聖路加国際病院、愛仁会 井上病院、疲労科学研究所、理化学研究所、日本トリムの共同研究グループは、電解水透析による重度透析関連疲労感に対する効果とその機序に関する論文をSpringer NatureファミリーのBMC出版社(英国)の「Renal Replacement Therapy」誌に投稿し、2021年10月16日に掲載されました。
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本研究では、慢性維持透析患者に電解水透析を行ったところ、透析翌日まで疲労感の継続している重度疲労の患者の主観的疲労感が8週間経過時には疲労感をほとんど感じないレベルにまで有意に低下していました。またその疲労感の軽減は自律神経機能バランス(交感神経/副交感神経バランス)が改善されたことが一因であることも示されました。
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日本の血液透析療法は世界でもトップクラスの治療成績を誇っています。しかし、生命だけではなくQOL(生活の質)の維持は腎代替療法の大きな課題です。血液透析患者は治療の特性上、間欠的に体液の大きな変動を繰り返し、生体にストレスがかかります。このストレスは患者にとって疲労感として自覚され、QOLを損なう重大な要因となります。特に重度の疲労感は生命予後を悪化させ、また社会復帰を阻害することも報告されています[1]。そこで、抗酸化性が確認されている水素(H2)を含む透析液で行う電解水透析が、重度の疲労感を軽減するか、またその機序を明らかにすることを目的としました。
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(1)電解水透析を始めて8週間後には重度の透析関連疲労感(翌日まで疲労継続)をほぼ消失(図1)(論文から一部抜粋、改変)
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※実質的疲労感有り無しのカットオフ値はオリジナル質問票のROC曲線から求め、VAS値4以上を実質的疲労感有りとした。
*:P<0.05, **:P<0.01(変更前に比べ有意差あり)
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(2)透析疲労感VAS値の低下には自律神経バランスの変化が関連
疲労感アンケートとともに自律神経バランス測定装置による測定を行ったところ、透析日に疲労を感じている患者群では、透析疲労感の低下と自律神経バランス(交感神経/副交感神経)の変化との相関性が示された。このことから疲労感軽減には自律神経バランス変化が関与している可能性が推察された。
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電解水透析は、透析患者の実質的重度の疲労感を8週間でほぼ無しまで低下させた。また、疲労感低減の機序には自律神経バランスが関与する可能性が示唆された。
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本研究では、社会医療法人愛仁会井上病院で通常透析から電解水透析に変更された95人の慢性維持透析患者に対して、電解水透析への変更前、変更2週間後、4週間後、8週間後にアンケート調査と自律神経バランスの測定を行った。
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これまでの電解水透析研究により、電解水透析は総死亡および心血管合併症の複合発生リスクを41%低減すること[2]、血液透析中の酸化ストレスを軽減し抗酸化能を保持することで透析日の透析関連疲労感を2週間で有意に軽減したこと[3]を論文で報告してきた。今回は重度の透析疲労感を、実質的に疲労感を感じないまでに抑制できたことから、透析患者のQOL改善や社会復帰促進に貢献できると期待される。
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仕事をしていない | 内、仕事をしたいが就けていない | 内、理由は体調が悪いから | |
2016年度血液透析患者実態調査報告 ※1 (有効回答数7,191人) |
66.3% | 40.4% | 34.3% |
2019年末の透析患者数344,640人 ※2 に当てはめると |
228,496人 | 92,312人 | 31,663人 |
※1:2016年度血液透析患者実態調査報告(全国腎臓病協議会、日本透析医会、統計研究会の共同調査)16-18ページ
※2:わが国の慢性透析療法の現況(2019年12月31日現在)583ページ 一般社団法人日本透析医学会
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表1は透析患者の実態調査からわかる、透析患者の非就業実態、就業意欲、非就業理由の比率である。それをもとに、電解水透析による就業を後押しできる潜在性を考察すると、電解水透析は最大で31,663人の就業を後押しできる潜在性が期待される。
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本研究は、日本トリムからの研究費により行われました。
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タイトル
「Amelioration of fatigue in chronic dialysis patients with dialysis solution employing electrolyzed water containing molecular hydrogen (H2) and its association with autonomic function balance」
(和訳:分子状水素含む電解水素水を活用した血液透析(電解水透析)による透析関連疲労感の抑制と自律神経機能との関連性)
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共同研究関係者(敬称略)
氏名 | 所属 | URL |
中山昌明 1) | 聖路加国際病院 腎臓内科 | https://hospital.luke.ac.jp/guide/08_nephrology/dr/nakayamamasaaki.html |
辻本吉広 | 社会医療法人愛仁会 井上病院 | https://inoue.aijinkai.or.jp/ |
渡辺恭良 | 理化学研究所 生命機能科学研究センター | https://www.bdr.riken.jp/jp/research/labs/watanabe-y-health/index.html |
倉恒大輔 | 株式会社疲労科学研究所 | https://www.fatigue.co.jp/ |
宮崎真理子 2) | 東北大学大学院医学系研究科 腎・高血圧・内分泌学分野 | http://www.int2.med.tohoku.ac.jp/goaisatsu.html |
西澤良記 | 公立大学法人大阪(研究開始当時井上病院) | https://www.upc-osaka.ac.jp/about/message/ |
樺山繁 3) | 株式会社日本トリム | https://www.nihon-trim.co.jp/research/collaboration/ |
1),2),3) | 東北大学病院慢性腎臓病透析治療共同研究部門(兼任) | https://www.hosp.tohoku.ac.jp/departments/d5000 |
(参考論文)
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