2段階細胞形質転換理論では、ガン細胞は最初に主としてDNA損傷によって引き起こされるイニシエーションを受け、それから、形質転換を促進するプロモーションを受ける。マウスのBalb./c 3T3細胞は形質転換によって接触阻害能を喪失するため、形質転換実験に広く使用されている。電解還元水(ERW)は水の電気分解時陰極側で生成するアルカリ性の飲用水であり、健康に良いとされている。ERWは高濃度の溶存水素を含有しており、白金皮膜チタン電極に由来する微量の白金(Pt)ナノ粒子と一緒に活性酸素種(ROS)を消去する。Ptナノ粒子は長期間水溶液中に安定に分散し、水素分子を活性酸素消去能をもつ活性水素に変換する。したがって、合成Ptナノ粒子を含むERWは強い還元水のモデルになる。本論文は初めて合成Ptナノ粒子を添加したERWがBalb./c 3T3細胞の形質転換を抑制することを報告する。ERWは0.002MNaOH溶液をバッチ式電解装置を用いて電解することで作成した。Balb./c 3T3細胞は、イニシエーション物質として、3-メチルコラントレン(MCA)で処理され、次にプロモーション物質としてホルボール-12-ミリステート-13-アセテート(PMA)で処理された。MCA/ PMA誘導形質転換巣の形成は、Ptナノ粒子を添加したERWにより強く抑制されたが、ERWのみ、またはPtナノ粒子のみによっては抑制されなかった。Ptナノ粒子添加ERWはプロモーションのステージを抑制したが、イニシエーションのステージは抑制しなかった。このことから、Ptナノ粒子添加ERWはPMAによって誘導される細胞内ROSレベルの上昇を抑制することが推測された。Ptナノ粒子を添加したERWは化学発癌を抑制する新しい抗酸化物質である。
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