に過ごすためには、意識的な取り組みが必要なのです。
なぜ腸内フローラが重要なのか
腸内フローラは、以下のような役割を担っています。
免疫力を強化する
腸内に存在するさまざまな免疫細胞と密接に相互作用し、免疫システムの発達と維持に貢献しています。
精神状態を良くする
幸せホルモン「セロトニン」の合成を促し、精神状態（脳）に良い影響を与えます。
消化吸収を補助する
胃で消化されない食べ物（食物繊維やオリゴ糖など）の消化を助け、短鎖脂肪酸などの栄養素を効率よく吸収できるようにします。
便を排出しやすくする
セロトニンの合成や短鎖脂肪酸の生成を通じて、腸の蠕動運動を活性化させます。
ビタミンを産生する
一部のビタミンKやビタミンBは、腸内細菌によって作り出されます。
また、腸内フローラのバランスが乱れると、以下のような不調や病気が引き起こされる可能性があります。
| 消化器系のトラブル | 下痢、便秘、過敏性腸症候群 など |
| 免疫系の疾患 | 花粉症、アトピー性皮膚炎、炎症性腸疾患 など |
| 生活習慣病 | 肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症 など |
| 精神疾患 | うつ病、不安 など |
| その他 | 歯周病、多発性硬化症、口臭、体臭、肌荒れ、膨満感、おなら、ゲップ など |
このように、腸内フローラは単に腸の健康を左右するだけではなく、メンタルも含めた全身の健康に影響を与えているのです。
発酵食品が腸内フローラを整える理由
発酵食品には、腸内フローラを整えるのに役立つ細菌や成分が含まれています。
含まれている細菌には、乳酸菌やビフィズス菌などが挙げられます。これらの細菌は、腸に届くと「プロバイオティクス」として機能します。
プロバイオティクスとは、腸内で有益な働きをする細菌のことで[※1]、一時的に腸内にとどまって、善玉菌の数を増やすことで、腸内フローラを整えます。
一方、発酵食品には、「プレバイオティクス」として働く成分も含まれています。
プレバイオティクスとは、腸内に生息している善玉菌のエサとなる成分のことで、食物繊維（主に水溶性食物繊維）やオリゴ糖などが挙げられます。
これらの成分は、善玉菌の増殖を促進することで、腸内フローラを整えるのです。
また、プロバイオティクスとプレバイオティクスの両方を同時に摂取することを、「シンバイオティクス」と言います。たとえば味噌汁の場合、味噌に含まれる乳酸菌と、具材（ワカメやタマネギなど）に含まれる水溶性食物繊維を組み合わせることで、シンバイオティクスとして働かせることもできるのです。
こういった組み合わせ食品をたくさん摂ることで、より効果的に腸内フローラを整えることができます。
さらに、この他にも腸内フローラを整える要素があります。それは、プロバイオティクス（善玉菌）がプレバイオティクス（食物繊維など）を分解・発酵する際に生成される「代謝産生物」です。代表的な代謝産生物には、乳酸や短鎖脂肪酸[※2]などが挙げられます。そして、それらの中には以下の働きを持つものもあり、腸内フローラをより健康な状態へと導いてくれます。
・腸内を弱酸性に保ち、悪玉菌の増殖を抑える
・強い殺菌作用があり、悪玉菌の増殖を抑える
・腸粘膜細胞のエネルギー源となり、腸のバリア機能を強化する
・腸の炎症を抑える
※1. 有用な菌を含んだ「食品」や「製剤」、または「アプローチ」などを指す場合もあります。
※2. 短鎖脂肪酸 ＝（酪酸・酢酸・プロピオン酸など）
代表的な発酵食品
発酵食品は古くから世界中で作られており、日本だけでも種類数はたくさんあります。その中でも比較的入手しやすい発酵食品は、以下のものが挙げられます[※1]。
納豆・・・納豆菌
キムチ・・・乳酸菌
ヨーグルト・・・乳酸菌、（ビフィズス菌）
ぬか漬け・・・乳酸菌、酪酸菌
味噌・・・乳酸菌、（酪酸菌）
ナチュラルチーズ[※2]・・・乳酸菌、（酪酸菌）
ただし、市販の発酵食品の多くは、加熱処理などを行っているため、特に明記がされていない限り、プロバイオティクスは含まれていない（または、含まれていない可能性がある）と指摘する専門家もいます。
※1. 丸カッコの表記は「製品によって含まれるものもある」という意味です。
※2. カマンベールチーズやブルーチーズなどのこと。一方、プロセスチーズは加熱処理を行うため、生きた細菌は含まれていないと言われています。
“発酵習慣”を続けるコツ
発酵食品のプロバイオティクスとしての働きは、一時的なものが多いと言われています。そのため、一度に大量に摂るよりも、毎日少しずつでもいいので「摂り続けること（発酵習慣を続けること）」が大切です。
発酵習慣を続けるコツは、大きく2つあります。それは「摂ることを忘れないこと」と「明らかな効果を実感すること」です。
まず、摂ることを忘れないようにするためには、以下のような取り組みがオススメです。
発酵食品の置場を変える
例えば、冷蔵庫を開けた時に、すぐに発酵食品が目に入るよう、なるべく手前に置いておく
メモを使う
冷蔵庫の取っ手や箸立て、よく使用する食器などにメモを貼っておく
専用の食器を使う
・お皿や器を「ディバイドプレート」に替え、発酵食品を盛り付ける場所を決めておく
・おちょこやエッグカップなど購入し、それを毎回の食事で定位置に置いて使用する
次に、明らかな効果を実感するためには、以下のような取り組みがオススメです。
