要約:
馬の胃潰瘍では食欲不振やボディコンディションの低下、疝痛などが引き起こされる。馬の胃液のpHの上昇する要因として、不規則な食餌、ストレス、運動などが知られている。本研究では、サラブレッド種競走馬の消化器症状に対する電解水素水の有効性について評価を行った。大井競馬場において調教されているサラブレッド種16頭を対象とした。電解水素水は、電解水素水整水器(TRIM ION HD-24 K、株式会社トリムエレクトリックマシナリー、日本)にて作製し、1日4回18リットル容器に電解水素水に入れて自由飲水させた。
電解水素水を1ヶ月間飲水させた後、追い切り調教ならびにレース出走前後の食欲スコアを評価した(電解水素群、N=9)。また、コントロールとして水道水を1ヶ月間飲水させて、同様に評価を行った(コントロール群、N=7)。食欲スコアは5段階で記録し、各群の中央値(最大値、最小値)を比較検討した(非盲検試験)。電解水素群では追い切り調教後、一時的にスコア5(5、5)からスコア4(5,2)へ減少したが、追い切り調教後1日目にはスコア5(5,2)へと回復し、その後競馬出走後5日目までスコア5(5、3)を維持した。一方、コントロール(水道水)群では、追い切り調教後、スコア5(5,5)からスコア3(3,2)まで減少し、その後競馬出走後5日目までの間スコア4(4,3)から3(3,2)までの範囲で推移した。電解水素水群に比較してコントロール(水道水)群では、追い切り調教後、追い切り調教後1日目、追い切り調教後2日目、競馬出走後、出走後1日目、出走後2日目、出走後3日目、出走後4日目、出走後5日目において有意に低値を示した(P<0.05)。
以上のことから、馬に電解水素水をあらかじめ1ヶ月前から給与することで、競走馬の食欲低下を予防できることが明らかとなった。これにより、電解水素水は胃内pHを調整して抗酸化作用を維持することで、胃潰瘍に起因する食欲低下を予防することが期待された。
解説:
水道水を飲んだ競走馬群は、追い切り調教(※1)後からレース出走後5日目までの期間において食欲の低下が観察されました。一方で、電解水素水を飲んだ競走馬群はレース本番前後に食欲良好な状態で体調を維持することができました。これは、電解水素水の事前飲用により胃酸濃度の上昇が抑制されるとともに、酸化ストレスや炎症が抑えられ胃粘膜の障害が抑制されたものと考えられます。また他論文のラット試験では水素水が胃粘膜上皮細胞の細胞死を抑制することが報告されています(※2)。このことから、競走馬が電解水素水を事前に飲用することで胃粘膜の抗酸化作用が高まり、胃潰瘍の発生が抑制され食欲低下を予防したと考えられます。
※1:レース3日前に行われる最終調教
※2:Zhang, J. Y., Wu, Q.F., Wan, Y. et al. (2014): World J. Gastroenterol. 14, 1614-1622.
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