自分に合う発酵食品を見つける
・2週間ほど同じ発酵食品を食べ続け、お腹の調子や体調を観察する
・闇雲に摂るのではなく、自分に合うものを探しながら摂ること
添加物をさける
・市販の発酵食品には、腸内細菌を殺してしまう添加物が使われていることが多い
・成分表示を見て選別するか、自分で作るかして、添加物をさけること
しっかり発酵されたものを摂る
・発酵（熟成）期間が長いものを選ぶ（味噌の場合、1年ほど発酵させたものがよい）
・速成の発酵食品は、発酵の不足を補うために、たくさんの添加物が使用されることがある
発酵習慣のメリット
発酵習慣を続けて、腸内フローラが整うことで得られるメリットは、上項（「なぜ腸内フローラが重要なのか？」）でも触れたとおり、とても多くあります。
おなら、ゲップ、膨満感がおさまり、栄養の吸収が促進され、肌荒れが改善され、お通じも良くなります。また、腸には全身の免疫機能の約7割が存在しているため、腸内フローラが整うことで、免疫もしっかりと働くようになるのです。さらに、発酵習慣を続けて腸内フローラが整うと、脳（メンタル）の調子も良くなります。
このことは、近年明らかにされた「脳腸相関」理論で詳しく説明されていますが、概略を説明すると以下のようになります。
・腸の状態が良くなると、脳の状態も良くなる
・脳の状態が良くなると、腸の状態も良くなる
・腸の状態が悪くなると、脳の状態も悪くなる
・脳の状態が悪くなると、腸の状態も悪くなる
つまり、脳と腸は「双方向の関係性」があり、どちらかの状態がもう一方の状態に大きく影響するのです。
もし皆さんが、ストレスに悩まれているのであれば、その原因（ストレッサー）を潰すことだけに注力するのではなく、腸内フローラを整えることにも注力した方がよいかもしれません。
以下の記事では、脳腸相関について詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
【脳腸相関とは？脳と腸の関係性について解説】
https://www.nihon-trim.co.jp/media/30283/
さいごに
発酵食品は腸内フローラを整えて、たくさんのメリットをもたらします。
しかし、いくら発酵食品の摂取がたくさんのメリットをもたらすからと言って、そればかりを集中的に摂っていると、逆効果をもたらす可能性もあります。当然ですが、心身の健康は、発酵食品だけで作られているわけではありません。肉や野菜、良質な油などの摂取も必要で、バランスのいい食事の中に、発酵食品を取り入れることが重要です。
また、食事において気を付けなければならないのは「食べ物」だけではありません。「飲み物」も腸内フローラや健康に、大きく影響を及ぼします。人工甘味料などの添加物がたくさん使用されているジュースなどは、その典型といえるでしょう。
食生活の改善においては、食べ物だけでなく、飲み物にも気をつけるようにしましょう。
参考文献
大鵬薬品「どっさり1Kg以上もの菌？「腸内細菌」って何ですか｜ウンチから、腸内環境がわかる！」
https://www.taiho.co.jp/kenko/otayori/chounai01.html
宇津救命丸株式会社「腸内フローラは3才までで決まる？こどものおなかを整えて腸内の平和を取り戻そう！」
https://www.uzukyumeigan.co.jp/health-advice/intestinal_flora/#i-3
大正製薬「腸のエイジングケア」
https://www.taisho-kenko.com/special/well-aging/stomach/
大正製薬「腸活ナビ｜幸せホルモンは脳と腸、どちらでつくられる？～脳腸相関について～」
https://brand.taisho.co.jp/contents/chokatsu/057/
江崎グリコ「健康のために、腸内の善玉菌を多い状態にしておきましょう！」
https://www.glico.com/jp/health/contents/onakazatsugaku/
シンバイオシス・ソリューションズ株式会社「SYMGRAM｜病原菌やウイルスから体を守る腸管免疫系」
https://symgram.symbiosis-solutions.co.jp/column/0009
ヤクルト中央研究所「難消化性 - 健康用語の基礎知識」
https://institute.yakult.co.jp/dictionary/word_6745.php
いそだ病院「連載10 腸内細菌の働きについて」
https://www.isoda.or.jp/3177
帝人株式会社「ビオリエ｜腸活に欠かせない！短鎖脂肪酸の効果とは」
https://biolier.jp/column/chokatsucat/column90/
福岡天神内視鏡クリニック「腸内細菌の多様性とは？多様性の高め方とメリットを解説」
https://www.fukuoka-tenjin-naishikyo.com/knowledge/post-18521/
オムロン ヘルスケア「腸内細菌の乱れによって起こる過敏性腸症候群」
https://www.healthcare.omron.co.jp/resource/column/topics/104.html
SYMGRAM「アレルギーと腸内細菌」
https://symgram.symbiosis-solutions.co.jp/column/0015
日本赤十字社医療センター「炎症性腸疾患」
https://www.med.jrc.or.jp/tabid/802/Default.aspx
理化学研究所「悪玉脂質を産生する腸内細菌が肥満を悪化させる」
https://www.riken.jp/press/2023/20230118_1/index.html
J-STAGE「尾崎博など｜腸内フローラと生活習慣病：高血圧症の新たな病態生理を探る」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/157/5/157_22035/_article/-char/ja/#
日経バイオテクONLINE「社会実装に向かう精密栄養学：大麦の健康効果を予測する機械学習モデル」
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/column/16/052700070/090600034/
熊本大学「腸内細菌が血糖値・血中脂質に影響するメカニズムを解明～腸内細菌を標的とした代謝疾患の治療に期待～」
https://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20180130
新潟大学「肥満が歯周病を悪化させる仕組みを解明－腸内細菌は歯周病に影響を与える」
https://www.niigata-u.ac.jp/news/2021/88901/
サイエンスポータル（科学技術振興機構）「悪玉脂質をつくる腸内細菌が肥満や高血糖を悪化 理研が仕組み解明、新たな治療に道」
https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20230125_g01/index.html
ヤヱガキ醗酵技研株式会社「プレバイオティクスとは？特徴や魅力、最適な摂り方を解説」
https://www.yaegaki.co.jp/bio/column/4008/
アリナミン製薬「短鎖脂肪酸とは？腸との関係や短鎖脂肪酸を増やす食べ物についても解説」
https://bio-three.jp/contents/short-chain-fatty-acids.html
森永乳業「ビフィズス菌BB536について」
https://bifidus.jp/about/
森永乳業株式会社「ビヒダス プレーンヨーグルト - ヨーグルト - 商品紹介」
https://www.morinagamilk.co.jp/products/yoghurt/bifidus/88.html
からだ健康サイエンス「腸内細菌が作り出す短鎖脂肪酸のちから～注目される酪酸菌～」
https://alinamin-kenko.jp/yakuhou/feature/intestinalbacteria3/vol01.html
太陽化学株式会社「腸の健康と短鎖脂肪酸の関係性～短鎖脂肪酸を増やす水溶性食物繊維～」
https://www.taiyokagaku.com/lab/health/phgg_pickup05/
mizkan（ミツカン）「短鎖脂肪酸とは？｜善玉菌にうれしい発酵性食物繊維」
https://shop.mizkan.co.jp/blogs/fiber/short-chain-fatty-acids
味噌玉造りの萬年屋「味噌玉の仕込み 4 ＜酪酸菌入り味噌＞」
https://mannenya.ne.jp/blogs/all/味噌玉の仕込み-4-酪酸菌入り味噌
チバニアン兼業農学校「酪酸菌が含まれる食品を食べよう」
https://chibanian.info/20240422-196/
ELLE gourmet [エル・グルメ]「プロバイオクティクスが含まれる（可能性が高い）発酵食品10」
https://www.elle.com/jp/gourmet/gourmet-healthyfood/g42174451/healthy-probiotic-foods-23-0201/
Women's Health「プロバイオティクスってどんなもの？」
https://www.womenshealthmag.com/jp/wellness/a64336/probiotics-20170630/
総合南東北病院「腸の老化について」
https://www.minamitohoku.or.jp/kenkokanri/200706/tyou.htm
朝日新聞Reライフネット「第6回 ビフィズス菌の減少が、腸老化のサインです」
https://www.asahi.com/relife/article/14560520
動画「上松正和のYouTubeクリニック｜「腸と体を守る腸内細菌」〜免疫の訓練、栄養の補給、育てるコツは食物繊維 〜」
https://www.youtube.com/watch?v=Uq6SrXjzhug
書籍「今日からはじめる菌活習慣」金丸絵里加 著10ページ
書籍「髪も肌もどんどん艶めく腸のお掃除」鈴木奈央子 著
書籍「腸内フローラが生み出す究極の健康物質「醍醐（第五段階発酵物質）」とは？」田中保郎 著
書籍「大便革命」辨野義己 著
書籍「大便力」辨野義己 著
書籍「腸内フローラ（医者いらずの驚異の力）」藤田紘一郎 著
書籍「腸をダメにする習慣、鍛える習慣」藤田紘一郎 著
